今治市に在住の土井中(どいなか)照(あきら)さんは、当社の売れっ子作家である。最初に、出版をしてくれませんかと松山城に関する原稿を持ってきたときは、まだサラリーマンだった。土井中さんはこのとき、「やきとり天国」など今治の本をすでに3冊も出していて、特に焼き鳥については「今治のご当地グルメとして売り出そう」と、奥さんお手製のニワトリのかぶりものでテレビに出たりして、まちおこしの活動をしていた。
その後、土井中さんはある事情から脱サラして、フリーライターとして活躍することになり、当社でも「松山城の秘密」「愛媛たべものの秘密」「えひめ名字の秘密」など「秘密シリーズ」のほか、「大洲歴史探訪」「そこが知りたい子規の生涯」など、郷土をテーマに何冊もの本を書いてもらった。
土井中さんの本の作り方は、大体が見開きで1話という形なので、簡潔でとっつきやすい。いわば、すべてのジャンルについての入門書的な本である。その一方で、いろいろなデータに当たって考察し、短いながら説得力のある内容になっているものもある。「なるほど愛媛の県民性」などがその代表作で、私もこの本を読んで、愛媛人のこういう性質はここにルーツがあったのかと思い至った次第である。自らを「雑学王」という土井中さんは、マスコミにとっても格好のキャラクターなのか、テレビやラジオにもレギュラー出演し、その豊富な知識を披露するようになった。
世の中には、脱サラして作家になりたいと秘かに思っている人がいて、そういう人にとって土井中さんは憧れの存在かもしれないが、実は、彼には松山の広告制作会社で企画から制作まですべてこなしていたという経験があり、いうなれば作家への転身が比較的容易だった。つまり特別なケースなのである。
器用な土井中さんは、タレントとして重宝されるあまり、ややもすれば〝文化の底上げ〟をしてきた点での評価があまりなされていないのだが、私たちの郷土にこんなにも豊富な文化があり、よく見れば面白い材料がたくさん転がっていることを教えてくれたその功績は、ほんとはすごく大きいと私は思っている。(2013.3.15掲載) |