INTRODUCTION

.米誌、”DIRT BIKE”でスコットサマーズが書いた、興味深い記事が載っていたので皆さんに紹介したいと思います。 彼とは93年のシンシナティーのディーラーショーで会ったのが最初でしたが、それ以前に個人的には僕もXRファンのひとりとして、どう考えても分の悪いあのXR600で2スト勢に立ち向かう、一人の異色なライダーの存在に、海外のオフロード誌などで密かに注目しておりました。 最近ではやっと、日本の雑誌も彼の凄さに気づいて、国内のレースに呼び寄せたりしてますが、それは随分前に僕が一度、彼の記事を訳して国内各紙にバラ蒔いた事が、効を奏したためだろうか?(と、自分では内心そう思いたい・・・・)。
昨年、サマーズが来日した時、AAグランプリで、彼は僕が持ち込んだ「XR440」に非常に興味を抱いたようで、ピットまでメカニックのフレッドとやって来て、長い間質問責めにあった。それから試乗ということになり、このXRの達人から後でいろいろと貴重なインプレやアドバイスを聞かせてもらった。スコットサマーズはそのダイナミックな走りとは対象的に、バイクから降りたときは別人のようにとても物静かな青年で、彼の文章を読んでみても、なかなかのインテリであることが良くわかる。 好運にも僕は職業柄、結構、いろんなアメリカンライダーと話をする機会に恵まれているけども、そのなかでも彼は、紛れもなく五つ星のナイスガイで、時として放つユーモアのセンスもべりグッドだ。一言で言えば、「柔和な美顔の内に激しい闘志を秘めた好青年」といったところでしょうか・・・。
そんな訳であまり誉めちぎると変な誤解を受けそうなので、ここらで止めときますが、これを読んでみて、ひとつ皆さんも彼の所有する広大なファームで特訓など受け、GNCCにトライして「東部の男どもの心意気」とやらに、一度触れてみてはいかがでしょうか?
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"EAST V,S, WEST" 

BY SCOTT SUMMERS

JOHNNY CANBELL DESERT RACER TRIES GNCC

今年の春、僕とメカニックのフレッドはカルフォルニアのトランスにあるレースショップでジョニーキャンベルが
AMAのGNCC(GRAND NATIONAL CROSS COUNTRY)に出たがっていることを知った。
ジョニーは昨年(1996)、ネバダラリーで優勝し彼が最も優れたデザートライダーのひとりであることを証明してみせたが、
ライディングのさらなる向上とそのスキルの幅を広げたがっていた。GNCCへの参加はそんな彼にうってつけの場所であるから、
ミルフィールドであるレースの前に、1週間ほど彼をぼくのファームでのプラクティスに招待することになった。
ジョニーの興味と熱心さは僕が以前、西海岸であるキャシーフォークのレースに出たがっていた頃の事を

僕に思い出させた。考えてみれば僕とジョニーは同じXR600に乗りながらアメリカ大陸の西と東という
全く正反対のロケーションいるけれど、同じレースに出ることで質疑応答が可能になり、お互いのレベルアップに貢献出来るはずだ。


そしてジョニーにとってこの機会は、彼のいわば「バックツーザイースト」でもありGNCCへの初めてのトライという事になる。
レースが終わると彼はブルース
オグリビー(BAJA1000のWINNER、アルベーカーと共にXRの開発に参加)と再び西海岸に帰ってしまうが、
ネバダラリーが始まる頃にはまた一緒に走ることになるだろう。
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  ジョニーは彼のワイフ、フェイと一緒に途中、アシスタントのブルースと合流しながらカルフォルニアからケンタッキーまで約3000マイル(4800KM)近い道のりを自らハンドルを握りながら彼のボックスバンでやってきた。
僕は彼にXRの貸出しとレースに必要なすべての準備を申し出たが、この「西部の男」は
われら東部の男達に世話を焼かすことをあまり潔しとしなかった模様だ。僕とフレッドにとってここでは何ひとつ
足りないものはなかったし、何の気遣いも要らなかったが、彼らはこの貴重な機会をフルに体験するため
すべて自前で挑みたかったようで、またそれが僕らの本場での仕事の邪魔をしない事になると思っていたようだ。
植物と樹木が密集した僕らのファームに着いたとき彼は開口一番叫んだ。
「東部でもこんなところは初めてだ。
以前、山の頂上付近でパインツリーの中を走ったことはあるけど、ここはまるでジャングルじゃないか!」
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ジョニーはレース用と練習用の2台のXRを持ち込んできていて、彼が頭で描いたイーストのコンディションに合わせて
セットアップされていたが、サスペンションはデザートのセッティングのままになっていた。

