前立腺がん関連ーその3ー

 (Medical Tribuneなどから)
(2006年1月~12月)



NCI 前立腺癌の全ゲノム研究データ公表 標的治療法の開発につながる[2006年12月14日 (VOL.39 NO.50) ]

 米国立衛生研究所(NIH)付属の米国立癌研究所(NCI)は,癌感受性遺伝子マーカー(CGEMS)研究から,前立腺癌リスク遺伝子に関する最新データを発表した。今回の知見は,前立腺癌に影響する遺伝的因子の同定に役立ち,新たな標的治療法の発見・開発にきわめて重要なものである。どのような遺伝子変異が癌の原因となるのかについて仮定に頼るのではなく,癌研究報告としては初の全ゲノム解析を行っている。

データ共有で研究促進
 NCIのJohn E. Niederhuber所長は「最も癌を引き起こしやすい遺伝子がわかれば,早期診断能力は大幅に改善され,癌が最も攻撃に屈しやすい時期に適用可能な治療法を開発できる」と述べている。乳癌と前立腺癌は米国で最も診断件数の多い癌で,2006年 2 月に開始したCGEMS研究は,これらの癌リスク遺伝子を同定するための包括的イニシアティブとしては最大規模のものである。
 患者と対照群で発現頻度の異なる遺伝子変異を発見すれば,前立腺癌リスクを増減させる多重遺伝性因子の位置を同定できる。
 NCI新規技術・戦略パートナーシップ部門のAnna D. Barker副部長は「今回の新知見を癌専門の研究者らと共有すれば,個々の研究者が既存のデータとCGEMS研究の新データを比べて,前立腺癌リスクの増大に関与する新たな遺伝子を同定できるだろう。
 前立腺癌は毎年 2 万7,000人近い米国人の命を奪っているが,CGEMSデータベースは同癌に対する新たな早期発見・予防戦略の開発に必要な情報を提供するだろう」と述べている。

1,100例以上の標本を解析
 CGEMS研究では,前立腺癌患者と非前立腺癌患者それぞれ1,100例以上から遺伝子標本を採取した。これらの標本には 6億8,000万以上の遺伝子型または遺伝子マーカーと,31万の多型が含まれている。
 筆頭研究者でNCIのGilles Thomas博士は「CGEMSは,ヒトゲノム計画のお陰で可能となった新世代研究の手始めとなるものである。データの直接的な共有を通じ,他の研究チームが癌やその他の疾患に関して今回の研究と同様に即座にデータを利用できる研究を進めていくことを期待している」と補足している。
 前立腺癌は,米国では男性の癌による死亡の 3 位を占めており,2006年には約23万4,460例が新たに前立腺癌と診断されると予測されている。
 CGEMS研究の共同研究責任者でNCI中核遺伝学施設のStephen Chanock施設長は「関心を持つ人すべてが直接利用できる今回の貴重なデータセットを完成させるのに,NCIは持てる資源を活用している」と述べている。
 女性の癌死の 2 位になっている乳癌に関しても,現在,同様のデータ作成が進められており,2007年初頭に完成する予定である。これが発表されれば,CGEMSデータベースには25億の遺伝子型が登録されることになる。
 NCIの著名な研究者でCGEMSの共同研究責任者を務めるハーバード大学公衆衛生学部(ボストン)癌予防学のDavidHunter教授は「CGEMSは共同研究による最高の成果の手本である。遺伝学者や疫学研究者が資源を蓄積して,主要な癌に関係する遺伝的多型データベースの共有利用を初めて可能にした」と述べている。


IMRTは前立腺癌に有効[2006年11月30日 (VOL.39 NO.48) ]

スローン・ケタリング記念癌センター(ニューヨーク)放射線腫瘍学のMichael J. Zelefsky博士らは,限局性前立腺癌に対する強度変調放射線治療(IMRT)の有効性を検討する研究としては最大規模の試験を実施。リスク別に 3 段階に階層化された全治療群で長期の有効性が確認されたとJournal of Urology(2006; 176: 1415-1419)に発表した。前立腺癌に対するIMRT施行の長期予後に関する報告は今回が初めて。

低リスク群では89%の生存率
 IMRTは,改良型の 3 次元放射線療法で,放射線療法としては比較的新しい。
 今回の試験では癌細胞に標的を絞り,膀胱や直腸の被曝を防ぐことで高線量(81Gy)の照射が可能となった。
 Zelefsky博士らは,46~86歳(中央値68歳)の臨床的に限局性の前立腺癌患者561例をIMRTで治療し,平均 8 年間追跡した。8 年間の無再発生存率は,低リスク群89%,中等度リスク群78%,高リスク群67%であった。低リスク群では二次癌の発生は皆無であった。
 同博士は「今回の検討では,リスクの異なる患者において10年という長期間の有効性と安全性を示すことができた。このことは,限局性の前立腺癌患者に対して外照射放射線療法を検討する場合,IMRTを選択肢の 1 つに加えるべきであることを示唆している」と述べている。
 正常組織には放射線が及ばないため,施術後も尿禁制は全例で維持され,直腸出血の発生も1.6%のみであった。ただし,術前に勃起可能であった患者の49%で勃起不全が発生した。
 同博士は「今回の試験では,放射線療法の副作用を低減し,かつ無再発生存率を維持することで,患者のQOLを改善できることが確認された。しかし,改善の余地はまだあり,現在,腫瘍抑制効果を維持する一方で,さらに照射域を絞り込み,副作用を低減できる画像誘導法を検討中である」と述べている。


~前立腺癌の抗アンドロゲン療法~糖尿病と心血管リスク増大の可能性[2006年11月23日 (VOL.39 NO.47) ]

