土井中照さんのこと

 今治市に在住の土井中(どいなか)照(あきら)さんは、当社の売れっ子作家である。最初に、出版をしてくれませんかと松山城に関する原稿を持ってきたときは、まだサラリーマンだった。土井中さんはこのとき、「やきとり天国」など今治の本をすでに3冊も出していて、特に焼き鳥については「今治のご当地グルメとして売り出そう」と、奥さんお手製のニワトリのかぶりものでテレビに出たりして、まちおこしの活動をしていた。
 その後、土井中さんはある事情から脱サラして、フリーライターとして活躍することになり、当社でも「松山城の秘密」「愛媛たべものの秘密」「えひめ名字の秘密」など「秘密シリーズ」のほか、「大洲歴史探訪」「そこが知りたい子規の生涯」など、郷土をテーマに何冊もの本を書いてもらった。
 土井中さんの本の作り方は、大体が見開きで1話という形なので、簡潔でとっつきやすい。いわば、すべてのジャンルについての入門書的な本である。その一方で、いろいろなデータに当たって考察し、短いながら説得力のある内容になっているものもある。「なるほど愛媛の県民性」などがその代表作で、私もこの本を読んで、愛媛人のこういう性質はここにルーツがあったのかと思い至った次第である。自らを「雑学王」という土井中さんは、マスコミにとっても格好のキャラクターなのか、テレビやラジオにもレギュラー出演し、その豊富な知識を披露するようになった。
 世の中には、脱サラして作家になりたいと秘かに思っている人がいて、そういう人にとって土井中さんは憧れの存在かもしれないが、実は、彼には松山の広告制作会社で企画から制作まですべてこなしていたという経験があり、いうなれば作家への転身が比較的容易だった。つまり特別なケースなのである。
 器用な土井中さんは、タレントとして重宝されるあまり、ややもすれば〝文化の底上げ〟をしてきた点での評価があまりなされていないのだが、私たちの郷土にこんなにも豊富な文化があり、よく見れば面白い材料がたくさん転がっていることを教えてくれたその功績は、ほんとはすごく大きいと私は思っている。(2013.3.15掲載)

1.ライター稼業40年 2.地方のライター 3.ジ・アースとアトラス 4.アトラスの思い出 5.単行本第1号
6.調べる楽しさ 7.出版というオバケ 8.平均的読者像とルビ 9.文化の喪失 10.編集って、何
11.義士祭とベアトの写真 12.泣かせてしまった本 13.後に続くことば 14.原野に挑んだ人 15.視覚化の醍醐味
16.本の「顔」 17.書く力とは 18.文化財修復と犯罪 19.読む力と想像力 20.木蠟は何に使われた
21.宇和島のヘルリ 22.図書館とのおつきあい 23.サイド・バイ・サイド 24.土井中照さんのこと 25.本のお土産
26.予期せぬ出来事 27.題字は大事だよ 28.生きてるだけで丸儲け 29.掲載ビジネス 30.牛島のボンちゃん
31.おじいさんの自慢 32.編集者の言い分 33.書いてくれませんか 34.隈研吾さんと南京錠 35.幻の出版物
36.高島嘉右衛門と三瀬周三 37 声が聞こえる写真 38.翻訳 39.骨のある出版社 40.男っぽい文章
41.人生のダイジェスト 42.どう書いたら…… 43.消える仕事 44.近欲の風潮 45.運転免許の話
46.目に見える被害 47.過疎の町にパティシエを 48.講演は苦手です 49.カッコ付き市民の意見 50.父の信号
51.文化の繰り上がり 52.出版社の存在意義      
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