[えひめの伝説〜妖怪編〜]

妖怪・幽霊に姿を変えた愛媛の文化
えひめの伝説〜妖怪編〜
土井中 照
新書判・144P
¥952+税

 子供たちのあいだで「妖怪」が存在感を持っていたのは、いつの時代までだったでしょうか。ほんの一昔前までは、大人が話して聞かせるおはなしを、子供たちは真剣に怖がっていました。灯りのほとんどない夜の闇のなかで起こる不思議なことは、得てして妖怪の仕業となり、まだまだ妖怪の出番がありました。しかし、時代は移ろい、科学が信奉されるようになると、妖怪たちの存在は自然現象や科学的知識で解明され、妖怪は迷信だと断ぜられるようになりました。
 それにつれてかどうかはわかりませんが、各地に残る伝説や民話が次第に失われてきています。こうした物語を伝えてきた人たちが少なくなってきたことに加え、家族団らんの時間が少なくなり、テレビから流れる番組が話の中心となっていることとも無縁ではないと思います。
 たとえ、そういう時間が持てたとしても、親から子へ、祖父母から孫へと民話や伝説が語られることはほとんどなくなってきました。荒唐無稽なものと思われがちですが、伝説や民話には昔の人々の体験や知識、生活の知恵に溢れています。本書に登場する妖怪の物語にも、私たちが継承してきたさまざまな愛媛の文化が潜んでいます。非合理というだけで葬り去られようとしている文化にこそ、これからの時代に必要な豊かさが秘められているのではないでしょうか。文明の発展により到達した薄っぺらな社会に幻滅している私たちは、妖怪の再登場を心のどこかで待ち望んでいるようです。
 そこで本書の登場となります。
 第1章は「川辺・海辺の妖怪」、第2章は「山の妖怪」、第3章は「里の妖怪」、第4章は「えひめの幽霊」としました。
 右のページにはそれぞれに関係する愛媛の伝説や民話を、イラストをふんだんに使って紹介し、左ページには妖怪についての詳しい解説を施しました。こうすることで愛媛の妖怪たちの姿をより深く理解していただくとともに、隠れた愛媛の豊かな文化を知っていただけると考えたからです。
 近年は地方の出版物を見わたしてみても、めっきりと伝説や民話の刊行点数が減っています。そこで、今回は少し発想の転換をし、思い切って「物語」を要約し、一ページもののテキストを300字以内に収めてみました。声にだしてゆっくり読んでも、せいぜい一話45秒です。全58話を1時間足らずで読める計算になります。
 短くすることで豊穣な物語世界が損なわれることも危惧しましたが、私なりに物語のエッセンスをしっかり捉え、ストーリーを際立たせる文章を心がけましたので、実際に声に出して読んでいただければ、短い中にも物語のイメージがくっきりと浮かび上がってくるのではないかと思います。
 ここに取り上げたほとんどの伝説は、市町村史誌を参照しております。さらには、西園寺源透氏、武田明氏、森正史氏、大本久敬氏が著した郷土研究の労作、柳田国男氏、折口信夫氏、小松和彦氏の民俗学者や江戸時代の著作『本朝食鏡』『和漢三才図会』などを参考にさせていただきました。心より感謝いたします。

第1章 川辺・海辺の妖怪

【河童】    ガワラ塚(四国中央市土居)   河童は水の神の凋落した姿である
        河童の狛犬(西予市明浜)    鯛を抱いた河童の狛犬は日本唯一の存在
        エンコの骨接ぎ(今治市来島)  命乞いしたエンコが残したもの
        緑村のエンコウ皿(愛南町城辺) エンコの好きなものと嫌いなもの
        浜嵐とエンコ(今治市伯方)   エンコの相撲好きには理由がある
        安土のカワウソ(西予市三瓶)  エンコは年老いたカワウソが変化したという
        えひめのエンコ伝説/河童誕生秘話
【龍・大蛇】  竜宮淵(久万高原町柳谷)    竜宮行きは現実逃避なのだろうか?
        龍神と漁師(四国中央市三島)  蛇女房を貰うと幸せになれるのか?
        矢田の蛇池(今治市)      水を貰うために我が身を捧げるのは末娘
        うすぐも姫(西条市)      蛇と一緒になった娘の未来はどうなる?
        龍川と大蛇丸(新居浜市)    名刀といわれる由縁は蛇との戦いに勝ったから
        湧ヶ淵(松山市)        川の難所と寺に残された蛇の骨と宝刀
        えひめの龍・大蛇の伝説
【牛 鬼】   加納院の牛鬼退治(大洲市河辺) 南予の牛鬼は愛媛独自のデザインである
        牛鬼と兼吉さん(西条市河原津) 牛鬼伝説は南予を中心に広く分布している
【濡れ女・針女】ぬれおなご(愛南町御荘)    愛媛の濡れ女は、牛鬼と別行動をする
【小豆洗い】  小豆とぎの殺人(愛南町一本松) 妖怪の小豆を洗う音に意味がある
【海の妖怪】  船幽霊(愛媛の海)       愛媛の海は不思議さと妖怪に満ちている
【海の鬼火】  あいぞうの火(松山市北条)   海の仕事に従事する人たちの信仰と怪異
【大ダコ】   タコの足とり(今治市波方)   タコもいつまでもは黙っていない