ハーバード大学(ボストン)保健政策のNancy Keating博士らは,前立腺癌に対する主要な抗アンドロゲン療法であるゴナドトロピン放出ホルモン(GnRH)作動薬の定期的注射や両側精巣切除は,いずれも糖尿病と心血管疾患リスクを増大させる可能性があることが示唆されたとJournal of Clinical Oncology(2006; 24: 4448-4456)に発表した。
 筆頭研究者でBrigham and Women's病院(ボストン)にも所属する同博士らは,抗アンドロゲン療法が糖尿病や心血管疾患を増大させるかどうかを検討するため,限局性または進行前立腺癌と診断された66歳以上の男性約 7 万3,000例のデータを,抗アンドロゲン療法施行者と非施行者と比較・解析する住民ベース研究を実施。
 その結果,被膜内限局と局所浸潤癌患者では,抗アンドロゲン療法により,非施行群と比べて糖尿病発症リスクが44%,心筋梗塞,心突然死などの心血管疾患リスクが16%増大することが確認された。
 同博士は「前立腺癌の男性は健常者よりも(全体的な) 5 年生存率は高いが,癌以外の疾患に限ると健常者よりも死亡率が高い。今回の新知見は,患者と医師双方にとり,抗アンドロゲン療法には恩恵だけでなくリスクも伴うことを警告するもの」と指摘。「悪性度の低い前立腺癌や局所癌へのGnRH作動薬の長期投与が増えているが,これら患者群での有効性は確立されておらず,今回の知見は重要な示唆に富むもの」と付け加えた。
 こうした結果について,共同研究者のMatthew Smith博士は「これまでの研究でGnRH作動薬により生存率の改善が確認されていない患者群に対しては,同療法に伴うリスクがさらに解明されるまで,施行の是非を十分検討すべきである。同療法を必要とする患者に対しては,糖尿病や心血管疾患リスクの低減に有効と思われる身体活動や減量を含め,治療戦略について患者と話し合うことを勧めたい」と述べている。
 米国では,前立腺癌は男性の癌のなかで最も多く,毎年約20万人が新規に罹患している。


前立腺生検時の疼痛 組織採取部位に相関 麻酔薬注入が最も効果的[2006年10月19日 (VOL.39 NO.42) ]

メイヨー・クリニック(ロチェスター)泌尿器科研修医のRichard Ashley博士らは,前立腺生検を受ける男性では患者により疼痛の程度が異なることから,その原因と疼痛を最も緩和できる麻酔法について検討。その結果,疼痛の程度は生検時の組織採取部位と相関し,疼痛緩和には前立腺実質への麻酔薬注入が最も効果的であると,サンディエゴで開かれた米国泌尿器学会(AUA)北部・中央地域第80回年次集会で発表した。

尿道近位部と尖部の疼痛が強い
 前立腺生検は,直腸指診異常や前立腺特異抗原(PSA)値上昇が認められ,前立腺癌が疑われる男性に対して一般的に実施されている。
 筆頭研究者のAshley博士は「生検に際して,痛みを伴うことを激しく恐れる男性もいる。また,実際に疼痛を訴える患者の数がわれわれが考えていた以上に多いこともあって,今回,生検をできる限り快適なものにする方法を検討した」と述べた。
 同博士によると,前立腺生検を受けた男性の約16%が中等度以上の疼痛(10段階の疼痛尺度で 5 以上)を経験していた。
生検時には,前立腺を画像化するために葉巻大の超音波プローブを直腸内に挿入するが,この経直腸超音波プローブ挿入の痛みよりも,疼痛を緩和するためのリドカイン注射の痛みのほうが上回っていた。さらに,組織採取の際に痛みを伴いやすい部位も特定された。具体的には,前立腺の尿道最近位部や尖部のほうが,膀胱最近位部や基底部よりも痛みを伴いやすかった。
 同博士は「患者のカルテや特徴のみでは,実際の生検での疼痛の程度を予測できないこともわかった。疼痛スコアを最もよく予測できたのは年齢,body mass index(BMI),家族歴,癌や炎症の有無,しこりが触知できるか否か,前立腺の大小ではなく,生検部位であった」と述べた。

痛みの強い部位に有効な麻酔を
 麻酔に関しても前立腺尖部と周囲の直腸組織に麻酔薬を注入したほうが,ほかの部位に注入するよりも生検中の疼痛の抑制を良好に行えた。
 Ashley博士は「全く無痛の前立腺生検というのは不可能だが,我慢できるものにすべきである。患者は生検時の麻酔使用を要求すべきで,疼痛管理は泌尿器科での生検の際の標準処置となるべきだ。疼痛管理はそれほど時間を必要としないし,簡単な処置で生検を耐えられるものにできれば,患者が受ける恩恵は大きい」と述べ,「その一方で,最も的確な診断を下すには,正確な組織採取をする必要があるため,患者も組織採取部位によっては痛みが強く,麻酔をしても完全に痛みを除去できないことを了解しておくべきである」と付け加えた。
 今回の研究では,メイヨー・クリニック泌尿器科で前立腺生検を予定していた男性243例を,麻酔部位により(1)神経束が存在する前立腺基底部と精嚢との間(2)前立腺実質内の基底部から尖部方向(3)前立腺尖部と周囲の直腸壁組織−の 3 群にランダム化割り付けした。生検はside-fire超音波プローブと生検銃により,各患者とも前立腺の左右それぞれで,癌が最も増殖しやすい辺縁部を標的として行った。
 同博士は「今回の知見は,より大規模な試験で検証する必要がある」と締めくくった。


~転移前立腺癌のPSA検査~ホルモン療法後の予後予測にも有用[2006年10月19日 (VOL.39 NO.42)]

ミシガン大学(アナーバー)内科のMaha Hussain教授らは,前立腺癌スクリーニングに使用されている前立腺特異抗原(PSA)検査が,転移前立腺癌に対するホルモン療法が奏効する患者の選別にも有用であるとJournalof Clinical Oncology(2006; 24: 3984-3990)に発表した。

4.0ng/mL以下でリスクが低い
 今回の試験では遠隔転移のある前立腺癌患者で治療前PSA値が5.0ng/mL以上の患者1,345例を登録。男性ホルモンの癌細胞への影響を遮断するための抗アンドロゲン療法を 7 か月間施行した。治療期間中にPSA値の監視を行った結果,同値が4.0ng/mL以下に低下した男性では,4.0ng/mLを超える男性に比べて死亡リスクが 4 分の 1 に改善された。
 筆頭研究者のHussain教授は「今回の解析では,前立腺癌が新たに転移した患者群において,7 か月間の抗アンドロゲン療法施行後のPSAが低値または検出閾値以下は,生存の強力な予測因子となることが示唆された。今回の知見を活用することで,腫瘍専門医はホルモン療法抵抗性の臨床徴候が現れるよりもはるか以前にホルモン療法で予後不良になる患者を見極めることができるだろう」と述べている。
  7 か月間のホルモン療法の後,PSA値が4.0ng/mL以下となった患者は69%で,検出閾値以下に低下した患者は43%であった。ホルモン療法終了後,PSA値が4.0ng/mLを超えていた患者の生存期間の中央値は13か月であったが,0.2~4.0ng/mLの範囲まで低下した患者では44か月,0.2ng/mLを割り検出閾値以下になった患者では75か月であった。
 今回のホルモン療法終了後に第 III 相試験が行われる。この試験にはPSA値が5.0ng/mL以上の1,512例の登録を予定している。
 PSA検査は,一般的には前立腺癌検出のための初回スクリーニングに活用されている。同教授は「PSA検査は手軽に実施できるので,転移癌患者の生存予測にPSA値を使えることは魅力的である。今回の知見は患者にとっては不必要な治療の回避,医師にとってはさらなる試験の計画に役立つであろう」と述べている。


