時折、当社に「出版をしたい」という人が相談に来られる。出版の手順や費用のことなど、人によって相談内容は異なるが、時に「原稿って、どう書いたらいいんですかね」と聞かれ、ウッと詰まることがある。あまりにも漠然としていて、答えようがないのである。そういう時はこちらから、「何について書きたいんですか」というテーマ、「なぜ書きたいのですか」という動機、「本を作ったらどうしたいんですか」という目的を聞く。そうすると出版の輪郭が見えてくる。問題は「どう書くか」という書き方だが、実は、その答えはない。答えを期待していた人はガッカリしたかもしれないが、書き方に決まりはないので、とにかく書いてみるしかないのである。
それでは取り付く島がないという人は、まず「目次」を書いてみるといい。目次は構成内容と同じだから、これを書くだけでどんな内容を入れるべきか全体が見えてくる。小説のように目次のないものなら簡単な「あらすじ」を書き、それを設計図にして細部に入っていけばいい。
「まだ誰も取り上げてないテーマだから」、「長年調べてきた記録だが、死んだら捨てられるから形にしておきたい」など、出版に対する思いは人それぞれである。口には出さなくとも、人に注目されたい、子や孫に見直してもらいたいというのもある。それもこれも、書かなくては話にならない。
最初に書き上げた原稿を持って相談に来た人は、大体出版が実現するが、「まだ書いてないんです」という人が原稿を書き上げて再度来たことは、私の記憶では残念ながらない。何しろ再訪されないので、どこで挫折したのか聞きようもない。
そういう人に一つだけ言えるのは、「原稿を書き上げた時点では、完全にできたことにはならない」ということである。文章に練達した人なら、書き上げた時点で6〜7割までできたことになるかもしれないが、初めて書いた人なら多分3〜4割で、そこから文脈の不明な点などを編集者が指摘し、完全なものに仕上げていくことになる。いわば編集者は頂上を目指す登山者のガイドみたいなものだから、最初から完璧な原稿を書こうと思わず、迷ったときに聞きにきてもらえばいいのだと思う。(2013.7.19掲載) |