受動喫煙防止の流れを受け、県庁や市役所で庁舎内の喫煙所を廃止する動きが広がっている。来庁者の厳しい視線を意識し、職員に勤務中の喫煙を禁じる自治体がある一方、喫煙所を残したままの庁舎も残る。
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 福岡市役所の喫煙所。換気扇はあるものの、外部とはカーテンで仕切られただけ。近くの階段や廊下には煙や臭いが漏れ、分煙とすら言えない状態だった。
 こうした中、福岡市は屋内に7カ所ある喫煙所を1月末ですべて廃止する。2月からは屋外と庁舎屋上に計4カ所の喫煙所を新設し、分煙を徹底する。市議会も、各会派の判断で喫煙が許されていた議員控室を全面禁煙にする。
 朝日新聞の調べでは、九州、沖縄、山口の県庁と県庁所在市、政令指定市でほかに屋内に喫煙所が残るのは、熊本、大分、宮崎、鹿児島の各県庁と、佐賀、長崎の両市役所。
 屋内を禁煙にする動きは広がりつつある。
 長崎県は、年明けから新庁舎に移転したのを機に、屋内を全面禁煙にした。旧庁舎には各階に喫煙所があったが、新庁舎では屋外と屋上の2カ所に限った。大分県は、新館14階に残る屋内喫煙所を3月末で廃止することを決めた。健康増進法の改正を見越して、前倒しで屋内の禁煙化をすることにしたという。
 熊本市も2012年から庁舎内の喫煙所を廃止し、屋外に喫煙所を設けた。北九州市は、11年に庁舎内の喫煙所を廃止し、庁舎外に2カ所の喫煙所を設けた。
 福岡県議会は全国の県議会で唯一、委員会中の喫煙が許されていたが、昨年6月に全面禁煙化した。
 さらに屋外の喫煙所を減らす動きもある。
 佐賀県は昨年4月、庁舎新館の屋外に2カ所あった喫煙所を廃止し、建物から離れた自転車置き場に1カ所を新設した。庁舎外壁に沿ってたばこの煙が上がり、職員から受動喫煙対策を求める声が上がっていた。県民からは「始業後や昼休み明けに、すぐ職員が喫煙所にいる」という苦情もあった。
 一方で、屋内に喫煙所を残す自治体もある。
 熊本県は本館と新館の屋内に11カ所の喫煙所が残り、一部は外部と仕切られていない場所もあるという。長崎市は、本館と別館の庁舎内に喫煙室が計4カ所ある。職員の健康増進のため、毎月22日は「吸わん吸わんの日」として喫煙室の鍵を閉めているが、庁舎内を禁煙にする予定は今のところないという。担当者は「できればなくしたいが、たばこを吸いたいという職員のことも考える必要がある」と話す。
 鹿児島県は、屋内から職員向けの喫煙所を一掃したが、来庁者向けとして庁舎2階の屋内に喫煙所を1カ所残している。

勤務中の喫煙。処分の対象に

 職員に勤務中の「禁煙令」を出す自治体もある。
 福岡市は、屋内の喫煙所が廃止される2月以降、職員に昼休み以外の勤務中の喫煙を禁じる通知を出した。九州、山口、沖縄の各県庁と県庁所在市、政令指定市では初めての取り組み。職員が屋外に新設される喫煙所に行くと、席を離れる時間が長くなるためだという。職員が屋内の喫煙所にいる姿を見た市民から「見苦しい」といった苦情も寄せられていた。
 1日25本ほどたばこを吸うという男性職員は、「勤務中の禁煙は突然の話。議会中など仕事の緊張感が高まる時期はたえられないだろう」と戸惑う。一方、吸わない男性職員は「喫煙者が頻繁に席を立つのが許されるのはよくないと思っていた」と歓迎した。
 市は職員が通知に従わず、勤務中に喫煙を繰り返した場合、処分の対象にする考えだ。市の人事担当者は「職員には今も節度ある喫煙を求めており、服務管理の適正化が目的。決して処分が目的ではない」と説明する。
 高島宗一郎市長は会見で、「私はたばこを吸ったことはないが、喫煙する方にとっては大変だろうなと受け止めている。禁煙の流れをご理解いただければ」と述べた。
 全国20の政令指定市ではほかに、大阪市と堺市が職員に勤務中の喫煙を禁じている。
 大阪市橋下徹・前市長時代の12年5月、職員の服務規律確保を目的に、罰則付きの勤務中の禁煙通達を出した。警察OBを含む査察班を設け、職場に吸い殻が落ちていないか抜き打ちで調べた。
 市人事課によると、これまでに減給や10日~1カ月の停職処分の事例が200件ほどあるという。担当者は「通達は市長が代わった今も生きている。最近は処分も減ってきており、効果が表れてきた」と話す。 
堺市も11年12月から大阪市と同様、職員に昼休み以外の喫煙を禁じている。勤務中に頻繁に席を離れることが望ましくないことや、市民の健康増進を進める市職員が率先して禁煙に取り組む必要があるという理由だ。担当者は「市民の皆さんの目を考えた措置。6年が過ぎた今は浸透している」と話す。
 神戸市は禁煙通達は出していないが、11年5月から庁舎外にも喫煙所がなく、職員は勤務中は事実上喫煙ができない状態という。
 <受動喫煙対策に詳しい大和浩・産業医大教授(健康開発科学)の話> 煙が漏れる喫煙所を屋内に残していた福岡市は全国的にも遅れていたが、勤務中の禁煙を決めたことで一歩前進と言える。勤務中の喫煙は仕事効率が低下し、周囲の非喫煙者が仕事を補うことにもつながる。さらに喫煙者の息や衣服に付着するタールの粒子を同僚が吸うことで3次喫煙も起こる。勤務中の禁煙を徹底することは受動喫煙対策にも有効だ。
 九州には熊本県宮崎県など屋内に喫煙所がある自治体も残るが、喫煙所のPM2・5濃度は環境基準の10~25倍ほどに上る。県は灰皿を清掃する人の健康に責任を負えるのか。たばこを吸う自由はあるが、他人に危害が及ぶことも考える必要がある。(平成30年1月)-朝日新聞から