増える早期前立腺癌の治療選択肢 患者背景や進行度,患者が容認できる合併症に準じた選択を[2006年10月12日 (VOL.39 NO.41) ]

 従来,わが国では少ないとされていた前立腺癌は,近年,急増傾向にあり,2020年には2000年に比べて約 3 倍に増えると予測されている。こうしたなか,前立腺特異抗原(PSA)検査の普及により早期癌の発見が可能となり,さまざまな治療法が選択できるようになったが,患者だけでなく医師もその選択に迷う場合が増えている。東京厚生年金病院泌尿器科の赤倉功一郎部長は,東京都で開かれたアストラゼネカ(株)主催のセミナーで「それぞれの治療法の成績はほとんど変わらないが,それに伴う合併症は異なる。患者背景や癌の進行度,どの合併症なら患者が容認できるかなどを考慮して治療を選択すべき」と述べた。

PSA検査の普及が増加の一因
 わが国における前立腺癌の急増の要因として,高齢化や食生活の欧米化などが指摘されている。一方で,この増加は日本対がん協会を中心に推進するPSA検査の普及による早期発見が増えたことも一因として挙げられている。
 これにより,UICC TNM分類におけるT1cの段階での発見が増加し,局所進行癌や転移癌では選択できなかったさまざまな早期治療法が選べるようになった。
 待機療法(無治療経過観察)はその最たるもので,赤倉部長は,自らも参加した厚生労働省がん研究助成金研究の検討の結果から,適応の条件として(1)触知不能癌(2)PSA 20ng/mL以下(3)グリーソンスコア 6 以下(4)ランダムな生検で陽性コア 2本以下(5)陽性コアのうち癌占拠率50%以下−を挙げた。
 しかし,こうした適応条件を満たしても,PSA倍加時間が短い場合は,手術療法や小線源療法,放射線外部照射療法,ホルモン療法,化学療法などの治療介入が必要である。
 手術療法に関しては,近年は神経温存術が施行されるようになったものの,尿失禁と勃起障害の合併症が危惧されるほか,腫瘍を取り残すリスクもある。
 比較的短期間で治療できる小線源療法は,低リスク患者(T1c~T2aでPSA 10ng/mL未満,グリーソンスコア 6 以下)に関しては良好なものの,中リスク(T2bでPSA 10~20ng/mL,グリーソンスコア 7 )以上の患者に対しては,手術療法や放射線外部照射療法に比べて治療成績が不良だという結果もある。そのため,中~高リスク患者に対しては放射線外部照射療法が併用されている。
 放射線外部照射療法に関しては,いかに副作用なく高線量(78Gy)を照射するかがポイントになっており,Multi-leafcolimatorを使用した 3 次元減退照射や同照射をさらに進化させた強度変調放射線治療(IMRT;Intensity ModulationRadiation Therapy)など,より線量集中性が改良されてきている。しかし,コンピュータを駆使した照射目標の計算に半日を要するなど,治療開始までの準備に手間がかかるといった問題点もある。さらに,局所進行癌になると単独の治療成績が不良なため,ホルモン療法との併用が必要となる。
 一方,ホルモン療法に関しては再燃が問題であるが,これを克服するため,LH-RHアゴニストと抗アンドロゲン薬の併用療法(maximum androgen blockade;MAB)が注目されている。MABとLH-RHアゴニストや精巣摘出術の単独治療との比較試験のなかには,MABがわずかながら有意に良好な成績も示されている。
 化学療法については,世界的な標準治療となっているドセタキセルが,わが国の治験で終末期の患者に対して延命効果が認められたが,わが国では未承認である(今年12月に厚労省へ申請予定)。
 こうした状況を踏まえ,同部長は「前立腺癌の治療に関しては,これが決め手というものがないのが現状。患者の希望,背景や進行度,治療による合併症などを考慮して治療法を選択して欲しい」と述べた。


フィナステリドと前立腺癌増加に関連 PSA検査による検出精度上昇が原因[2006年10月12日 (VOL.39 NO.41)]

これまでの研究で,テストステロン5α-還元酵素阻害薬のフィナステリドを前立腺癌患者に投与すると,悪性腫瘍の検出率が上昇することが指摘されているが,テキサス大学保健科学センター(テキサス州サンアントニオ)泌尿器科のIan M. Thompson博士らは,これはフィナステリドの投与により前立腺特異抗原(PSA)検査時の前立腺癌検出精度が高まるためであるとJournal of the National Cancer Institute(2006; 98: 1128-1133)に発表した。

PCPTでは高グレード腫瘍が増大
 フィナステリドは,前立腺肥大症の治療に適用されており,前立腺肥大を緩和し,排尿障害を改善する。しかし,前立腺癌に対するフィナステリド投与の有効性を検討したProstate Cancer Prevention Trial(PCPT)では,プラセボ群よりも高グレード腫瘍が増大したことから,一部の医師の間で同薬の影響を憂慮する声が挙がっている。
 Thompson博士らは,PCPTの実薬群とプラセボ群でPSA検査の感度と前立腺癌診断精度を比較した結果,実薬群のほうが前立腺癌検出の感度・精度ともにプラセボ群より高いことを確認した。同博士は「PCPTの実薬群で高グレード癌の検出率が上昇したのは,フィナステリドにPSA検査の精度を高める作用があるためで,同薬が高グレード癌を誘発するわけではない。こうした同薬の特性による前立腺癌の検出率上昇は,癌のグレードにかかわらず全般的に認められるようだ」と指摘している。


