前立腺がん関連ーその7ー

 (Medical Tribuneなどから)
(2010年1月~)


前立腺がんのアンドロゲン枯渇療法が大腸がんリスク増大と関係[2010年12月16日(VOL.43 NO.50)]

 前立腺がんに対するアンドロゲン枯渇療法は大腸がんのリスク増大と関係すると,米ミシガン大学などのグループがJournal of the National Cancer Instituteの12月1日号に発表した。
 前立腺がんに対するゴナドトロピン放出ホルモン(GnRH)作動薬または除睾術による長期アンドロゲン枯渇療法には,副作用の問題など議論がある。動物実験ではアンドロゲンは大腸発がんに保護的に働き,枯渇によって大腸がんのリスクが高まる可能性が示唆されている。
 同グループは,Surveillance, Epidemiology, and End Results(SEER)とメディケアのデータベースから,1993〜2002年に前立腺がんの診断を受け,2004年まで追跡された男性10万7,859例を特定。SEERのファイルから二次原発がんとしての大腸がん発症を確認し,アンドロゲン枯渇療法の転帰への影響を検討した。
 その結果,1,000人年当たりの大腸がん未補正発症率は除睾術群が6.3,GnRH作動薬療法群が4.4,アンドロゲン枯渇療法非施行群が3.7であった。患者および前立腺がんの特性を補正後,アンドロゲン枯渇療法施行期間の長さと大腸がんリスクとの間に有意な用量反応性の関係が認められた(P=0.01)。アンドロゲン枯渇療法非施行群と比較した大腸がん発症ハザード比は,25カ月以上のGnRH作動薬療法群が1.31,除睾術群が1.37であった。


前立腺がんの起源は基底細胞 通説を否定する結果[2010年11月25日(VOL.43 NO.47)]

 幹細胞の性質を持ったごく少数のがん細胞を起源としてがんが発生するというがん幹細胞仮説は,ヒト上皮腫瘍において起源となる細胞の特定に向け関心を高める基となった。
 前立腺がんの場合,管腔細胞の増加と基底細胞の喪失として特徴付けられることから,これまでは管腔細胞が起源であると考えられてきた。しかし,これを支持するエビデンスは,ほとんどがヒトの腫瘍やマウス組織由来の腫瘍における組織学的研究から得られたものである。
 カリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA,ロサンゼルス)分子生物学研究所のAndrew S. Goldstein博士らは,ヒトの良性前立腺組織から基底細胞と管腔細胞を単離する新たな機能的アッセイを用い,単離した細胞にそれぞれがん遺伝子を導入しマウスに移植した。
 その結果,ヒトの前立腺がんに酷似した前立腺がんの起源は管腔細胞ではなく基底細胞であることが分かった。またこの機序として,AKT,ERG,アンドロゲン受容体が基底細胞に協同で働きかけることにより,(1)基底細胞の喪失(2)前立腺特異抗原(PSA)とα-メチルアシル-CoAラセマーゼ(AMACR)を発現する管腔細胞の増加—につながることも確認した。
 以上の結果から,同博士は「組織学的検討のみに頼ることは,ヒトがんの起源となる細胞の同定を誤った方向に導く可能性がある」と警鐘を鳴らしている。詳細はScience(2010 329: 568-571)に掲載された。

高い骨密度が前立腺がんと関連[2010年11月25日(VOL.43 NO.47)]

 前立腺がんと骨密度の関連に注目していたジョンズホプキンス大学(ボルティモア)泌尿器科のStacy Loeb博士らが縦断的加齢研究のデータを検討したところ,高齢になっても高い骨密度が維持されている男性では前立腺がんを発症するリスクが高い可能性が示唆された。詳細はBritish Journal of Urology International(2010; 106: 28-31)に発表された。

高リスクがん患者で特に骨密度高い

 Loeb博士らは,骨の特徴が前立腺がんの進展や転移と関連しているのではないかと考え,その検証のために今回の研究を行った。研究にはボルティモア地域の住民を対象に1958年からさまざまな健康関連情報を追跡した米国立加齢研究所(NIA)によるボルティモア縦断的加齢研究のデータを用いた。同研究のデータから1973~84年に測定された519例の男性の骨密度データを収集し,最後の測定から平均で21.1年間(範囲0.2~35.0年間)追跡した。
 同博士は「われわれは今回,前立腺がん,特に転移性がんを発症する男性と発症しない男性には,骨になんらかの違いがあるという仮説を立てた」と説明している。
 その結果,追跡期間中に76例が前立腺がんを発症した。これらの男性では,前立腺がんを発症しなかった男性に比べて年齢を重ねても骨密度が高いままであった。喫煙,BMI,食事によるカルシウムやビタミンDの摂取量など骨密度に影響するライフスタイル因子を考慮に入れても結果は変わらなかった。
 さらに,全身に転移する進行性の高リスク前立腺がんを発症した18例では骨密度が最も高く保たれていることが判明した。
 しかし,同博士らは「症例数が少ないため,今回の研究結果から骨の特徴とがんとの関連について最終的な結論を導くことはできない。骨密度スキャンを前立腺がんのスクリーニング手段として推奨するレベルのものでもない」としており,「今回の研究の目標は前立腺がんと骨の関連についての理解を深めることにあった」と説明している。
 さらに,同博士は「今回の結果は,性ホルモンや骨の成長因子といった骨密度に影響を与える要因が,他方で前立腺がんの発症と転移を促す可能性もあることを示唆している」と考察。「今後も骨密度と前立腺がんを結び付ける共通要因を探索していきたい。潜在的経路を解明できれば,前立腺がんの発症や転移の予防戦略が立てられるようになるだろう」と述べている。


~PSA導入後の前立腺がん~手術を受けた患者で高い長期生存率 [2010年11月25日(VOL.43 NO.47)]

メイヨー・クリニック泌尿器科のR. Jeffrey Karnes助教授らは,限局性前立腺がんで根治的前立腺摘除術を受けた患者の生存率について長期間の登録データを精査した結果,同手術を受けた男性の生存率が極めて高いことが明らかになった。詳細は第84回米国泌尿器科学会(AUA)の北中部会で発表された。

術後の前立腺がん死亡率はわずか3%

 根治的前立腺摘除術は前立腺と周囲の組織を除去する手術である。筆頭研究者のKarnes助教授らは今回の研究によって,1987~2004年にこの手術を受けた男性1万332例の生存率が極めて高いことを見いだした。この期間は前立腺特異抗原(PSA)検査の導入により前立腺がんの検出能が高まった時期である。
 今回の研究では5~20年目の全生存率,がん特異的生存率,無増悪生存率,局所再発率を調べた。
 その結果,前立腺がんで死亡したのは患者の3%のみであった。5%でがんの他臓器への転移が,6%でがんの局所再発が認められた。被験者の生存期間中央値は19年で,8,000例が現在も存命である。フォローアップ期間の中央値は11年であった。
 同助教授は「今回の研究によって,限局性前立腺がんで根治的前立腺摘除術を受けた患者の生存率は極めて高いことが明らかになった。根治的前立腺摘除術は転移していない前立腺がん患者におけるスタンダードな治療法であることが証明された」と述べた。
 PSA検査の導入以前に行われた諸研究では,今回より低い生存率が示されていた。PSA検査の導入以前は症状あるいは直腸指診(DRE)により前立腺がんを検出していたが,いずれも前立腺外に転移する前に検出できる確率は低かった。


~CYP17の阻害薬~
 転移性去勢抵抗性前立腺がんのOSを4ヵ月延長で[2010年11月11日(VOL.43 NO.45)]
 Abiraterone Acetate(AA)は性ホルモン代謝肝内酵素CYP17の阻害薬である。精巣や副腎皮質,前立腺がん細胞におけるテストステロン産生を抑制するため,既存の化学療法後にPDが認められた転移性去勢抵抗性前立腺がんでの治療効果が期待されている。そこでロイヤル・マーズデン病院(ロンドン)のJohann de Bono氏らは,去勢抵抗性前立腺がんを対象とした国際二重盲検ランダム化臨床第Ⅲ相試験(COU-AA-301試験)を行い,中間解析の結果,AAの顕著な有効性が確認され,試験は早期中止となったことを報告した。

