東温市の惣河内(そうこうち)神社で、樹齢500〜600年を超えるご神木が何者かによって根元に穴を開けられ、そこから除草剤の成分が検出されたことから、人為的に枯らされたものと見て警察が捜査している、という報道を目にした。長い年月、風雪に耐えてきた木を枯らすとはなんとむごいことよと、私はその映像を見て心が痛んだ。
あるテレビ番組で、この事件についての詳細が報じられ、それを見た私はショックを受けた。それによると、ここ数年、過疎地の神社などで人為的に枯死させられた巨木はほかにもあり、しかも除草剤を注入するために開けられた穴は、表面から4センチの、水を吸い上げる道管までにとどまっていることから、木材に精通した人物の犯行がうかがえるという。このやり方だと、枯れるのは葉や枝だけで幹の中心部には影響がないため、材木としての価値は下がらないことを知っている人間だというのだ。
なぜそんなことをするのか。その理由を聞き、私はさらに仰天した。神社仏閣や城郭などの修復が全国各地で行われているが、年々大径材(たいけいざい)が不足し、価格も上昇し続けていることが背景にあるというのだ。未来に受け継ぐ貴重な文化遺産ということで、さまざまな建築物を取材してきた私は、「もうこんな材は、今では手に入りません」という説明に、「本当に」と相槌を打ってきたが、手に入らなければどうなるのかということにまで想像が及んでいなかった。まさか、文化財修復といった偉業に犯罪が関与するなど、考えもしなかったのである。
文化財の修復は、「オーセンティシティー(真正性(しんせいせい))の原則」といって、元の材と同樹種で同品質、そして同技術で加工されることが望ましいとされている。伝統的な建築技術が伝えられても、元の材に劣らない高品質の木が手に入らなければ、文化財の修復は不可能になりかねないのだ。
こうした事態を受け、国では文化財用の材を確保しようと国有林で木を育てているらしいが、成育には長い歳月がかかるだけに、こうした事件が二度と起きないよう、各方面の英知を結集してほしいものである。
(2013.2.1掲載) |