進行前立腺癌管理に2件の新知見[2006年10月12日 (VOL.39 NO.41)]

ウィスコンシン医科大学(ウィスコンシン州ミルウォーキー)泌尿器科部長のWilliam See教授が主導する国際研究チームは,限局性の進行前立腺癌患者への放射線療法後に抗アンドロゲン薬のビカルタミドを投与すると死亡リスク減少に有効であるとJournal of Cancer Research and Clinical Oncology(2006; 132 Suppl 13: 7-16)に,ミシガン大学(ミシガン州アナーバー)内科のMaha Hussain教授らは,前立腺特異抗原(PSA)値と抗アンドロゲン療法後の死亡リスクとの相関をJournal of Clinical Oncology(2006; 24: 3984-3990)にそれぞれ発表した。

生存率同等でQOL維持
 限局性の進行前立腺癌患者に対しては,これまで初期放射線療法後の生存期間延長のために精巣摘出術が推奨されていた。Froedtert病院(ミルウォーキー)泌尿器外科部長でもあるSee教授らは,米国と欧州で治療目的の放射線療法を受けた前立腺癌患者1,370例を,ビカルタミド150mg/日投与群とプラセボ群に割り付けた国際二重盲検ランダム化試験を実施。中央値で7.2年追跡した結果,ビカルタミド群はプラセボ群と比べて癌の進行を44%,死亡リスクを35%減少させた。
 同教授は「精巣摘出術に伴う有害事象の多くは管理可能であるが,QOL低下を招きやすい。今回の試験では,精巣を摘出しない治療法の有効性と耐容性を検討した結果,生存率は同等であった」と述べている。

予後不良患者の早期特定に活用
 一方,Hussain教授らは,サウスウェスト腫瘍グループの研究の一環として,抗アンドロゲン療法を 7 か月施行された1,345例を対象にPSA値による予後予測精度を評価。平均生存期間はPSA値が0.2~4.0ng/mLの範囲まで低下した患者で44か月であったのに対し,0.2ng/mL未満まで低減できた患者では75か月に延長された。全体ではPSA値を4.0ng/mL未満に低減できた患者は,この値以上を維持した患者に比べて死亡リスクが 4 分の 1 に低下した。
 同教授は「今回の検討では,新規に前立腺癌転移が発見された患者において,抗アンドロゲン療法により 7 か月後のPSA値を低値もしくは検出閾値以下に下げられるか否かが,死亡リスクの強力な予測因子となることが確認された。これにより,治療抵抗性の臨床徴候が現れるかなり以前に,抗アンドロゲン療法の予後不良な患者を特定できる」と述べている。


前立腺癌に過剰治療リスク[2006年9月28日 (VOL.39 NO.39) ]

ミシガン大学(ミシガン州アナーバー)泌尿器科学のJohn T. Wei准教授らは,低リスク前立腺癌患者の多くが過剰な治療を受けており,こうした患者には治療が必要となるまで監視を続けるほうが予後がよいとする研究結果をJournalof the National Cancer Institute (2006; 98: 1134-1141)に発表した。

推奨の見直しが必要
 早期前立腺癌に対するこれまでの推奨では,治療が必要になるまで癌の進行を監視するよりも前立腺の摘出を奨励していた。しかし,最近,前立腺癌の早期発見率が向上し,低リスク患者への積極的治療が報告されるようになった結果,こうした治療の方向性を疑問視する声も挙がっていた。今回の研究では,積極的治療は患者の生存予後を改善せず,むしろ健康を損なうことが示唆された。
 Wei准教授らは,2000~02年に前立腺癌と診断された70歳以上の男性 7 万1,602例のデータを,初期治療が治癒目的の手術または放射線療法か,経過観察かで分類し,低リスク患者に対する生存恩恵を比較した。
 低リスク前立腺癌患者 2 万4,825例のうち,診断後直ちに放射線療法や前立腺摘出が行われていたのは 1 万3,537例であった。低リスク癌の最適な初期治療は経過観察であると仮定した場合,前立腺摘出を受けた患者の10%,放射線療法を受けた患者の44%が過剰治療に相当した。
 同准教授は「治療が必要になるまで経過観察することで,低リスク前立腺癌患者に対する過剰治療を減らせるだろう。過剰治療を減らす努力を臨床面・公衆衛生面での優先課題とすべきだ」と指摘している。


DNAを守る腫瘍抑制遺伝子[2006年9月28日 (VOL.39 NO.39)]

テキサス大学MDアンダーソン癌センター(ヒューストン)分子治療学講座のShiaw-Yih Lin助教授らは,新たに同定された腫瘍抑制遺伝子のBRIT1 が,ヒトゲノムにおける 2 種類のDNA損傷検出と修復経路の活動開始に重要な役割を果たしていることを示唆する知見をCancer Cell (2006; 10: 145-157)に発表した。

BRIT1 が 2 種類の経路を活性化
 先行オンライン公開でも,ヒトの卵巣,乳癌,前立腺癌の細胞株ではこのBRIT1遺伝子の発現が低いことが報告されている。
 Lin助教授らは「BRIT1 の異常は癌化のイニシエーションと進行における重要な病理学的変化であるようだ。この遺伝子の機能をさらに解明すれば癌の新規治療法に貢献できるだろう。BRIT1 の機能異常はDNA損傷に対する反応を完全に消失させ,ゲノムを不安定にする。ゲノムが不安定になると腫瘍のイニシエーション,増殖と伝播が活発になる」と述べている。
 分子チェックポイント経路のシグナル伝達ネットワークは,DNA損傷を検出すると修復を開始し損傷細胞の分裂を停止させ,損傷DNAが複製しないようにしてヒトゲノムを保護している。
 同助教授らは研究室における一連の実験で,BRIT1 がこのようなチェックポイント経路のうちのATMとATRの 2 種類を活性化することを示している。ATM経路は電離放射線による損傷に反応して突然活動を開始し,ATR経路は紫外線照射によるDNA損傷に反応する。
 同助教授らが低分子干渉RNA(siRNA)法を用いてBRIT1遺伝子の発現を抑制すると,2 種類の照射に対して両方のチェックポイント経路が働かなくなった。
 同助教授らは健常なヒト乳腺上皮細胞(HMEC)にsiRNAを用いて遺伝子の発現を抑制した。その結果,遺伝子の不活性化が生じて,21.2~25.6%の細胞に染色体異常が認められた。対照群のHMECには染色体異常は認められなかった。BRIT1遺伝子の発現を抑制した細胞に電離放射線の照射を行うと,80%の細胞で染色体異常が認められた。
 同助教授は「われわれは数種のヒトの癌でBRIT1 発現が異常であることも見出した。進行卵巣上皮癌87例中35例でBRIT1発現が低下していた。乳癌や前立癌の組織も非癌細胞より発現が低かった」と述べている。
 乳癌検体の遺伝子分析から,ある検体のBRIT1蛋白質が正常より短く,機能が異常なタイプであったことが明らかになった。
 腫瘍の増殖にはDNA損傷チェックポイント機能の消失と無限に増殖する能力という 2 つの細胞変化が必要である。同助教授らはBRIT1 をこの 2 つと結び付け,BRIT1 がhTERT(再活性化されると細胞を不死化し,無限の分裂を可能にする蛋白質)の抑制因子であることを明らかにしている。