併用群で死亡リスク35%低下

 同試験のデザインは,AA(1,000mg/日)+プレドニゾン(AA群)とプラセボ+プレドニゾン(プラセボ群)との比較であり,1次エンドポイントはOSであった。2次エンドポイントは,PSA増悪までの期間(time to PSA progression;TTPP),画像上のPFS(rPFS),PSAの奏効率であった。13カ国147施設からドセタキセル既治療の転移性去勢抵抗性前立腺がん1,195例が登録され,AA群に797例,プラセボ群に398例がランダム化割り付けされた。
 中間解析(追跡期間中央値12.8カ月)の結果,OS中央値はAA群14.8カ月,プラセボ群10.9カ月で,AA群でOSが有意に延長することが示された(HR=0.65,P<0.0001)。
 またTTPP(10.2カ月対6.6カ月),rPFS(5.6カ月対3.6カ月),PSA奏効率(38.0%対10.1%)についても,AA群で有意(いずれもP<0.0001)に改善されることが確認された。
 グレード3以上の有害事象はAA群(791例)54.5%,プラセボ群(394例)58.4%とほぼ同等に認められた。特にAA群で注意すべきとされた有害事象は,心疾患(4.1%),低カリウム血症(3.8%),肝機能検査異常(3.5%),体液貯留(2.3%),高血圧(1.3%)であったという。
 これらの結果から,試験中止の目安と設定していたOS延長が確認されたため,独立データモニタリング委員会は,試験の非盲検化を勧告。プラセボ群にもAAが提供されることとなった。
 de Bono氏は「ドセタキセル既治療の去勢抵抗性前立腺がんに対して,プレドニゾンにAAを併用することにより死亡リスクを35%低下させることが示された」と結論した。


PSA検診は前立腺がんによる死亡と全死亡に影響しない[2010年10月7日(VOL.43 NO.40)]

海外の主要医学誌から Journal Scan

 前立腺特異抗原(PSA)測定による前立腺がんのスクリーニングは前立腺がんの診断には有効だが,前立腺がんによる死亡および全死亡に有意な影響はないとするメタ解析結果が,米フロリダ大学のグループによりBMJの9月18日号に発表された。
 同グループは,2010年7月までの医学電子データベースを検索。PSAによる前立腺がんスクリーニングと非スクリーニングを比較したランダム化比較試験(RCT)を対象にメタ解析を行った。参加者計38万7,286例を含む6件のRCTが登録基準を満たした。
 解析の結果,PSAによるスクリーニングは前立腺がん全体およびステージⅠ前立腺がんの診断率上昇と関係していた〔相対リスク(RR)はそれぞれ1.46,1.95〕。しかし,前立腺がんによる死亡と全死亡に対するスクリーニングの有意な影響は認められなかった(RRはそれぞれ0.88,0.99)。今回の解析では,PSA測定によるスクリーニングと関係する可能性がある有害性に関しての情報はほとんど得られなかった。


進行リスクの低い前立腺がんでは待機療法も有効[2010年10月7日(VOL.43 NO.40)]

ウメオ大学(スウェーデン・ウメオ)外科・周術期学のPär Stattin博士らは「待機療法(active surveilance,watchful waiting)は,進行リスクの低い前立腺がん患者にとって十分有効となり得る」とJournal of the National Cancer Institute(2010; 102: 950-958)に発表した。

切除術や放射線治療群と比較

 限局性前立腺がんに対する治療は重大かつ持続的な副作用を招く恐れがある。しかし同がんは,実際には生存期間中に進行しない例もあることから,その治療については議論の余地がある。普及しつつある治療選択肢には,待機療法,すなわち病勢進行のエビデンスが得られるまで注意深く経過観察し,治療を延期する方法がある。
 そこでStattin博士らは,待機療法が選択された患者の転帰を調査するため“スウェーデン前立腺がん登録”から70歳以下の限局性前立腺がん患者6,849例を対象に観察研究を実施した。内訳はステージT1またはT2,Gleason score7以下,血清前立腺特異抗原(PSA)値20ng/mL未満の低度~中等度リスクの前立腺がん患者で,1997年1月~2002年12月に,(1)待機療法(注意深い経過観察を含む)(2)根治的前立腺切除術(3)放射線治療—を受けたそれぞれ2,021例,3,399例,1,429例であった。
 追跡期間(中央値8.2年)経過後,待機療法群では413例(20.4%),根治的前立腺切除術群では286例(8.4%),放射線治療群では196例(13.7%)が死亡した。
 前立腺がんに特異的な10年累積死亡率を算出したところ,待機療法群3.6%,根治的前立腺切除術群2.4%,放射線治療群3.3%となった。さらに低リスクの前立腺がん(ステージT1,Gleason score2~6,世界保健機関(WHO)分類ⅠまたはⅡ,血清PSA値10ng/mL未満,2,686例)のみを対象に同率を算出した結果,それぞれ2.4%,0.4%,1.8%となった。
 同博士らは「前立腺がんに特異的な累積死亡リスクは待機療法群よりも根治的前立腺切除術群で低かった。しかし,10年後の追跡調査では,この群間の絶対リスクに大きな差は見られなかった」としている。

累積死亡率は3%未満

 前立腺がん以外の競合する原因による10年累積死亡率を算出したところ,待機療法群が有意に高いことが分かった(待機療法群19.2%,根治的前立腺切除術群6.8%,放射線治療群10.9%)。このことから,平均余命の短い患者には手術や放射線治療よりも待機療法が施行される傾向にあることが示唆された。
 Stattin博士らは「低リスクの前立腺がん患者では,待機療法を受けた場合に,同がんに特異的な10年累積死亡率が3%未満であった。そのため,この治療はこのような男性の多くに適しているようだ」とし,低リスク前立腺がん患者に待機療法が最適であると結論付けている。
 ニュージャージー医科歯科大学(ニュージャージー州ニューブランズウィック)のSiu-Long Yao,Grace L. Lu-Yaoの両博士は,同誌の付随論評(2010; 102: 919-920)で「注目すべきは,保存的治療で管理された限局性疾患患者の多くは,生存率が同年齢の対照者と変わらない点である」と指摘している。
 実際,患者の大半は別の疾患で死亡している。前立腺がんの診断は,健康に対する意識を高め,これまで以上に自身の健康管理に配慮するよう注意を喚起するものとなるべきである。
 しかし,両博士らは「がん研究の報告によると,患者はがん診断後に健康管理のアドバイスを受け入れるようになるが,比較的高齢な前立腺がん患者の場合,このような傾向は認められず,大きな課題となっている」と述べている。


アスピリンの服用が前立腺がん発症に予防的に作用する可能性[2010年9月16日(VOL.43 NO.37) ]

 アスピリンの服用が前立腺がんの発症に抑制的に作用する可能性があると,米フレッドハッチンソンがん研究センターのグループがAmerican Journal of Epidemiologyの9月1日号に発表した。
 同グループは,2002〜05年に前立腺がんと診断された1,001例と年齢をマッチさせたコントロール942例を対象とした地域集団ベースの症例対照研究を行い,アスピリンおよび非ステロイド抗炎症薬(NSAID)の使用と前立腺がんのリスクとの関係を検討した。
 解析の結果,アスピリン非服用群と比べ現服用群では前立腺がんの有意なリスク低下が観察された〔オッズ比(OR)0.79,95%信頼区間0.65〜0.96〕。5年を超えるアスピリンの長期服用と低用量アスピリンの連日服用も,有意なリスク低下と関係していた(ORはそれぞれ0.76,0.71)。
 一方,非アスピリン系NSAIDとアセトアミノフェンには前立腺がんのリスク低下との関連は認められなかった。


アンドロゲン除去療法抵抗性の前立腺がん 新たな受容体拮抗薬の有効性を確認[2010年9月16日(VOL.43 NO.37)]

  スローン・ケタリング記念がんセンター(ニューヨーク)のHoward I. Scher教授らは,アンドロゲン除去療法に抵抗性の前立腺がんを対象とした第Ⅰおよび第Ⅱ相試験で,新たなホルモン療法薬MDV3100の有望な抗腫瘍活性が確認されたとLancet(2010; 375: 1437-1446)に発表した。

