7月21日(日)
 「土用」は年に四回あり、立夏、立秋、立冬、立春の前の18日間だが、一般的に「土用」というと夏の土用を指す。「丑の日」は、その期間の間の丑の日で、今年は7月22日と8月3日である。
 土用の丑の日が近づくと、鰻を食べたくなってくる。ビタミンをたっぷり含む鰻が、夏の疲れた身体を癒してくれるのである。
 土用の丑の日に鰻を食べる習慣は、安永・天明(1772~1788)頃に広まったといい、平賀源内が発案したといわれている。夏に売れない鰻を売るため、鰻屋から一案求められた源内が「本日丑の日」と書いて店先に貼ることを奨め、これが評判になって、土用の丑の日に鰻を食べる習慣が定着したという。
 また、丑の日に梅干しや瓜など「う」のつくものを食べると夏バテ防止に繋がるという。
源内にのせられ土用に鰻喰い
7月22日(月)
 今日は、土用の丑の日である。スーパーの店頭や鰻屋では、鰻が美味しい匂いを漂わせる。稚魚のシラスウナギが不漁で値上りし、鰻の値段も「うなぎのぼり」で上がってきた。
 「鵜が難儀する」から「うなぎ」という名がついたとは、落語「薬缶」のくすぐりだが、鰻の名前には定説がない。家の棟木のように長いからとか、胸が黄色い「胸黄(むなぎ)」、身が長い「むなぎ」との諸説がある。由来を眺めると、「鵜が難儀する」という落語のくすぐりが本当のように思えてくる。
 鰻の匂いだけで、白飯を何杯も食べられるというケチな男が登場するのが落語「鰻のかざ」である。店から勘定書が届くが、銭の音で支払うという落ちになる。
「うなぎ屋」という落語では、職人の代わりに鰻をさばこうとする主人が、鰻を捕まえようとするが、捕まえきれない。鰻を掴んだままでうろうろする主人は「どこへ行くのか?」と聞かれると、「行き先は鰻に聞いとくれ」と答える。
店頭で鰻の匂いを嗅ぎまくり
7月23日(火)
 鰻の蒲焼きは、関東と関西で違う。関東風は、背開きで焼いたあとに蒸して再び焼く。関西風は、腹を割いてそのまま焼く。愛媛の鰻は、関西風のものが多く、初めて関東風の蒲焼きを食べたときは、そのさっぱりした柔らかさに驚いたものである。関西風では、鰻の脂が強くなり、大振りの鰻を食べると、ゴムのように感じることもあった。
 関東・江戸は、武士の町なので「腹を切る」ことを嫌ったといわれているが、蒸して身が割れてしまうことを避けるため、背開きにしたというのが本当の理由だ。
 関西では「まむし」という。鰻とご飯を「まぶして」食べることから、「まむし」である。花登筐作のテレビドラマ「細うで繁盛記」で、出てきたように思うが、古いことなので自信がない。
 この名前だと、つい蛇を想像してしまうためか、近年の鰻屋では「まむし」と呼ばれなくなってきた。
食べもので生まれ故郷を判断し
7月24日(水)
 蒲焼きは、ぶつ切りにした鰻の身が蒲の穂に似ているためにその名前がついた。蒲鉾の名前の成立とよく似ている。
 ワサビをつける白焼きもいいが、一般的な鰻料理は蒲焼きだ。蒲焼きの味の決め手となるのは、タレである。蒲焼きに使うタレは、鰻店の財産だ。
 蒲焼きのタレは、醤油に砂糖や酒などを合わせ、じっくり煮込む。ベースのタレに、新しくつくったタレを継ぎ足し、店の味を保つのである。
 タレに焼きあがった蒲焼きを浸し、継ぎ足しながらタレを使い続けると、タレの味は、まろやかに変化する。鰻の脂は、醤油のアミノ酸や肉のタンパク質などと混じりあって乳化するため、タレの酸化を防ぎ、腐りにくくなるのである。毎日毎日、注文の串を漬け込まれるタレは、鰻店の歴史をその味に内含していく。
 醤油の主成分のグルタミン酸は、糖分とともに加熱されるとメイラード反応によって「メラノイジン」が生成される。店に思わず入りたくなるのはこの香りのせいだ。
鰻の脂がタレに絡まり、徐々に風味が加わり、味がまろやかになる。脂の乳化作用で保存効果も加わり、長い時間とともに秘伝のタレができ上がるのである。
年月を経て旨くなるタレと嘘
7月25日(木)

 静岡の名物に「うなぎパイ」がある。鰻の味は余りしないのだが、鰻の骨から取ったパウダーが生地に練り込まれているという。
 土産物で何度かもらったことがあるが、キャッチフレーズの「夜のお菓子」が印象に残る。旅行から帰ったその夜に食べてもらいたいという願いを込めたというが、「鰻」と「夜のお菓子」が組み合わさって、精力増強に役立つというイメージが強い。
 何年か前、「うなぎVSOP」を貰った。「夜のお菓子」ではなく「真夜中のお菓子」である。金色のパッケージを破るとブランデーの香りが漂い、マカデミアナッツがまぶされたパイが顔を出す。高級感もあり、話題づくりのお土産には最適だ。「VSOP」は、ブランデーを含むことからの命名だが、「Very Special One Pattern」の道を突き進んで欲しい。

夜の菓子一夜開けると朝の菓子
7月26日(金)
 愛媛県を流れる目黒川や広見川は、日本最後の清流と呼ばれる四万十川の支流のひとつである。そのためか、鬼北町や松野町には、天然鰻を食べさせてくれる店がある。4年ほど前に、松野町の食堂で天然鰻の蒲焼きを食べたことがある。
 鰻は、「地獄」と呼ばれる筒状の仕掛けを使って獲られるが、近年、捕獲量が減ってきたため、店に行っても食べられないことがある。予約をしておくと、間違いがない。幸い、その際は鰻の在庫があり、天然鰻を食べることができた。
 丼は、2800円(最近の値段は不明)だったと思う。この値段で天然鰻が食べられるのである。小振りだったが、脂が少なく、やや固めで、養殖鰻の柔らかさとは一線を画する。鰻特有の臭みはなく、これが本来の鰻の味だと満足した。ただ、タレの味が強いので、白焼きの方が鰻の味をより深く楽しめるかもしれない。
地獄から抜け出た味は極楽に
7月27日(土)

 鰻の生態は、謎に包まれていたが、日本の南にある世界最深のマリアナ海溝で産卵することが、近年の調査でわかった。成魚に卵を産ませて育てる完全養殖の方法も近年成功しているが、天然のシラスウナギを捕まえて育てる養殖が一般的となっている。
 コストがかかるため、日本以外で養殖されているが、その安全性が危惧されているのも事実だ。中国の養殖場では、発がん性物質や抗生物質、ホルモン剤などが投与されているため、再三輸入禁止になっている。
 販売店は国産をうたっているが、これは本当だろうか? 海外で育った鰻を一定期間国内で育て、国内で加工すれば「国産」を冠することができる。不安を感じたため、大好物の鰻ではあるが、食べるのを控えるようになった。
 しかも、ニホンウナギは今年の2月に環境省のレッドリストで絶滅危惧種に選定されてしまった。そのうち、ニホンウナギ以外の種類が食卓にのぼるかもしれない。いや、どこかで、ニホンウナギの衣裳をまとってすでに登場しているのかもしれない。

見栄えより産地表示を気にかける
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