第2章 山の妖怪

【天 狗】   石鎚の天狗(西条市)      全国に知られた愛媛の天狗は石鎚山に住む
        杣の平四郎(四国中央市三島)  地域のヒーローは天狗も退治する
        戸たてずの庄屋(愛南町一本松) 地方の名家に残る天狗の失敗話
        天狗の小箱(松山市)      天狗が予言したという蒲生家の未来
    日本大天狗番付
        えひめの天狗伝説/日本一の天狗・崇徳上皇
【山爺・山姥】 山爺と山姥(東温市重信)    山爺と山姥は夫婦なのだろうか?
        山姥の人さらい(上島町生名)  山姥が人さらいをすると神隠しになる
        継子と山姥(西予市宇和)    恐ろしい山姥は優しい面も持っている
        山姥の餅つき(久万高原町美川) 里人と仲良くしていた山姥もいる
【山女郎】   山女郎の笑い(久万高原町面河) 山姥の若い時が山女郎なのだろうか?
【サトリ】   深山のサトリ(松山市北条)   サトリに悟られると大変なことになる
【アマノジャク】生木地蔵とお大師(西条市丹原) 愛媛のアマノジャクは弘法大師と敵対している
【ヤマイヌ】  お礼の鹿(四国中央市川之江)  ヤマイヌと里人の交流が伝説になった
        左衛門とヤマイヌ(伊予市)   ヤマイヌから身を守るために必要なこと
【その他の妖怪】ジキトリ ノツゴ ウブメ 夜雀

第3章 里の妖怪

【えひめの狸】 四国に狐がいない理由(松山市) そういえば、四国では狐を見かけない
        八百八狸(松山市)       享保の大飢饉がきっかけの久万山騒動と狸
        『稲生物怪録』って何?
        喜左衛門狸(西条市東予)    狸の化かし方を分類すると
        片目の鯛と狸(今治市桜井)
        お袖狸(松山市)
        伊豫之国狸伝説大番附
        えひめの狸伝説
【首なし馬】  御幸寺山の首なし馬(松山市)  首のない馬は、いつも決まった道を通る
        えひめの首なし馬伝説/妖怪と幽霊の違いとは何だろう? 
【化け猫】   猫又(上島町生名)       猫が人々から恐れられる理由
        大藤谷の化け猫(鬼北町広見)  猫は歳を取ると妖怪に変身する
【蜘 蛛】   金剛滝の蜘蛛(鬼北町広見)   蜘蛛が妖怪と化したのはなぜか?
        食わず女房(松野町)      ケチと女の本性の戦い
【ノガマ】   ノガマ(カマイタチ)
【高坊主】   うとの高坊主(今治市玉川)
        えひめの高坊主伝説
【おおひと】  大人の足跡(今治市朝倉)    巨人の足跡をたどって見えてくるもの

第4章 えひめの幽霊

【ミサキ】   七人ミサキ(伊方町瀬戸)    ミサキと御霊の間に横たわる非業の死
        村芝居のミサキ(伊方町瀬戸)  海で亡くなった人は大きな祟りをなすという
【楠木正成の怨霊】これは大事金蓮寺(松前町)  忠君・楠木正成は魔ものになって剣を奪いに
【六部殺し】  ひじりんくぼ(大洲市長浜)   旅人から金品を奪って長者になったという嘘
【飴買い幽霊】 学信の母の幽霊(今治市)    幽霊が生んだ子供は高僧になる運命だ
【お菊の亡霊】 お菊井戸(松山市)       全国に伝わる皿屋敷とお菊の話
【肉付きの面】 妖鬼の面(西条市小松)     嫁と姑の対立はいつの時代にもあった
【その他の幽霊】幽霊の片袖(新居浜市大島)
        松根の生首(宇和島市)

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