抗腫瘍活性と安全性を検討

 前立腺の腫瘍はアンドロゲン(男性ホルモン)の一種であるテストステロンに依存して増殖する。したがって,初期治療では,黄体形成ホルモン放出ホルモン(LHRH)アナログを用いてテストステロン濃度を下げるか,外科的精巣摘除を単独で,もしくはアンドロゲン受容体へのテストステロン結合を阻害する薬剤との併用で施行する。こうした治療により,かなりの腫瘍細胞が死滅し,腫瘍体積も縮小して,前立腺がんのマーカーである前立腺特異抗原(PSA)値は低下する。しかし,一部の腫瘍細胞は不活化しただけで生き残る。そして,アンドロゲン除去療法後,テストステロン値は予測通りに低下するが,それでも検出可能な値を維持する。

 ある程度期間がたつと,不活化されていた腫瘍細胞が低テストステロン環境に順応して再増殖を始める。こうした腫瘍細胞はアンドロゲン除去療法に抵抗性の腫瘍と呼ばれるが,MDV3100には反応する。同薬はアンドロゲン受容体拮抗薬で,受容体に対する刺激作用はなく,腫瘍細胞にアポトーシスを誘導する。

 Scher教授らは今回,第Ⅰおよび第Ⅱ相試験でMDV3100の抗腫瘍活性と安全性を検討。米国の5施設において,転移のあるアンドロゲン除去療法抵抗性の進行性前立腺がん患者140例を登録し,MDV3100の投与を30mg/日から開始。その後,用量を漸増し,最終的な1日投与量を(1)30mg(3例)(2)60mg(27例)(3)150 mg(28例)(4)240mg(29例)(5)360mg(28例)(6)480mg(22例)(7)600mg(3例)―とする7群に分けた。この試験の主要目的は,MDV3100の安全性と忍容性を確認し,最大耐用量を設定することであった。

化学療法治療歴の有無にかかわらず有望

 その結果,いずれの投与量でも抗腫瘍活性が確認された。140例中78例(56%)で血清PSA値が50%以上低下し,軟部組織に腫瘍のあった59例中13例(22%)で反応が認められ,骨に転位していた109例中61例(56%)で腫瘍が安定化した。また,循環血液7.5mL当たりの腫瘍細胞数が5個以上であった51例中25例(49%)が5個未満に低下した。28日超の継続治療における最大耐用量は240mgであった。

 最も多かったグレード3~4の有害事象は用量依存性の疲労で,140例中16例(11%)で認められたが,ほとんどは投与量を減らすことで解消した。

 Scher教授は「今回の試験では,アンドロゲン除去療法に抵抗性を示す前立腺がん患者に対して,化学療法治療歴の有無にかかわらずMDV3100の有効性が確認された。アンドロゲン受容体を介した持続的なシグナル伝達が,こうした前立腺がんの増殖促進に重要であることは,前臨床試験で示唆されていたが,今回の第Ⅰおよび第Ⅱ相試験は,実際の患者で実証したことになる」と述べている。

 さらに「進行性の悪性前立腺がん患者を対象に,全生存を1次エンドポイントとしたMDV3100とプラセボを比較する第Ⅲ相ランダム化試験を既に始動している」と付け加えている。

 米国立がん研究所(NCI)のWilliam L. Dahut,Ravi A. Madanの両博士は,同誌の付随論評(2010; 375: 1409-1410)で「アンドロゲン除去療法抵抗性の前立腺がんに対する標的療法が再び注目を集めている。最近検討が進められているアンドロゲン合成阻害薬abirateroneには,MDV3100と同様の活性が示されており,これらの知見は,アンドロゲン除去療法抵抗性の前立腺がんの進行と転移において,アンドロゲンとアンドロゲン受容体が不可欠であるとの仮説を立証するものである。abirateroneもMDV3100と同様に現在,生存予後の改善を検討する第Ⅲ相試験が進行中である」と述べている。


QOL向上と疲労軽減に手応え 乳がんと前立腺がんの運動プログラム[2010年7月29日(VOL.43 NO.30)]

 現在,ヘンリー・フォード病院(ミシガン州デトロイト)放射線腫瘍科のEleanor M. Walker医長らにより,乳がんと前立腺がんの患者への「運動とがんの統合治療教育」(ExCITE)というプログラムを用いた研究が進行中で,その経過報告が2010米国臨床腫瘍学会(ASCO)年次集会で報告された。

副作用の軽減効果も

 Walker医長は「がんの治療に運動を取り入れることは,患者の心身両面に有益で,副作用の軽減にもつながる。また,疲労や嘔気に悩まされている患者にとっては,治療薬や化学療法の妨げになりかねないサプリメントに代わる,きわめて有効な手段となる」と述べた。
 同医長は,がん患者に対する運動の効果を研究するに当たって,同院と同心血管研究所およびジョセフィン・フォードがんセンターの同僚と共同でExCITEプログラムを開発した。これは,治療中のがん患者に個別の運動プログラムを提供するもので,がん患者は同院のフィットネスセンターに通うか,または在宅で治療中の各段階に見合った運動をする。
 今回の研究は35~80歳の乳がん患者30例と前立腺がん患者20例を対象とし,全員がExCITE開始時に新たに診断を受けた。また,研究期間は,患者の治療中~治療後1年間とした。
 このプログラム開始前に,被験者は同院の心疾患予防科で運動能力,骨格筋力,持久力の測定と血液検査,基礎代謝診断,骨密度,炎症バイオマーカーの検査を受けた。また,治療前の運動許容量,体重,全体的な健康状態,治療を受けるがんの種類に合わせた適切な運動と食事が提示された。
 がん治療の結果,火照り,悪心・嘔吐,不眠症,末梢神経障害を訴える患者には鍼治療を行った。

プログラム参加者が効果を体感

 ミシガン州グロスポインテパークのCheryl Fallen氏は,乳がんの化学療法を受ける一方でExCITEプログラムにも参加している。運動と鍼,適切な栄養摂取を組み合わせた結果,嘔気,疲労,記憶障害といった一般的な治療の副作用は認められなかった。
 同氏は「ExCITEは,術後のリハビリテーションや化学療法,放射線治療に先立つ血行の促進や免疫系の改善など各患者に適した個別の運動メニューを提供するため,がん治療への総合的な取り組みが可能となる」と述べている。
 さらに,白血球数が化学療法で減少した際は,自宅でバンドエクササイズを行ったり,屋外でウオーキングをしたりした。また,体調がよいときは,トレッドミルを使ったり,ジムでボールエクササイズや体力トレーニングを行ったりした。同氏は,このプログラム体験に手応えを感じ「このプログラムは生活を快適にしてくれる。がん患者にとっては大きな支援で,このプログラムにより私は治療期間中でも豊かな生活を送ることができた」と語っている。
 Walker医長は,研究のデザインと介入の方法についてのポスターを同学会年次集会で提示しており,その要約はwww.ASCO.orgで閲覧できる。
 なお,同医長らは現在,がん患者における運動の潜在効果を研究すべく,同プログラムの研究を続行している。


進行性前立腺がん Denosumabが骨関連事象発生までのまでの時間を遅延 [2010年7月15日(VOL.43 NO.28)]

 進行性前立腺がんでは骨転移が多く認められるが,骨転移の進行を抑制するためには,現在,ビスホスホネート製剤ゾレドロン酸が推奨されている。骨転移を有する進行性の前立腺がん患者を対象に,ゾレドロン酸と完全ヒト型モノクローナル抗体denosumabの効果を比較した国際ランダム化二重盲検第Ⅲ相比較試験の結果について,Gustave Roussy研究所(仏ヴィルジュイフ)のKarim Fizazi氏は,denosumabによる骨関連事象(SRE)の初回発生までの時間において,ゾレドロン酸に対する遅延効果が認められたことを報告した。