前立腺癌に関与する遺伝子変異を同定 欧米4集団の8番染色体で確認[2006年9月28日 (VOL.39 NO.39)]

DeCode Genetics社(アイスランド・レイキャビク)は,スウェーデン人,アイスランド人,欧州系米国人,アフリカ系米国人の計 4 集団における人口ベース症例対照研究で,8 番染色体上の8q24に存在するマイクロサテライトDG8S737のアレル-8と前立腺癌との間に有意な相関があることを確認したとNature Genetics (2006; 38: 652-658)に発表した。

欧州系のオッズ比は1.62
 同社のKarl Stefansson社長によると,欧州系 3 集団の解析では,アレル-8を保有することによる前立腺癌リスクの推定オッズ比(OR)は1.62であった。また,このアレルを 1 つ以上保有している欧州系一般人口の割合は約13%であったのに対し,前立腺癌患者では約19%であった。同社長は「今回の知見からアイスランド人とスウェーデン人,欧州系米国人での人口寄与リスク(PAR)は約 8 %と推定できる」と述べている。
 さらに,今回の研究では,前立腺癌死亡リスクが比較的高いとされるアフリカ系米国人について,相関を再検証している。アフリカ系米国人におけるORは欧州系と同等の1.60であったが,同遺伝子変異の保有率は一般アフリカ系米国人が30%であったのに対し,前立腺癌患者では41%であった。同社長は「この結果から,アフリカ系米国人のPARは16%と推定され,欧州系米国人よりもアフリカ系米国人で前立腺癌患者が多いことに同アレルが寄与していることが示唆された」と述べている。日本人を含むアジア系人口のPARは,これまでのところ明らかではない。
 今回の研究では,4 群すべてにおいてGleasonスコアが高い( 7 ~10)癌の患者のほうが,低い( 2 ~6)患者よりもアレル-8の発現頻度が高いことも確認された。
 アフリカ系米国人では,欧州系米国人に比べて前立腺癌の発症率が1.6倍,前立腺癌死亡率が2.4倍であることは既に知られている。

最初はアイスランド人で検討
 8q24における変異は,まずアイスランド人家系の解析によって同定された。アイスランドは地理的に比較的孤立しており,遺伝子研究に適した集団を見つけやすいとされている。
 研究の第 1 段階では,アイスランド人323家系の子孫で前立腺癌患者871例の遺伝子型を同定するために,1,068個のマイクロサテライトマーカーを設定して全ゲノムにわたる連鎖解析が行われた。この段階で,8q24に連鎖シグナルの存在が示唆された。
 第 2 段階では,マイクロサテライトマーカーとInDelマーカーをさらに358個追加し,血縁関係のないアイスランド人前立腺癌男性869例と対照群596例について,8 番染色体の断片の遺伝子型判定を行った。その結果,前立腺癌とDG8S737のアレル-8との相関(OR 1.79)が確認された。Stefansson社長は「住民対照を用いているので,このORは乗法モデルによるアレル 1 個当たりの推定相対リスク(RR)も表していると言える」と述べている。
 さらに,別のアイスランド人を対照群として,前立腺癌男性422例と住民対照401例で相関が再検証された結果,アレル-8を保有することによるORは1.72であった。
 次いで同社長らは,DG8S737近傍の一塩基多型(SNP)63個と追加のマイクロサテライト12個の遺伝子型を特定した。その結果,これらアイスランド人群で,DG8S737のアレル-8と最も相関の高いSNPはrs1447295のアレルAで,同アレルは前立腺癌とも最も高い相関を示した。

他の欧州系でも同様の結果
 アイスランド人で確認された相関は,血縁関係にないスウェーデン人前立腺癌患者1,435例と人口ベース対照群779例,シカゴの欧州系米国人458例と対照群247例でも検証された。その結果,いずれの人口においても,DG8S737-8アレルの発現頻度は,前立腺癌男性で対照群男性より有意に高かった。Stefansson社長は「rs1447295に関しても同様の結果が得られた。このことは,同アレルが他の欧州系人口のほとんどでアイスランド人の場合と同様,前立腺癌リスクの増大と相関していることを示唆している」と述べている。
 同社長は「rs1447295のアレルAはDG8S737のアレル-8よりも発現頻度が高く,アレル-8を有する染色体のほとんどがアレルAも保有している。最もリスクが高かったのは,アレル-8とAの両方を保有する染色体であった。アレルAは保有するがアレル-8は保有しない染色体はこれらよりもリスクは低いが,いずれのアレルも保有しない染色体に比べるとリスクは有意に高かった(OR=1.25)。したがって,DG8S737のアレル-8とrs1447295のアレルAは,いずれも単体でリスク特性を完全に説明できるものではない」と述べている。
 今回の研究ではアイスランド人,スウェーデン人,欧州系米国人で,rs144725が近傍の18個以上のSNPのアレルと完全に相関することも確認された。

