男は40歳過ぎたら自分の顔に責任がある、ということばがある。40代ともなれば、いろいろな人生経験が自然と顔に滲み出てくる。顔を作るのは生き方なのだから、自分で自分に責任を持てということなのだろう。不思議だが、確かに男、女に関係なく、性格や品性、知性といったものは年齢とともに顔に表れてくる。
本にも顔がある。本の顔とは表紙で、表紙を見れば内容を見なくてもなんとなくどういう本かわかる。逆に言えば、出版社は内容に合わせた雰囲気の表紙を作っているわけで、それに加え、存在を主張する強いインパクトを盛り込んでいる。有名作家のベストセラーならともかく、たいていの本は書店の売場に並ぶたくさんの本の中から、なんとか手に取ってもらおうと目立つ工夫がなされている。表紙の良し悪しは売れ行きを左右するから、当社も表紙デザインは本作りの重要な要素ととらえ、力を入れてきた。
出版社の多い東京には、本のデザイン専門の装丁家とかブックデザイナーがいるが、地方ではグラフィックデザイナーという印刷関係のデザイナーに依頼する。内容を読んでもらってそれにふさわしい表紙を何案か作ってもらい、その中から選ぶ。
表紙というのは本を巻いている表紙カバーのことだと思われているが、カバーを取った時に現れる厚めの紙が表紙である。デザイナーはカバーと表紙、帯をデザインし、表紙カバーとマッチするよう見返しの紙の色や紙の種類も選ぶ。こうして出来上がったトータルな印象が、本の顔になるわけである。
当社の本の場合、どれも一生懸命作ったので甲乙付け難いのだが、ちょっと異色の出来映えになったのは、白石光一さんの『カメラマン目線』。森山大道(もりやまだいどう)が撮った野良犬ほど凄味はないが、悲しげな目をした犬が何か言いたげにこちらを見ていて、写真を通して見た著者の社会観が感じられる。銀色の帯を大胆に使ったデザインは明賀道晴さん、帯のコピーを書いたのは私。
表紙は本作りの最後にするので、出来上がると本に人格ができたようで、「さあ、独りで歩いていけよ」と子どもを送り出すのと同じ気持ちになる。
(2013.1.18掲載) |