骨関連事象の発生をゾレドロン酸より3.6か月遅延

 Denosumabは骨吸収を抑制する初の抗体製剤で,破骨細胞分化因子(RANKL)を標的とし,破骨細胞による骨吸収を抑制する。骨粗鬆症の治療薬としても期待されている。
 同試験では,骨転移を有する進行性のホルモン抵抗性前立腺がん患者1,901例(年齢中央値71歳)を対象に,denosumab 120mgを4週に1回皮下投与する群とゾレドロン酸4mgを4週に1回静注投与する群のいずれかにランダムに割り付けられた。1次評価項目は初回のSRE発生までの時間におけるdenosumabのゾレドロン酸に対する非劣性の評価とされた。非劣性の評価が達成された場合(P<0.05)のみ,2次評価項目として,同時間およびその後のSRE発生までの時間に関するdenosumabのゾレドロン酸に対する優越性が評価された。
 その結果,denosumab群の初回SRE発生までの期間の中央値は20.7か月で,ゾレドロン酸群の同17.1か月に対し有意に遅延させた(非劣性についてP=0.0002)。非劣性の評価が達成されたため,優越性についても評価され,2次評価項目としてのdenosumab群の優越性も示された(P= 0.008)。またMultiple-event解析においても,denosumabは初回およびその後のSRE発生までの期間も遅延させた(レート比0.82,P=0.008)。
 OSおよびPFSについては,両群間で差は認められなかった。また有害事象が両群とも97%に認められたが,Fizazi氏は,有害事象の多くは投与薬によるものよりもむしろがん関連によるものであると指摘した。


局所進行前立腺がん
  アンドロゲン遮断療法への放射線療法追加で生存期間を延長
 [2010年7月15日(VOL.43 NO.28)]

 局所進行前立腺がんは標準治療が確立していないため,しばしば低リスク患者への過剰治療や高リスク患者への治療不足が問題となる。そこで現在,代表的な治療オプションであるアンドロゲン遮断療法(androgen deprivation therapy;ADT)と放射線治療(RT)による併用療法(ADT+RT)の有用性を検討する国際ランダム化二重盲検第Ⅲ相比較試験が行われている。今回,プリンセスマーガレット病院(カナダ・トロント)のPadraig R. Warde氏らは同試験の中間解析によって,疾患特異的生存期間(disease specific survival;DSS)と全生存期間(OS)のいずれも,ADT単独と比べてADT+RTで有意に延長したと報告した。

有害事象発現率は上昇せず,疾患特異的生存率を43%改善

 同試験の対象は高リスクの局所進行前立腺がん(T3N0あるいはT4NX,PSA>40μg/LのT2,PSA>20μg/Lかつグリーソンスコア8~10のT2)とし,1995~2005年に登録した1,205例(年齢中央値69.7歳)をADT群(602例)とADT+RT群(603例)にランダムに割り付けた。1次評価項目はOSとし,2次評価項目はDSS,無増悪期間(time to progression;TTP),局所症状のコントロール,QOLと設定された。
 ADT療法は両側精巣摘除あるいはLH-RHアゴニスト投与とし,放射線療法は骨盤照射を45Gy/25回/5週,前立腺照射を20~24Gy/10~12回/2~2.5週とした。
 追跡期間中央値6.0年において,7年OSはADT群の66%に比べて,ADT+RT群では74%と有意に死亡リスクが改善することが示された(HR 0.77,P=0.0331)。さらに,7年DSSはADT群の79%に比べて,ADT+RT群では90%と死亡リスクが43%低下していた(HR 0.57,P=0.001)。
 一方,グレード3/4の遅発性有害事象の発現率は両群とも同等であった。
 以上の結果から,Warde氏らは「ADT+RT療法は局所進行前立腺がんの標準治療となりうる」と結論した。さらに,同氏は「今後,LH-RHアゴニストによるADTの適切な治療期間を検討し,また,同薬の用量増加によるADTが有効か,あるいは用量を増加せずに,RTを追加して治療すべきなのかについても検討すべき」と注意を喚起した。なお,最終解析結果は2012年に発表される予定である。


イヌを訓練して前立腺がんスクリーニングに応用 [2010年7月8日(VOL.43 NO.27)]

 ヒトの尿検体に含まれる揮発性有機化合物(volatile organic compounds;VOCs)をかぎ分けられるようイヌを訓練して,皮膚がん,膀胱がん,肺がんを検出させようという研究はこれまでにも発表されている。Tenon病院(パリ)のJean-Nicholas Cornu氏らは,このユニークな研究で前立腺がんの検証を試みた。その結果,1匹のイヌを使っただけの実験ながらも,100%に近い判別結果を得たと述べた。

将来はVOCsの特定に期待

 Cornu氏らは,PSAスクリーニングまたは直腸指診で前立腺がんが疑われ,針生検を受けた66例のうち,前立腺がんと診断された33例と除外診断された33例の尿検体を冷凍保存し,イヌを訓練した。
 訓練は3つのフェーズに分けられ,最初のフェーズでは,オペラント条件付きの方法でクリッカートレーニング(正しい行動に褒美を与える訓練)を行い,イヌに前立腺がん患者の尿検体のにおいを覚えさせた。
 次のフェーズでは,6つの検体を並べ,そのなかに1つだけある患者の尿検体を見分ける訓練を行った。
 最後の検出フェーズでは,66例の尿検体をかがせて,前立腺がん患者の尿と前立腺がんでない患者の尿を区別させた。
 実験の結果,イヌは66検体のうち63検体を正しく区別した。3検体に関しては偽陽性(前立腺がんでない患者の尿を前立腺がんと判断)だったが,この3例中1例は,尿検体を採取した後に新たに生検を受け,結局,前立腺がんと診断されていたことが判明した。
 イヌを用いた今回の前立腺がん判別訓練では,感度100%,特異度91%,陽性的中率は92%,陰性的中率は100%であり,概念実証研究としてはよい結果が得られたと言える。
 しかし同氏は,別のイヌで同様の実験を行ったところ,完全な失敗に終わったことも明らかにした。多数のイヌを用いた大規模な外部検証は難しいとしながらも,イヌがかぎ分けているVOCsの正体が判明すれば,がんの臭気署名(odor signature of cancer)とでも呼ぶべき分子が特定でき,電子鼻(electronic nose)の開発も可能ではないかと示唆した。


FDA 進行前立腺がんの免疫療法を承認[2010年7月1日(VOL.43 NO.26)]

米食品医薬品局(FDA)は,進行前立腺がんの一部の患者に対し,自身の免疫系を用いる新しい治療法Provenge®(sipuleucel-T)を承認した。Provengeは,既に転移が認められるが無症候性か無症候性に近い,標準的ホルモン療法抵抗性の前立腺がんが適応となる。

白血球アフェレーシスで自己免疫細胞を採取

 米国男性では前立腺がんは皮膚がんに次いで2番目に多いがんで,比較的高齢者で多発する。
 FDA生物製剤評価研究センターのKaren Midthun副所長は「今回,Provengeが利用できるようになったことで,効果的な治療法が限定されている進行前立腺がんの患者に新たな治療選択肢が提供された」と述べている。
 Provengeによる治療は,患者自身の免疫を活性化することで,がんを攻撃するようデザインされている自己免疫療法である。患者の血液から白血球アフェレーシスを用いて採取した自己免疫細胞を,ほとんどの前立腺がんに存在する蛋白質に曝露し,前立腺がんへの免疫作用を賦活して製造する。免疫細胞は約2週間の間隔を置いて3回に分けて静注される。

生存期間を4か月延長

 Provengeの有効性を検討するため,転移性でホルモン療法に抵抗性の前立腺がん患者512例を対象に,ランダム化二重盲検プラセボ対照多施設試験が行われた。
 その結果,プラセボ群に比べてProvenge群では全生存期間が4.1か月延長した。Provenge群の生存期間の中央値は25.8か月であったのに対し,プラセボ群では21.7か月であった。
 Provenge使用患者のほぼ全例に有害事象が認められた。有害事象で多かったのは悪寒,疲労,発熱,背痛,悪心,関節痛,頭痛で,ほとんどは軽度または中等度であった。Provenge使用患者の約4分の1で報告された重度有害事象は,注入部位における急性反応と脳卒中であった。出血性および虚血性脳卒中を含む脳血管イベントは,対照群の2.6%に対し,Provenge群では3.5%だった。


貧困地域の前立腺がん患者は治療を受ける機会が少ない[2010年6月24日(VOL.43 NO.25]

