6月23日(日)
 今から5年くらい前のことである。嫁さんと一緒に、博多中州のホテルに泊まった。
 居酒屋でうまい酒と料理を堪能し、酩酊状態でベットに身体を沈めていたら、ふたりとも午前3時ちょうどに目が覚めた。ベッドの近くで女性の呟くような声がする。ホテルの壁伝いに聞こえるほど安普請のホテルではない。何を言っているかわからないが、ぶつぶつと口ごもった声が聞こえるのである。
 普段なら、総毛立つところだが、しこたま酔っていた。頭がぐるぐる廻って、眠りが襲ってきた。
 朝、嫁さんに尋ねると、トイレでも声が聞こえていたそうで、やはり酔いのために、すぐに寝てしまったという。朝食の際、隣りの部屋を確かめると泊っている気配もないシングルルーム。チェックアウトの際、ホテル従業員は、なぜかこちらを見ようとしなかった。泊ったのは幽霊が出る部屋だったのだろうか。
 このホテル、名前は変わったが現在も営業している。
幽霊もTPOを知りなさい
6月24日(月)

 私がまだ大学生の頃。つきあっていた同郷の彼女と同居することになった。京都に置いていた荷物を移動させるため、今治から高速艇で尾道に着き、新幹線で京都へ向かった。
 まず、高速艇が遅れた。新幹線の出発まで5分ほど。港から駅のホームまで懸命に走って、ようやく間に合った。ところが、新幹線も米子で自動車との衝突事故があり、約2時間の遅れが出た。いい気分になれないので、翌日にしようと彼女に提案したが、今日に済ませたいという。
 引っ越しを頼んでいた友だちが急に手伝えなくなったというので、他の友だちにトラックの運転を頼んだ。目的地につくと、彼女が頼んでいた不動産業者が定休日。なんとか連絡をつけ、鍵をもらって荷物を運び込んだ。トラックを返却する時、レンタカー会社のすぐ近くで、タクシーと接触事故を起こした。
 ふたりの生活は、最悪のスタートとなったのである。
 それが理由かどうかわからないが、ふたりは半年ほどで別れた。私は失恋のショックで心を病んだ。
 この日の事故の積み重ねは、守護霊からの警告だったのだろうか。

守護霊が我が身の錆を見せつける
6月25日(火)

 高校生から大学生の時代にかけて、金縛りによくあった。最初のころは、恐怖を感じたのに、馴れてくると、金縛りから解放されるための体勢や方法を考えるようになる。それを実践するころには、恐怖感がどこかに消えてしまう。人間は、学習する動物ということか。
 金縛りの話を体験者に聞くと、頻繁に起る人は、私と同じような行動をとるようだ。人それぞれに方法は異なるが、私はもっぱら指に神経を集中させた。少しでも身体を動かすことができると、身体の自由が取り戻せるのである。
 大学時代、京都の下宿で昼過ぎに寝込んでいると、金縛り状態に入った。金縛りが解けて、身体を横にしてうとうとしていると、また金縛りが襲う。これから逃れ、うつぶせで寝ているとまたまた金縛りだ。これが永久に続くのかと思うと、恐怖が心を満たした。
 社会人になると、金縛りを体験することがめっきり減った。金縛りはレム睡眠時のバランスが関与するといわれるが、金縛りを呼び寄せるのは、社会への対応不安なのかもしれない。

