地方出版社の存在意義

 当社は、松山市駅近くの末広町の角にある。以前、「街角に何があるかで、そのまちがわかる。松山にはアトラス出版があるから、文化のまちだ」と言ってくれた人がいた。当社が松山の文化を代表しているわけではないので恐縮の至りだが、愛媛県で一般書籍を出している5社の内のひとつなので、そう思ってくれたのだろう。
 数年前、当社は設立20周年を迎えた。身内だけがささやかに祝った20周年だったが、私には感慨深いものがあり、発行人ともども「よく持ちこたえたね」と互いをねぎらった。編集制作会社から出版社に軸足を移し、自社出版物をはじめ、企業や行政、大学などの出版物、一般の自費出版も引き受け、時にはライターや編集者として他社の出版物にも関わるなど、あらゆる出版活動をして踏ん張ってきたからである。
 20年前、地元書店でも地方の出版物を並べているところは限られていたと思うが、5社の出版社が毎年出版点数を増やし、種類や内容も充実していったため、地方出版物のコーナーを設けてくれるようになった。また、末広町のアテネ書店さんは、5社の出版物を揃えた郷土出版専門店を開いて、出版文化の拠点になってくれた。こうした、たくさんの方々の支援がなければ、私たち地方出版社は存続が困難だったと思う。
 一方、この5社があったことで、愛媛の人は郷土の歴史や文化についてより深く知ることができ、大切に守らなければいけないものに気付いてくれたと思う。また県外の人も、本を通じて愛媛の風土や人物に関心を持ってくれ、そのことが愛媛のファンづくりの力になったと思う。
 今回、最後の執筆ということで、出版社の存在意義を強調する文章になってしまったが、それは当社だけでなく、どの出版社もみな誇りを持って一生懸命頑張っていることを知ってほしかったからである。この1年、地方のライターとして出発した私が、どのように出版に関わり、出版や文化についてどう考えてきたかを、この欄でみなさんに知ってもらった。そういう機会を与えていただいたことに、心から感謝したいと思う。(2013.9.27掲載)

1.ライター稼業40年 2.地方のライター 3.ジ・アースとアトラス 4.アトラスの思い出 5.単行本第1号
6.調べる楽しさ 7.出版というオバケ 8.平均的読者像とルビ 9.文化の喪失 10.編集って、何
11.義士祭とベアトの写真 12.泣かせてしまった本 13.後に続くことば 14.原野に挑んだ人 15.視覚化の醍醐味
16.本の「顔」 17.書く力とは 18.文化財修復と犯罪 19.読む力と想像力 20.木蠟は何に使われた
21.宇和島のヘルリ 22.図書館とのおつきあい 23.サイド・バイ・サイド 24.土井中照さんのこと 25.本のお土産
26.予期せぬ出来事 27.題字は大事だよ 28.生きてるだけで丸儲け 29.掲載ビジネス 30.牛島のボンちゃん
31.おじいさんの自慢 32.編集者の言い分 33.書いてくれませんか 34.隈研吾さんと南京錠 35.幻の出版物
36.高島嘉右衛門と三瀬周三 37 声が聞こえる写真 38.翻訳 39.骨のある出版社 40.男っぽい文章
41.人生のダイジェスト 42.どう書いたら…… 43.消える仕事 44.近欲の風潮 45.運転免許の話
46.目に見える被害 47.過疎の町にパティシエを 48.講演は苦手です 49.カッコ付き市民の意見 50.父の信号
51.文化の繰り上がり 52.出版社の存在意義      
アトラス出版 〒790-0023 愛媛県松山市末広町18-8
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