 ケンブリッジ大学公衆衛生学・プライマリケアのGeorgios Lyratzopoulos博士らは「裕福な地域に住む男性と比べて貧困地域に住む男性では,最も一般的な前立腺がんの根治療法を受ける割合が大幅に低い」との研究結果をBMJ(2010; 340: c1928)に発表した。

根治手術の割合が52%低い

 Lyratzopoulos博士らは,前立腺がん患者を対象とした大規模研究を実施し,最も裕福な地域と比べて最貧困地域では,放射線治療を受ける割合が26%,根治手術を受ける割合が52%低いことを明らかにした。
 前立腺がんは男性では最も一般的な悪性腫瘍で,特に1980年代後期と90年代初期から罹患率が上昇している。
 最も裕福な地域では,1990年代後期から今世紀初頭にかけて,前立腺がんが報告される割合が20~40%上昇した半面,5年生存率は約80%上昇している。これは,裕福な地域では前立腺特異抗原(PSA)スクリーニング検査の受診率が高いためではないかと考えられる。
 同博士らは,1995~2006年に51歳以上の男性患者3万5,171例のデータを検討した結果,98~2006年の9年間で1万5,916例の疾患病期に関する詳細な情報が得られた。
 全患者がこの期間に前立腺がんと診断されていた。同博士らは,種々の社会経済的地位の患者群間で,がんの治療管理法にどのような相違があるかを調べた。
 その結果,外科治療を受けた患者の割合は,1995~97年の2.9%から2004~06年の8.4%へと有意に上昇した。放射線治療については,研究期間を通じて25%と安定していた。

説明可能な研究が必要

 Lyratzopoulos博士らは,最も裕福な地域の患者では放射線治療または外科治療のいずれかを受けた割合が高かったことを明らかにした。
 最も裕福な地域の患者では28.5%が放射線治療を受けたのに対し,最貧困地域の患者では21%と差が認められた。同様に前者の外科手術を受けた患者は8.4%だったのに対して,後者では4%で差が認められた。
 年齢,診断した病院と疾患病期などの因子を考慮した場合でも,この傾向は維持された。
 同博士らは「社会経済群間に見られる治療法の差の原因や生存率に及ぼす影響はまだ明らかにされていない。治療にも社会経済的格差が生まれる原因を解明する研究が必要だ」と述べている。
 ヘルシンキ大学中央病院(フィンランド・ヘルシンキ)のKari A. O. Tikkinen博士らは,同誌の付随論評(2010; 340: c2043)で「教育レベルの高い患者は情報の処理が容易で,医師と患者が類似した社会的背景を有する場合には医師と患者間の意思疎通が効率よくスムーズに行われる」と指摘している。
 これらの社会経済的格差の原因は不明確で,格差を低減させる最良の方法は明らかにされていないことから,Lyratzopoulos博士らは今後,予後因子が生存率の差にどのように影響するか研究する必要があるとしている。


第98回日本泌尿器科学会 最新手技から泌尿器科手術の方向を模索 [2010年6月17日(VOL.43 NO.24)]

 泌尿器科の手術教育では,開放手術をいかに教育するかが重要テーマの1つとなっている。盛岡市で開かれた第98回日本泌尿器科学会(会長=岩手医科大学泌尿器科学講座・藤岡知昭教授)のシンポジウム「近未来の泌尿器科手術」(座長=北里大学泌尿器科・馬場志郎教授,関西医科大学泌尿器科・松田公志主任教授)では,ロボット支援や凍結療法など最新技術を駆使した手技から近未来の手術の方向性を探った。

 ・操作性高いRALPは機能温存も劣らず
 ・小児にも有効なLESSは将来の発展も
 ・凍結療法の有用性を検証


操作性高いRALPは機能温存も劣らず[2010年6月17日(VOL.43 NO.24)]

 手術支援用ロボット「ダヴィンチ」が2001年に米食品医薬品局(FDA)の承認を受けてから,同国を中心にロボット支援根治的前立腺摘除術(RALP)の普及が広がっている。わが国では昨年11月に薬事承認された。東京医科大学泌尿器科の吉岡邦彦准教授は同科でのRALP施行例を分析し,将来を展望した。

Learning curveは10~20例の間

 症例は2006年8月~10年2月の前立腺がん150例。すべて限局腫瘍で,Tumor Node Metastasis(TNM)分類で所属リンパ節転移や遠隔転移のないT2以下N0M0を対象とした。術者は6人おり,A 82例,B 25例,C 17例,D 13例,E 9例,F 4例を執刀。患者の平均年齢は64.2歳,術前前立腺特異抗原(PSA)値は平均10.7ng/mL,前立腺容量は同39.6cc(18~200cc)であった。

 原発腫瘍の大半はT1c(127例),Gleasonスコアは6点が75例だった。D'Amicoリスク分類では低30例,中68例,高44例だった。術式はmodified VIPで,手術時間は平均243.3分,うちロボットの操作時間は同198.7分であった。平均出血量(尿含む)は251mLであった。

 術者AのLearning curveは,当初手術時間が400分を超えたが,10~20例を経るうちに4時間以内まで短縮した。術者Bも同様で20例目ぐらいでlearning curveに達した。しかし,全術者を比べると,上達速度にはかなり個人差が認められた。

 断端陽性率は全症例で29.5%,術者1人が施行した80例で23.8%だった。片側神経を温存した42例では12か月後に性交可能が33%,勃起が73%に認められた。両側温存では1か月後に性交可能50%,勃起80%だった。12か月後に尿失禁改善は全症例中92%。術者1人による50例では1か月以内に78%,3か月以内に85%が尿禁制を回復した。

習得には個人差が強く影響

 術後3年のPSA非再発率は全症例で93%,病理学的進行度で見るとpT2症例で100%,pT3症例では76%だった。D'Amicoのリスク分類で分けると術後3年のPSA非再発率はそれぞれ,低リスク100%,中リスク95%,高リスク83%であった。吉岡准教授は「Learning curveは短いと言われていたが,個人差がかなり影響する。術後機能温存は恥骨後式前立腺全摘除術や腹腔鏡下前立腺全摘除術と同等で,Learning curve期以降で改善傾向にある」と解説した。

 ただ,近年はシステムエラーが0.2~0.4%で発生したり,機能温存や合併症率の評価基準が不明瞭であったりとネガティブな報告もあるという。また,急激な普及に伴い,トレーニング不足の医師の増加も懸念されている。

 しかし同准教授は,ダヴィンチにおいてはアームの自由度が高いことや術者が立体映像で手術操作が行えるなど従来の特徴に加え,教育も強化されてきていることから,「われわれの想像を超える進歩を遂げるだろう」との見解を示した。


増加する低リスク前立腺がんの新たな治療選択肢を探る

 前立腺特異抗原(PSA)テストの普及により,限局性前立腺がんが著しく増加し,なかでも低リスク症例の扱いが臨床的課題となっている。第98回日本泌尿器科学会のシンポジウム「低リスク前立腺がん:診断と治療」(司会=香川大学泌尿器科・筧善行教授,群馬大学大学院泌尿器科・鈴木和浩教授)では,過剰診断・治療を回避しつつ,いかに適切な治療介入に結び付けるかについて,最新の知見に基づき,議論が繰り広げられた。

 ・病理学的評価因子の標準化が必要
 ・MRSにより局所療法も可能に
 ・PSA監視療法では再生検が重要

病理学的評価因子の標準化が必要

 三重大学腫瘍病理学の白石泰三教授は,低リスク前立腺がんの動態予測を従来の病理学的因子だけで行うのは限界があると,標準化の必要性を訴えた。なかでも最重要の指標と言えるGleason score(GS)は,改訂版となるInternational Society of Urologic Pathology(ISUP)2005が出されたが,普及の過程で混乱が生じる懸念があるため,低倍率の対物レンズを使用することなど数点の注意を喚起した。