アフリカ系では 2 倍の保有率
 Stefansson社長らは,次にアフリカ系米国人前立腺癌男性246例と住民対照352例で検証を行った。家系因子を調整するために,これらアフリカ系米国人における欧州家系の混入に関する追加データを収集したが,前立腺癌男性と対照男性との間に有意差は認められなかった。
 解析の結果,DG8S737のアレル-8の頻度は,前立腺癌男性が23.4%,対照男性が16.1%で,ORは1.60であった。
 さらに,この人口でSNP 17個の遺伝子型同定を行った結果,DG8S737のアレル-8と有意に高い相関を示すSNPが 3 個見つかった。
 一方,アイスランド人の前立腺肥大症(BPH)患者(非前立腺癌患者)510例では,いずれのアレルも有意な発現は認められなかった。同社長は「これらの変異は,前立腺癌リスクのみ増大させる。おそらく,前立腺癌のなかでも悪性度の高い癌のほうが相関は高いのではないか」と述べている。
 今回の前立腺癌と遺伝子変異との相関の発見を受けて,同社長らは,積極的治療が必要な患者を見極めるための診断ツールの開発に期待を寄せている。
 今回の研究発表に当たり,New York Times (2006年 5 月 8 日号)は,マサチューセッツ工科大学ブロード研究所(マサチューセッツ州ケンブリッジ)遺伝学のDavid Altshuler博士の「今回の知見は 4 つの明確に異なる人口で検証された統計学的に説得力のあるもので,この種の研究の模範となる」とのコメントを掲載している。
 また,同記事にはStefansson社長の「アフリカ系米国人におけるアレル-8の保有率が他の人口の 2 倍であったという事実により,米国人のなかでアフリカ系に前立腺癌が多いことのかなりの部分を説明できる。同アレルによるリスクは,アフリカ系米国人,他の米国人,欧州人で同等であるにもかかわらず,前立腺癌発症リスクが異なるのはこのためであろう」とのコメントも引用している。
 さらに同社長は,New York Timesに対し「前立腺癌に関する主要なアレルが同定され,複数の人口群で検証されたのは今回が初めてである」と述べている。


男性で前立腺癌,女性では乳癌が増加傾向~2006年人間ドック全国集計結果~ [2006年9月21日 (VOL.39 NO.38)]

 日本病院会と日本人間ドック学会は毎年人間ドックの受診状況をまとめている。東京都で開かれた日本病院会/予防医学委員会主催の報告会では,2005年は約267万人の受診データが新たに加わったこと,しかしながら,同年から日本総合健診医学会が管理する受診データを含めなくなったため,受診者数は2004年のそれと比較して全体的に20万人以上減少していたことが示された。

男性の肥満,高脂血症は40歳代がピーク
 まず,牧田総合病院付属検診センター(東京都)の笹森典雄院長は,1985年以降の受診データについて報告。臓器別癌占有率の経年変化を見ると,85年に半数以上を占めていた胃癌が,近年では約
30%で推移していた。一方,大腸癌,肺癌およびその他の癌は増加傾向にあり,その他の癌のうち,男性では前立腺癌,女性では乳癌の増加が顕著であった(図 1 )。発見率は,胃癌が男性で0.09%,乳癌が0.08%となっていた。乳癌発見率は2000年以降上昇傾向にあるが,前立腺癌は0.03%で一定だった。同院長は「臓器別癌発症率の自然な変化だけでなく,健診機器の精度や疾患マーカーの研究が進んでいる背景などもこれらの動向に影響しているだろう」と述べた。
 癌占有率を年代別に見ると,胃癌や大腸癌,肺癌,前立腺癌は加齢とともに高くなる傾向であったが,乳癌は加齢による上昇がなく,40,50歳代がそれぞれ35%以上で60歳以上の約20%を上回っていた。
 生活習慣病関連因子については,近年,肥満や肝機能異常,高コレステロール血症が顕著に増加している。軽度異常や生活改善が必要と評価される受診者を除き,「異常なし」と診断された2005年受診者の割合は12.3%であり,特に男性では 1 割程度にとどまっていた。年齢層別に見ると,男性の肥満や高コレステロール血症,高中性脂肪血症,肝機能異常を呈していた割合は40歳代が最も多く,それ以降の年齢層では低い傾向であった(図 2 )。
 同院長は「中高年男性におけるメタボリックシンドローム是正に対する意識の広がりが反映された結果」と評した。その一方で,厚生労働省が「健康日本21」によって生活習慣病の予防を試みたにもかかわらず,改善不十分な受診者もいる状況を受けて「今後は受診者の性格やストレスを考慮した保健指導によって,生活の行動変容を促していくことが重要」と,同院長は指摘した。

保健指導実施者の養成も
 日本病院会と日本人間ドック学会は,1999年から人間ドック認定医の養成を日本総合健診医学会とともに行っているほか,2004年からは人間ドックを実施する医師や施設の水準向上を目的に人間ドック健診施設の機能評価を実施している。現在,人間ドック認定医は全国で2,568人,人間ドック機能評価認定施設は126施設となっている。
 足利赤十字病院の奈良昌治名誉院長は,2008年度から実施される特定健診・特定保健指導の実施に合わせ,今後日本病院会と人間ドック学会で教育研修を開催し,人間ドック健診情報管理指導士の養成を行っていく計画であると報告した。この人間ドック健診情報管理指導士は,保健指導や生活指導を行うための保健指導技術を習得した医療関係者のことで,覚えやすいシンプルな呼称を現在検討中であるという。


~進行前立腺癌に対する癌ワクチン~第 III 相試験で生存期間延長を確認[2006年8月17日 (VOL.39 NO.33) ]

カリフォルニア大学サンフランシスコ校(UCSF,サンフランシスコ)内科・泌尿器科学のEric J. Small教授らは,治療抵抗性の進行前立腺癌患者において癌ワクチンsipuleucel-T(商品名:Provenge)の有効性を検討する第 III 相試験を実施。ワクチン群ではプラセボ群よりも生存期間を 3 倍以上に延長できたとJournal of Clinical Oncology(2006; 24:3089-3094)に発表した。