金縛りなければないで心配し
6月26日(水)
 女性は占いが好きである。よく当たる占い師がいると聞けば、遠くても出かける。客観的にみて占いの内容がとても当たっているのに、それを否定する人もいる。自分の望む答えを出してくれるのがよく当たる占い師と評価され、そうした答えが出せるかどうかで占い業の繁盛が左右する。
 うちの嫁さんが独身の頃、三原で「ことりのおじさん」という占い師に運命を見てもらった。「年齢が10歳以上離れた、繊維に関係のある人と結ばれる」という答えだったという。そのあとに現れたのが私で、当時、リゾート事業を始めようとしているタオル会社に雇われていた。占い師の条件にぴったりだったから、私と付き合い始めたかどうかは、聞きそびれた。今でも「原石を磨いて玉にするのは私」と、その時に言われた言葉をよく口にする。
 嫁さんは、「繊維に関係のある人」というので「アパレル業界」に勤めている男と考えたのだが、嫁さんの姉は「タオル屋よ」と予言した。義姉の予言は見事的中。嫁さんよりも義姉の方が、現実的である。
 義姉は数々の占い師の地位をあやうくさせてきた人でもある。ほとんどの占い師の「近く結婚する」との占いを信じず、独身を通してきた。占い師は、この一点で嘘つきになってしまうのである。
能力の霊のことばを零にする
6月27日(木)
 霊の力を借りて未来を判断するのが「拝み屋」さんという人たちだ。いわゆる霊媒師である。四国では、この職業が人びとの生活にとけ込んでいる。
 義姉の友だちの家で不幸が続き、友だち一家揃って四国中央市の拝み屋さんを訪ねた。「水神さんが怒っている。鎮めの石の位置を変えているから石を元の場所に戻すように」とのお告げを受けた。
 確かに、不幸が続いたのは、家の井戸を埋めてからのことである。その時に門を建てたので、石を動かしたことを思い出した。せめて、石だけでも動かそうと、石に手を置いた。すると、石がひとりでにころころと転がり、もとの位置に納まったという。
 そのことを聞いて、私たち夫婦も拝み屋さんを訪れた。ある人物から嫌がらせを受けていたので、どうすればよいかを尋ねた。すると、嫌がらせをする人物は、人の道に外れた獣の相で格も低い。次第に衰弱していくから放っておけばよいという。
 帰りぎわ、「今度は別れるのが難しい」と突然に言われた。私たち夫婦は神代からの結びつきで縁が強いという。私が再婚ということは、ひとことも告げていなかったのだが…。将来、何億も稼げるとも言われているが、億万長者への道はまだまだ遠いようである。
霊と礼心を尽くし慈しむ
6月28日(金)
 ホラーは、ビジュアルが優先する。「リング」貞子の登場で、幽霊のイメージは顔を隠した長い髪の女へと一気に姿を変えた。日本の幽霊に足がないのは、円山応挙の影響だというが、歌舞伎の影響が大きい。「東海道四谷怪談」で幽霊の足を隠した演出が、今までの幽霊の姿を大きく変えたという。
 何本か観ている「四谷怪談」の映画のうち、傑作は中川信夫の「東海道四谷怪談」だ。デカダンスでありながら、堂々とした映画である。タイトルロールは、裸に近い姿の女性(しかも現代)なので、何が始まるのかと思ったら「四谷怪談」なので、驚かされる。制作会社の新東宝が潰れる前だからか、セット費用を抑えるためにスポットライトとアップを多用しているのも、逆に効果的だ。若き日の天地茂が、伊衛門をニヒルに演じているのも微笑ましい。戸板返しの場面は、水(血)の流れが官能的。少ない制作費に負けず、いい映画をつくろうという心意気が画面から伝わってくる。レンタルビデオ店で見つけたら、ぜひとも観ていただきたい。
 ラストに子どもを抱えて昇天するのは、映画の成功を託しているようでもある。似たようなシーンを見たことがあると思って調べてみたら、伊丹十三プロデュース・黒沢清監督の「スイートホーム」であった。
暗闇が恐怖を増幅する時間
6月29日(土)

 40代はじめのころ。頭から、漬け物が腐ったような匂いがしたことがある。会社でも、上司から変な匂いがするから、気をつけるようにとの注意があった。
 こちらは、何の匂いも感じない。まだ一緒に住んでいなかった嫁さんからも、風呂に入っても匂いが取れないと言われた。
 そのころ、仕事がばたばたしていて仏壇に手を合わせていなかった。ある日のこと、仏壇を覗くと、献花の葉が枯れ、仏壇の周りを汚している。供物のリンゴは腐臭を放っていた。そのとき、家に来ていた嫁さんは「あなたの頭と同じ匂いがする」という。うちの母親は、掃除が好きではない。仏壇を放ったらかしにしていたのである。
 ご先祖様が、仏壇の汚れを片付けてくれるように、仏壇の匂いを頭につけたのだろうか。仏壇を掃除してくれというサインが匂いだったのかもしれない。不思議なことに、仏壇を片付けると、徐々に匂いは消えていった。以降、頭から腐ったような匂いがすることもない。ご先祖様を敬い、仏壇をこまめに掃除するのは、大切なことだと思う。

仏壇はあの世とこの世の出入り口
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