GS改訂版の普及過程での過剰診断を懸念

 白石教授はまず,自らが中央病理医として参加したPSA監視療法の厚生労働省がん研究助成金研究の対象症例の病理学的検索項目を検証した結果を報告した。

 PSA倍加時間(PSADT)が2年以下の症例14例と,2年以上の症例63例の初回生検時の病理学的評価因子を比べたところ,GS,陽性コア数,腫瘍占拠率,腫瘍長はともに差はなく,生検前PSAと占拠率・腫瘍長とで複合的に評価しても両群の結果はオーバーラップしており,低リスク前立腺がんの動態予測を従来の因子で行うことの限界が示唆された。

 また,病理学的評価因子は判定する病理医により結果が変わることもあり,再現性に乏しいことも指摘されている。実際,厚労省研究班の対象は登録前に参加施設の病理医によって前立腺生検標本の診断が行われ,登録後に中央病理医である同教授が標本を観察し,選択基準(GS6以下陽性,コア数2本以下,占拠率50%以下)の確認を行っているが,約2割がGS6以下に該当しないなど,PSA測定と同様に病理学的評価因子の標準化が求められるとした。

 このうち最も重要な因子であるGSは標準化に向けて動き始めている。同教授によると,今後は国際的にもISUP2005が普及し,現在改訂作業中のわが国の前立腺がん取扱い規約でも採用される予定だという。

 ISUP2005は,(1)篩状構造の多くはパターン4(2)パターン4と5は5%ルールを無視(3)複数コアに腫瘍が存在するときは高いほうを採用―などを要点とするが,同教授が1,600例を従来法とISUP2005で判定したところ,症例の約4分の1がGSの変更を要することになった。変更例の多くは複数コアに腫瘍があった際の高いスコアの採用だったが, GS分類改訂版の普及過程で過剰診断が増加することが懸念されるとした。

 以上をまとめて,同教授は「低リスク前立腺がんの動態予測を従来の病理学的因子のみで行うのは限界があり,GS分類の標準化は不可欠だが,対物レンズは低倍率を使用するなど改訂の趣旨や基本的事項を理解しないと普及の過程で一時的な混乱が生じる恐れがある」と注意を喚起した。


MRSにより局所療法も可能に

 帝京大学泌尿器科の堀江重郎主任教授は,同科で取り組む高密度焦点式超音波治療法(HIFU)の経験から,1H-MR Spectroscopy(MRS)を用いることで局在や悪性度診断が可能となり,臨床的に有意ながん病巣のみを非侵襲的に治療する局所療法(FT)が可能となったと報告した。

局在診断やフォローが可能

 腫瘍容量が少なく,一側性であることがFTを行う条件だが,側性を把握するには侵襲の大きいperineal templateの生検が必要なほか,TステージやGS,PSAなどから判断することも難しい。そこで堀江主任教授は,FTを行うためには,(1)前立腺内がん病巣の描出が高感度(2)簡便,非侵襲(3)低コスト(4)腫瘍悪性度―の診断法が必要だとした。

 同科では,前立腺のがん組織では正常組織よりもコリン+クレアチン/クエン酸比(CCr比)が高くなることを利用するMRSを診断に用いているが,局在の把握が可能なほか(),悪性度診断もでき,実際にMRS施行後に根治摘除術を行った症例の全摘標本をGS別にCCr比を見た結果でも,3+3以下のFTの対象となる群で有意に低いCCr比であることを確認するなど,生検と組み合わせることで治療戦略が立てられる指標となることを認めている。

 また,前立腺がんに対するFTには,(1)リアルタイムモニタリング可能(2)経皮,経直腸,経尿道からのアプローチ(3)性機能,排尿・排便機能への影響は最小限(4)将来の根治手術,放射線治療の施行が可能―であることが国際的に推奨されている。しかし,同科では経直腸的プローブで標的に高温を照射するHIFUを臨床導入し,(1)PSA10未満(2)一側性(3)生検14本中2本以内―の症例を対象にしている。

 同主任教授が,全体照射とFTを施行した症例を比較した結果,(1)照射時間の短いFTでは有意に手術時間が短い(2)治療後のPSA推移は18か月以降になると同等(3)治療後の前立腺容積は全体照射で縮小(4)有害事象はFTで少ない(5)FTでは尿道カテーテル早期抜去が可能―など成績はFTのほうが優れていた。再発率も,低リスクの症例に限ると,全体照射とFTには差がなく良好な成績が得られている。

 以上をまとめて,同主任教授は「MRSにより腫瘍の局在,悪性度診断が可能となり,生検と合わせることでFTの施行に必要な情報の収集が可能となってきた。また,低リスク症例については部分照射のHIFUで,全体照射と同等の成績が得られているが,治療後のフォローアップにもMRSは利用できると考えている。真の標的治療のためには,画像ガイド下にFTができるモダリティの開発が望まれる」と述べた。


PSA監視療法では再生検が重要

 司会の筧教授は,自身が班長を務めた厚労省研究班観察研究(厚労省11-10)など,国内外のPhaseⅡ研究を中心に解説を行い,PSA監視療法(AS)の経過観察では再生検の重要性を,また患者選択の精度向上のために新たな画像診断法や分子マーカーの開発が急務だと強調した。

新規画像診断法や分子マーカーの開発が急務

 今年改訂された米国National Comprehensive Cancer Network(NCCN)ガイドラインで,Low riskのなかにVery low riskを設け,期待余命20年未満の該当者の治療選択肢をASに限定したように,限局性前立腺がん低リスク例に対するASは既に標準治療の位置付けながら,病勢増悪に対する懸念などから臨床現場には十分浸透していない。

 筧教授は今回,国内外で取り組まれている3件のPhaseⅡ研究〔(1)わが国の厚労省11-10(2)カナダのトロント研究(3)オランダを中心に欧州で開始されたProstate Research International: Active Surveillance(PRIAS)〕を紹介し,経過観察方法などに関する国際的コンセンサスや,今後の課題について考察を行った。

 同教授が指摘する通り,3件の研究には患者選択基準に採用する指標や基準値に多少の差はあるが,注目すべきは観察方法の違いだという。2002年に始まった厚労省11-10では2年未満だったPSADTが最近の研究では3年未満と厳格にされたほか,PRIASでは前立腺体積に応じて生検本数を増加させ,しかもPSADTが3~10年の患者では毎年の再生検を義務付けるなど,最新の研究になるにつれて,より再生検が重要視されていた。今年1月からPRIAS-JAPANの患者登録が開始されたが,これがわが国のASの普及と低リスク前立腺がんの自然史の解明につながることが期待されている。

 ところで,450例という最大規模のトロント研究で,ASのがん死例は5例という結果が出たように,GS6以下を対象としたASのがん死は100例中1例程度と,いずれの観察研究でもその安全性は根治的治療介入と同等の成績が示されているが,その一方でPRIASにより,患者のパーソナリティーが成績に強く影響すること,ASの継続が現状では容易でないことが示されている。

 厚労省11-10は2002年に国内13施設の協力のもと,117例のASで開始されたが,観察期間の中央値78か月の段階で中止75例のうち26例がプロトコル上は継続が認められたにもかかわらず,排尿困難や患者都合を理由にASを中断し,治療介入した症例だった。以上から,同教授は「患者選択の精度を向上させるためにも,MRI画像の数値化やDNA contentsでの予後予測など,現在進められている研究の進展が望まれる」とした。


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前立腺がんが血栓リスク増と関連
   内分泌療法中の患者で顕著
[2010年6月17日(VOL.43 NO.24]

 ロンドン大学キングズカッレジ(KCH)のMieke Van Hemelrijck氏らは「前立腺がん患者では生命にかかわる血栓塞栓症リスクが増加するが,特に内分泌療法(ホルモン療法)を受けている患者で顕著である」との研究結果をLancet Oncology(2010; 11: 450-458)に発表した。今回の研究により,前立腺がんと血栓塞栓症との関連が初めて詳細に示された。