生存恩恵を初めて確認
 今回の知見は,転移を有する無症候のホルモン療法抵抗性前立腺癌(HRPC)患者において,癌の進行遅延と患者の生存期間延長に対する免疫療法ワクチンsipuleucel-Tの有効性を検討するプラセボ対照二重盲検第 III 相試験の結果得られたもので,36か月のフォローアップでワクチン群ではプラセボ群と比べて平均4.5か月と 3 倍以上の生存期間延長が確認された。
ワクチンに対する患者の耐容性も高く,最も多い有害事象の発熱や悪寒は概して軽度であった。
 Small教授は「これは前立腺癌の新規治療法を開発するうえで画期的な試験である。生存面での有効性が示唆されたことで,患者に重要な恩恵を提供できるであろう。前立腺癌治療で免疫療法による生存恩恵が確認されたのは今回の試験が初めてである」と述べている。
 前立腺癌は米国では皮膚癌を除いた癌のなかで最も多く,毎年20万人以上が新たに発生している。また男性の癌による死亡のなかでは,肺癌,結腸直腸癌に次いで第 3 位を占めている。無症候性の転移HRPCは早期発見された前立腺癌とは異なり,従来のホルモン療法に抵抗性で治療法は限られていた。

癌特異的な抗原を攻撃
 前立腺癌の約95%には前立腺性酸フォスファターゼ(PAP)という前立腺組織以外では存在しない抗原が認められる。治験中のsipuleucel-Tは,免疫T細胞を刺激してこのPAPを異物として認識するように設計されたワクチンである。
 Small教授らは,転移を有する無症候性HRPC患者(127例)を,2 週間ごとにsipuleucel-Tを 3 回静注する群とプラセボ群に割り付け,全例を36か月間フォローアップし,データを解析した。
 癌の進行は115例で確認された。全体の生存期間の中央値は,ワクチン群で25.9か月,プラセボ群で21.4か月で,36か月後にワクチン群で34%,プラセボ群で11%が生存していた。診断からの癌進行において統計学的に有意な差を示すという主要エンドポイントは達成できなかった。同教授は「癌進行までの期間はワクチン群で11.7週間,プラセボ群で10.0週間であった。これは,癌進行までの期間,免疫療法施行患者の全体的生存期間の中間マーカーとして用いることは困難であることを示す。しかし,sipueucel-Tが無症候性HRPCに対して生存恩恵を有することが示唆された」と述べている。
 今回の試験は米国の19施設が共同で実施。ワクチンを開発したバイオテクノロジー会社のDendreon Corporation(ワシントン州シアトル)が助成を行った。UCSFでは同教授の主導で同ワクチンを用いた多くの第 I 相,II相臨床試験も実施している。同教授らが第 III 相試験の結果を2005年の第41回米国臨床腫瘍学会(ASCO)年次集会で初めて公表した。Dendreon社ではProvengeの2007年上市を目指している。


前立腺癌PSA検査と直腸指診は死亡率を減少させない[2006年4月27日 (VOL.39 NO.17) ]

エール大学(コネティカット州ニューヘブン)内科のJohn Concato准教授らは,前立腺癌スクリーニングに関する多施設ネスティッド症例対照研究の結果,前立腺特異抗原(PSA)または直腸指診(DRE)によるスクリーニングは死亡率減少に有効でないことが示唆されたとArchives of Internal Medicine(AIM,2006; 166: 38-43)に発表した。

全死因死亡を改善せず
 1989~90年に米ニューイングランド地方の復員軍人局医療センター10施設の外来受診者は 7 万1,661例で,1991~95年に1,425例が前立腺癌と診断された。Concato准教授らは,そのうち2000年までに死亡した501例を症例群とし,年齢,治療施設をマッチさせた生存例501例(対照群)と比較した。
 症例群のうち,前立腺癌死と記録されていたのは136例(27%)であった。症例群では対照群と比べてアフリカ系米国人の割合(10.0% vs. 4.2%)と,合併症を有する患者の割合(72% vs. 56%)が高く,いずれの因子も統計学的に有意な死亡予測因子であった〔それぞれオッズ比(OR)4.46,1.26〕。
 同准教授は「PSAスクリーニングと全死因死亡との関連を検討した 1 次解析ではPSAスクリーニングによる恩恵は認められず(調整後OR 1.08),PSA/DRE併用もしくはDRE単独について検討した 2 次解析でも同様にスクリーニングの恩恵は認められなかった(同1.13)」と説明。「したがって,前立腺癌の診断・治療における最適な臨床戦略は依然として不明で,さらなる研究が必要である。今回の試験も含めて現行のエビデンスに基づけば,無症候の男性に対して死亡率低下を理由にルーチンの前立腺癌スクリーニングの実施を支持するような勧奨はすべきでない。むしろ,口頭でのインフォームド・コンセントを得る際に,スクリーニング効果は不明確であることを患者に説明し,情報を与えたうえでの意思決定を促すべきだろう」と述べている。
 同准教授は「従来のPSA検査に加えて,1990年代初頭からPSA密度やその経時変化の測定,結合PSAと遊離PSAの割合の検査が補助的に実施されるようになった。これにより前立腺癌検出の感度と特異度は向上したようだが,こうした技術と生存率改善との関連を確認したエビデンスは,現在のところ存在しない」と指摘している。

研究時期と評価法で結果に相違
 マサチューセッツ総合病院(ボストン)のMichael J. Barry博士は,AIMの付随論評(2006; 166: 7-8)で「PSAスクリーニングには過剰診断を伴うなどの重大な欠点がある。同検査は特異度が低いため,偽陽性で前立腺生検を受ける患者や,初回生検結果が陰性であっても前立腺癌ではないかとの不安を長い間抱える男性が増えることになる」と指摘している。
 さらに同博士は,ブリティッシュコロンビア大学(カナダ・バンクーバー)保健・疫学科のJacek A. Kopec博士らが最近の住民ベース症例対照研究(Journal of Urology 2005; 174: 495-499)で,PSA検査には中等度の保護効果があると結論したことを取り上げている。同研究での曝露ORは0.65であった。注目すべきことは,検討されたエンドポイントが全死因死亡率や死因特異的死亡率ではなく,転移前立腺癌という代理エンドポイントであったことだ。
 同研究では,カナダ・オンタリオ州内と近郊地域で,転移が確認された症例群236例と無作為抽出した対照群462例を比較した。症例群では対照群と比べてPSAスクリーニング受検率が有意に低かった(OR 0.65)。これは年齢別解析でも同様で,45~59歳の若齢群で0.52,60~84歳の高齢群で0.67であった。
 興味深いことは,Barry博士が「Concato准教授らは1991~95年に前立腺癌と診断された症例を検討しているが,当時のPSA検査受検率は約15%であったと考えられる。一方,Kopec博士らは1999~2002年に転移癌と診断された症例を抽出しており,PSA受検率は約25%に上昇していた」と指摘していることである。
 Barry博士は,いずれの研究も入念に実施されていると評価しており,「これら 2 研究の結論の相違は,エンドポイントが異なるという方法論の違いで説明できる。また,Concato准教授らの解析はPSA時代の黎明期のもので,その有効性が確認され始める前に実施されたと言えなくもない」と述べている。