静脈血栓栓塞症リスクが増加

 がんが血栓塞栓症リスクを増加させることは既に実証されているが,基礎となる機序は十分に解明されていない。事実,健康人と比べてがん患者では,同症を約4倍発症しやすい。内分泌療法を受ける患者が増加しているが,以前の研究から同療法により血栓塞栓症リスクも高まることが示されている。
 Van Hemelrijck氏らの国際的な研究グループは,異なるタイプの治療を受けているスウェーデン人の前立腺がん患者が血栓塞栓性疾患〔深部静脈血栓症(DVT),肺塞栓症,動脈塞栓症〕を発症するリスクと,同国の一般男性のリスクを比較した。今回の研究ではスウェーデン前立腺がん登録(NPCR)のPCBaSe Swedenデータを用いている。
 1997~2007年に3万642例が内分泌療法を,2万6,432例が治癒的治療を受けた。また,1万9,526例が経過観察とされた。報告された血栓塞栓性イベント1,881件を分析した。
 その結果,前立腺がん患者では対照群と比べて,血栓塞栓症を発症する確率が有意に高いことがわかった。治療法にかかわらずDVTと肺塞栓リスクが増加したが,動脈塞栓症リスクは増加しなかった。
 さらに,内分泌療法を受けている患者では,静脈血栓塞栓症のリスクが最も高かった。これらの患者では,一般男性と比べてDVTを発症する確率が約2.5倍〔標準化罹患比(SIR)2.48〕で,肺塞栓を発症する確率は2倍近く(SIR 1.95)になっていた。このリスクは,比較的若年の患者(65歳未満)と進行がんの患者で特に高かった。
 サブグループの解析から,抗アンドロゲン療法を受けている男性では,他のタイプの内分泌療法に比べて静脈血栓塞栓症リスクの増加度が小さいこともわかった。

今後の研究に刺激

 Van Hemelrijck氏は,今回の研究結果から「血栓塞栓性疾患リスクの増加因子は,がん自体(例えば,進行がんは危険因子),治療法やその選択であることがわかった。前立腺がん患者,特に内分泌療法を必要とする患者を治療する場合,血栓塞栓性の副作用を考慮することが重要だ」と結論付けている。
 マサチューセッツ総合病院(MGH,ボストン)がんセンターのPhilip J. Saylor,Annemarie E. Fogertyの両博士は,同誌の付随論評(2010; 11: 406-407)で「今回の研究では,前立腺がんに罹患したスウェーデン人男性の大規模コホートにおいて,住民を対象とした血栓形成に関する重要な分析を行っている。今回の研究結果から,前立腺がん患者においては静脈血栓塞栓症を疑うことが重要だとわかった」と述べている。


前立腺がん 拡散リスクの早期把握に有望 血中がん細胞をマイクロチップで捕捉[2010年5月27日(VOL.43 NO.21]

 ハーバード大学とマサチューセッツ総合病院(ともにボストン)医療工学センターのShannon L. Stott博士らは,循環血中に少数存在するがん細胞をマイクロ流体チップで捕捉し,撮影することにより前立腺がん術後の循環血中腫瘍細胞の観察・計数に成功したとScience Translational Medicine(2010; 2: 25ra23)に発表した。この技術は将来,腫瘍摘出後の患者のモニタリングや治療指針を作成するうえで役立つと見られる。

表面蛋白質に結合する抗体で

 血中を循環する腫瘍細胞は少数ではあるものの,がんの進行を早期に把握し,現行の治療が有効か否かを判断するうえで重要なマーカーとなる可能性がある。固形がん摘出後に再発し,複数部位に拡散した場合,きわめて予後不良となることが多い。腫瘍から種子がまかれるように遊離して血中を循環し,新たな腫瘍に成長する可能性のある細胞を捕捉できれば,がんが体内の他の部位に拡散するリスクを知ることができるかもしれない。今回,Stott博士らは,前立腺がん患者と非患者を対象に,細胞捕捉装置と画像システムを併用して循環血中がん細胞の検出・計数を試みた。

 循環血中腫瘍細胞は細胞表面に特異的な蛋白質を発現するため,血中の他の細胞と識別することができる。今回の方法では,こうした蛋白質に結合する抗体を用いたマイクロ流体チップで細胞を捕捉,次いでこれらの細胞を別の蛍光抗体で標識することで,がんが他の部位に拡散する前に,循環血中腫瘍細胞を正確に捉えることに成功した。

 今回の研究では,前立腺がん患者から採取した循環血中の腫瘍細胞を手術前後で比較した結果,術後に急速に循環血中腫瘍細胞が消失した患者もいれば,数か月後も残存している患者もいた。このように血中に潜伏した腫瘍細胞の残存または消失ががんの再発に影響を与えるかどうか,また,消失までの時間的経過をマーカーとすることで前立腺がんの侵襲性を早期の段階で見極めることができるか否かについては,今後さらなる研究が必要である。


限局性前立腺がん レオウィルスによる治療が有用[2010年5月13日(VOL.43 NO.19)]

 トムベーカーがんセンター(カナダ・カルガリー)腫瘍学部門医学腫瘍学のDon Morris博士らは「各種がんに対する溶解能を持つことが知られるレオウイルスが前立腺がんに対しても有用であることを新たに確認した」とCancer Research(2010; 70: 2435-2444)に発表した。

広く分布する腫瘍溶解性ウイルス

 レオウイルス(reovirus)という名称は,respiratory,enteric,orphan virusの頭文字を取ったものである。レオウイルスは広く自然界に分布しており,リンパ腫や卵巣がん,乳がん,膵がん,高グレード神経膠腫など多くのがんに対して腫瘍溶解能を示すことが知られているが,前立腺がんを対象とした研究は今回の試験が初めてである。Morris博士は「レオウイルスはごく一般的な,どこにでも存在するウイルスで,ほとんどの人が曝露された経験を持つ。知られている限りでは,ヒトが曝露されても重篤な疾患を発症することはなく,軽度の呼吸器感染症や下痢を発症する程度である」と述べている。今回の研究の結果,レオウイルス治療は限局性前立腺がんに対する安全な治療法で,腫瘍細胞に対して特異的な作用を持つことが明らかにされた。

がん組織にのみ作用

 Morris博士らは,前臨床試験と臨床試験の双方において,前立腺がんに対する実験的治療法としてのレオウイルスの有効性をin vitroとin vivoで検討した。臨床試験では,早期の限局性前立腺がん患者6例を対象に,前立腺内の標的としてふさわしい結節性病変に経直腸超音波(TRUS)ガイド下で,ウイルスを単回注入して,3か月後に標準治療の一環として前立腺を摘出し,解析を行った。その結果,毒性は最低限で,安全性と有効性が確認された。また,ウイルスは正常な前立腺組織に影響することなく,前立腺がん細胞のみを破壊した。
 これまでのところ,ウイルスの副作用は比較的穏やかで,経過の良好な軽度の流感様症状のみである。同博士は「今回の研究結果は,将来,前立腺がんの臨床試験において新たな部類のがん治療法を検討する際の足がかりとなろう」と述べている。
 同誌の編集委員でジョージタウン大学ロンバルディ総合がんセンター(ワシントン)腫瘍学のRobert Clarke教授は,今回の研究に参加していないが,「今回の研究結果は,一部の前立腺がんに対する治療法としてのレオウイルスの可能性を今後の臨床試験で検討する際に役立つと思われる」と述べている。 さらに,同教授は「レオウイルスは以前からこうした試験で用いられていたが,私の知る限り前立腺がんに適用された研究は存在せず,興味深い取り組みと考えられる。腫瘍溶解に関する研究は現在あまり行われていないが,近年,注目度が増している分野であることは明らかだ。今後,がん患者の予後を改善するためには,入手可能なすべての情報を役立てることが必要である」と指摘している。 
 今回の研究は,アルバータがん財団,Oncolytics Biotech社,カナダ前立腺がん研究財団の助成を受けた。


専門により前立腺がんの治療異なる 泌尿器科のみと他科が加わるケースを比較[2010年5月6日(VOL.43 NO.18]

 ニュージャージーがん研究所(CINJ,ニュージャージー州ニューブランズウィック)のThomas L. Jang助教授らは「限局性前立腺がん患者では,泌尿器科医,放射線腫瘍科医,腫瘍内科医,プライマリケア医の受診パターンにより,選択される治療法が異なる」との研究結果をArchives of Internal Medicine(2010; 179: 440-450)に発表した。泌尿器科医のみを受診した患者の3分の1が根治的前立腺摘除術を受けていた。一方,泌尿器科医と放射線腫瘍科医を受診した男性では,放射線療法を受ける確率が高かった。泌尿器科医を受診した男性は腫瘍内科医受診の有無にかかわらずホルモン療法,待機療法を受ける確率が高かった。

半数は泌尿器科医のみを受診

 米国では毎年20万人近い男性が前立腺がんと診断されているが,その大多数は限局性(非転移性)である。治療の選択肢には,前立腺と周辺組織を切除する手術(根治的前立腺摘除術),放射線療法,ホルモン療法(一次的アンドロゲン枯渇療法),待機療法が含まれる。Jang助教授は「明白な優位性を示す治療法が存在しないため,最適な治療の選択は困難であることが多い。患者は詳細な情報を得たうえで決断する際,臨床医の臨床的判断,治療哲学,推奨に依存している」と述べている。
 選択される前立腺がん治療に関する臨床医の認識は,専門によって異なっているようだ。このような傾向が治療決定に関連しているか否かを評価するため,研究グループは65歳以上のメディケア受給者のうち,1994~2002年に前立腺がんと診断された患者8万5,088例を検討した。
 4万2,309例(50%)の患者は泌尿器科医のみを受診しており,3万7,540例(44%)は泌尿器科医と放射線腫瘍科医,2,329例(3%)は泌尿器科医と腫瘍内科医,2,910例(3%)は泌尿器科医,放射線腫瘍科医,腫瘍内科医を受診していた。
 診断から9か月以内に根治的前立腺摘除術を受けた患者は1万8,201例(21%),放射線治療は3万5,925例(42%),一次的アンドロゲン枯渇療法は1万4,021例(17%)。待機療法は1万6,941例(20%)が受けていた。

バランスの取れた情報が必要

 選択された治療は受診した専門医と強く関連していた。泌尿器科医のみを受診した患者の34%は根治的前立腺摘除術を受けていたが,これは泌尿器科医のみを受診した65~74歳の患者に対する最も頻度の高い治療法であった。対照的に,放射線腫瘍科医と泌尿器科医の両方を受診したあらゆる年齢層の患者では,放射線療法が最も一般的な治療であった。腫瘍内科医受診の有無にかかわらず,泌尿器科医を受診した患者では,泌尿器科医と放射線腫瘍科医を受診した男性と比べて一次的アンドロゲン枯渇療法または待機療法を受ける確率が高かった。
診断から治療開始までの期間にプライマリケア医を受診する頻度は低かった。この期間中にプライマリケア医を受診した患者は22%で,17%はかかりつけのプライマリケア医を受診していた。年齢,併発疾患,専門医の受診の有無とは無関係に,プライマリケア医を受診した患者では待機療法を受ける確率が高かった。

 Jang助教授は「泌尿器科医と放射線腫瘍科医を対象としたこれまでの調査では,自身の専門に基づいた治療法を推奨する可能性が高いことが示されていた。今回の結果から,このような傾向がメディケア患者に対する治療決定にも影響している可能性が示された。自身が行う治療を優先する前立腺がん専門医の傾向と今回の研究結果を考え合わせると,治療法を決定する前に患者に十分な情報を提供するとともに,バランスの取れた情報へのアクセスを可能にすることが重要だ」と結論付けている。


抗凝固薬の使用の使用が放射線治療後前立腺がんの生化学的制御率を改善[2010年4月8日(VOL.43 NO.14)]

海外の主要医学誌から 

 放射線療法で治療された限局性前立腺がん患者における抗凝固薬の使用が,がんの生化学的制御の改善と関係することを示すデータが,米シカゴ大学のグループによりCancerの4月1日号に発表された。
 臨床データは限られ一貫性がないが,実験的研究から抗凝固薬ががんの増殖と転移を抑制する可能性が示唆されている。同グループは,根治治療として放射線療法(体外照射,小線源療法の単独または併用)を受けた限局性前立腺がん患者662例を対象に,抗凝固薬の抗腫瘍効果の可能性を検討した。
 662例中243例(37%)が抗凝固薬(ワルファリン,クロピドグレル,アスピリンの単独または併用)の投与を受けていた。前立腺特異抗原(PSA)値を測定し,がんの生化学的制御を評価した。追跡期間の中央値は49か月であった。その結果,4年目のがんの生化学的制御率はコントロール群(抗凝固薬非使用)の78%に対し,抗凝固薬使用群では91%と有意な改善が認められた(P=0.0002)。抗凝固薬使用群では4年目の遠隔転移発生率も低かった(1%対5%,P=0.0248)。
 サブグループ解析では,がんの生化学的制御率の改善は高リスク患者で有意であった。多変量解析ではGleasonスコア,T分類,初回PSA値,抗凝固薬使用が生化学的制御率の改善と独立して関係していた。


~早期前立腺がん~発症部位を代謝産物のマッピングで正確に同定[2010年3月18日(VOL.43 NO.11]

 マサチューセッツ総合病院病理学部門のChin-Lee Wu博士らは,最新の画像技術を用いて前立腺組織を色分けし,がんの存在部位を正確に表示できる3次元地図を開発したとScience Translational Medicine(2010; 2: 16ra8)に発表した。

検出精度は93~97
 今回の研究は,がんの化学組成に基づいてがんを調べる新しい診断法への道を開くもので,早期前立腺がんの発見にも使用可能である。早期の前立腺がんは可視化が困難で,現行の放射線技術では,がん性腫瘍の位置を正確に同定することは不可能である。また,唯一頼れるのは生検であるが,通常,発見できるがんは全体の10%にすぎない。前立腺がんは,米国人男性ではがん死のなかで上位を占めており,国際的にも欧米諸国を中心に有意に増加している。今回の研究では,ヒト前立腺のさまざまな代謝産物を特殊な技術を用いて調べた。代謝産物は体内の化学反応により産生される微小分子で,細胞質における“化学的指紋”と言えるが,非常に微小であるため標準的な技術では測定できない。今回,検出された代謝産物のうちのいくつかが,がんに対してより感度が高く,またそれらの特定の組み合わせは,前立腺内でがん化の可能性が高い領域“ホットスポット”を示すものとして活用できることがわかった。前立腺組織におけるさまざまな化学物質や代謝産物の異なる量を測定し,この情報を用いてコンピュータ上で組織特異的な地図を作成した。この地図を用いた前立腺がん病変の全体的な検出精度は93~97%であった。このことから,組織内のすべての代謝的変化の集約的評価により,患者ごとに異なるがんの特徴を把握できることが示唆された。

前立腺がんの診断が自殺とCVDリスクに[2010年2月25日(VOL.43 NO.8)]

 カロリンスカ研究所(ストックホルム)疫学・生物統計学のKatja Fall博士らは,前立腺がんと診断された男性では自殺リスクと心血管疾患(CVD)の発症および死亡のリスクが高まるとPLoS Medicine(2009; 6: e1000197)に発表した。

若年者でより高リスク
 今回の研究では,1961~2004年に前立腺がんと診断されたスウェーデン人男性約17万例の登録情報を検討した。その結果,診断に関連して自殺したのはそのごく一部であったが,自殺リスクは前立腺がんでない男性と比べて診断直後の1週間では8倍,1年を通してもほぼ3倍に増加していることがわかった。
 また,1987年以前に前立腺がんと診断された男性では,前立腺がんでない男性に比べ,診断直後の1週間に致死的な心血管イベントを発生するリスクが11倍に高まり,1年を通しては2倍になった。1987年以後は,致死的および非致死的な心血管イベントの複合リスクは診断直後の1週間で約3倍になり,1年ではやや高い程度であった。
 1987年以前でリスクが高い理由は不明であるが,Fall博士らは「CVDの治療法が発展途上であったことに加えて,疾患がより進行した段階で診断されていたことが影響している可能性が高い。また診断に対する態度がより否定的であったためであろう」と推察している。また,CVDによる死亡と自殺リスクは,高齢者より若年者で高かったが,これについて同博士らは,おそらく若年者のほうが感受性が高く,診断をより深刻に受け止めるためとしている。
 同博士らは「われわれは,前立腺がん診断に伴う情動ストレスそれ自体が,患者の健康にマイナスの影響を及ぼすと考えている。年々増加傾向にある前立腺がん患者を治療する医療従事者は,この点に留意すべきである」と述べている。

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