待たれるPLCO試験の結果
 さらにBarry博士は,カイザーパーマネンテ医療プログラム(カリフォルニア州オークランド)のGary D. Friedman博士らの研究(Lancet 1991; 337: 1526-1529)とメイヨー・クリニック(ミネソタ州ロチェスター)保健科学研究科のSteven J. Jacobsen博士らの研究(Urology 1998; 52: 173-179)に言及し,「DREを用いた前立腺癌スクリーニングに保護効果があるか否かを検討した主要な症例対照研究だが,これらの研究にも結論の相違が認められる」と指摘している。
 Friedman博士らは,カリフォルニア州北部において,転移前立腺癌患者(1991年当時の病期分類でD)139例と,同条件,同数の対照患者とを比較する症例対照研究を実施。DREによるスクリーニングを 1 回以上受けた患者群を,一度も受けていない患者群と比較したところ,人種調整後の前立腺癌転移の相対リスクは0.9であった。同博士らは「したがって,ルーチンのDREによるスクリーニングは,前立腺癌転移の予防にはほとんど効果がないようだ」と結論している。
 一方,Jacobsen博士らは,メイヨー・クリニック近郊における前立腺癌死者全173例を対象に住民ベース研究を実施。症例群では,対照群と比べて癌診断前10年間のDRE受検者数が低い傾向にある(調整後OR 0.51)ことを確認した。また,前立腺癌が疑われる徴候・症状の記載のない患者に限定した場合,DRE受検率はさらに低下した(OR 0.31)。このことから,同博士らは,DREと前立腺癌死との間に強力な負の相関を確認したとして,「DREスクリーニングを実施することで,実施しなかった場合の前立腺癌死者の50~70%を救命できる」と結んでいる。
 Barry博士は「早期PSAスクリーニングの恩恵は害を上回るのか否かという問に答えるには,ランダム化試験を実施する必要がある」と結論している。同博士は,米国のProstate, Lung, Colorectal and Ovarian(PLCO)Screening Trial,欧州のEuropean Randomized Study of Screening for Prostate Cancer(ERSPC)の結果が,2009年には発表予定であることに触れ,「それにより,この問題に決着が付くことを期待したい」とコメントしている。 (本紙 3 月16日号 1 ページに速報を掲載)


スタチンが前立腺癌の予後を改善[2006年3月23日 (VOL.39 NO.12)]

ホイーリング病院(ウェストバージニア州ホイーリング)SchifflerセンターのGregory S. Merrick所長らは,臨床的に限局性の前立腺癌に対する密封小線源療法後のスタチン投与により,術後のアウトカムが改善したとする新知見をUrology(2005; 66: 1150-1154)に発表した。
 同所長は「スタチンが前立腺癌の化学的予防に重要で,根治的局所治療後のアジュバント療法として使用できることが示唆された」と述べている。同所長らは,臨床的に限局性の前立腺癌患者512例を対象に,スタチン投与が密封小線源療法施行後の臨床的進行と長期の生化学的進行なし生存率に与える影響を検討した。スタチン投与群では非投与群と比べて前立腺特異抗原(PSA),PSA密度(density),生検陽性率,病期が有意に改善された。
 術後 8 年の生化学的進行なし生存率は,スタチン非投与群が94.3%であったのに対し,スタチン投与群では97.0%と有意に高く,なかでもアトルバスタチン投与群が他のスタチン投与群と比べても若干高かった(97.8% vs. 94.7%)。また,治療前のPSA高値とbody mass index(BMI)高値は生化学的進行なし生存率の低下と相関していた。同所長は「臨床的に限局性の前立腺癌治療後の男性では,心血管疾患が主要な死因の 1 つで,前立腺癌と心血管疾患の双方に作用すると思われる薬剤は,非常に有用性が高い。予防試験では,単一の疾患を対象にするよりも,全死因による死亡率を低下させるために,多臓器疾患に焦点を当てるべきだと強く信じている」と述べている。


~前立腺癌のPSA検査~治療後の生存率を改善しない[2006年3月16日 (VOL.39 NO.11) ]

ウェストヘブン復員軍人局コネティカット保健医療システム(コネティカット州ウェストヘブン)臨床疫学研究センター所長でエール大学(ニューヘブン)内科のJohn Concato准教授らは,前立腺特異抗原(PSA)測定による前立腺癌のスクリーニング検査は治療後の生存率を改善しないとする知見をArchives of Internal Medicine(2006; 166:38-43)に発表した。

受検率は生存群・死亡群で同等
 前立腺癌は米国人男性の癌で最も多く,癌による死亡の第 2 位を占めている。スクリーニングにより癌検出率は向上しているが,生存率改善に関する他の因子と異なり,治療可能な癌を検出しても放置すれば死亡する。
 前立腺で産生される蛋白質PSAは,健康な男性でも血中から検出されるが,前立腺癌男性ではその値が上昇する。ただし,前立腺肥大症や前立腺感染症の場合にも同値の上昇が認められることがある。
 今回の症例対照研究では,まず,米ニューイングランド地方の復員軍人局医療センター10施設を受診した50歳以上の退役軍人のうち,前立腺癌と診断された約1,000例(前立腺癌による死亡者と同時期の生存者はほぼ同数)のデータを収集した。
次いで,死亡群と生存群で年齢を一致させ,スクリーニングが生存率に与える影響を解析した。癌診断後のフォローアップ期間は最長 9 年であった。
 解析の結果,PSAスクリーニング受検者の割合は,死亡群と生存群で同等であった。筆頭研究者でエール癌センター(ニューヘブン)にも所属するConcato准教授は「今回の研究は,スクリーニングには生存率改善上の効果がないことを示唆している。有効であれば,死亡群の受検率は生存群のそれを下回るはずである」と述べている。
 同准教授らは,直腸指診とPSA検査を併用した場合の解析も行ったが,同じく生存率は改善されなかった。


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