日頃慣れ親しんだものの方がいいと判断したからだ。例え障害物が西と東で異なっていても、経験のないまったく
異なるセッティングより
慣れたサスペンションの挙動の方が分かりやすいし、またヒットするときはスピードで
対応できると
彼は考えていたようだ。確かにそれは理にかなっている。
僕は彼を約6マイル程あるいつもの練習コースに連れ出した。このコースは実際のGNCCのそれよりも遥かにタフ
でロックセクションや急なアップヒル、生い茂る樹木の中の深い轍、樹の根や切り株などが待ちかまえている

実にテクニカルなコースで、ウェットコンディションだと一周も出来ないくらいの、プラクティスには格好の場所だ。
もし彼がここをマスターすればミルフィールドのコースなんてまるで朝飯前になるだろう。
「ここはとんでもないね!」とジョニー。
「ソフトサンドや花こう岩が分解したデザートに比べると、まるでトラクションの感じがつかめない。

だけどこの熱さと湿気がひどくなければここは最高の場所だね。
君の100エーカーにはモトクロスコースからロックの渦巻セクションまでなんでもござれだ!」 
しかし実はこの頃のケンタッキーはドライな気候が続き気温も僅か25度位しかなく、
これでもまだ随分ましのほうだった。キャンベルはこの難易度5クラスのコースが如何にキツイか、
またラフなロースピードセクションで
本当にくたびれてしまったことを話した。
言うまでもないが彼はコース読みから起こるメンタルな疲労度の方が多い、ハイスピードセクションが得意で、
ここのようにローとセコンドギヤの多用を強いられながらまさに、障害物を「乗り越えていく」
ことで伴う
肉体的な疲労には慣れていないように見えた。 そこでとりあえず僕らは互いにマシンを乗り換えてみた。

先ず最初に気付いた事はエンジンが両方ともストックなのにパワーの出方がまるっきり違っていたことだった。

ジョニーのマシンはトラクションフィールを掴むのが困難で疲れた。一方、ぼくのXRはヘッドパイプと
ジェッティングが僅かに異なっていたが、もっとスムーズで印象としては
あくまでもノーマルにほぼ近いものの、
低速から高速まで全体に平均して上回っている感じだ。それに比べ彼のXRは特に中高速域がパワフルだった。
マシンが同じコンポーネンツでありながらサスペンションもまた全体的に異なっていた。僕のXRは跨るとシート高が
ありプログレッシブな特性で全体にバランスされているが、
彼の600はリヤがやや下がった感じで
大きなインパクトを受けたときにサスペンションが速く動き過ぎるのを押さえるといったセッティングになっていた。
ハイスピードでロックや溝、サンドのウープスをヒットした時、マシンの挙動やステアリングに大きな影響を与えないためだ。
.ジョニーは僕が彼のセッティングに一種の違和感を持ったのと同じように、のXRに対しても同じ事を感じていたようだ。
「スコットのXRは本当に気味が悪いほど僕のセッティング違っているけどここのシチュエーションでは
見事に
っていると思うな。まさにこれはGNCCのセブンタイムチャンピオンの為のセットアップだね」。
ハンドルバーの長さも初めは全く違っていたが、ジョニーは短くてプロテクションがしっかりしたものが
重要であることを学んだようだ。
週の終わり頃には2台とも同じ様な仕様になっていた。「デザートでは障害物を避けるための自由なスペースが
ありマンザニアの木のブッシュや玉石を避けるのに左右で50フィートの余裕があるといった具合だ。
しかしファームでは」とジョニー曰く「そんなスペースがないと言うことをしっかり認識していなくちゃいけない。
つまりスローダウンしなくちゃいけないんだ、1インチよけ損なっただけで木や他のもっとひどいものを
ヒットしてしまうからね、1週間のライディングでようやく僕もこの荒れたトレールそのものの、
なんたるかが分かってきたよ。つまり僕自信がこのトレールそのものにならなくちゃいけないんだ!」
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そこから僕らはオハイオのGNCCに出場するためにミルフィールドに向けて少し移動した。
イベントの前日、思惑どうり雨が降った。前日の土曜日にスコットと10マイルのコースを4時間掛けて
歩いて下見をした。スコットはベストのラインを指摘し作戦を長々と話した。が、しかしデザートライダーの
自分にとってはラインや、
ややこしいコースマークを憶えたりは少々苦痛だったし、マディーコースはカルフォルニアのホリスターで、
88年に走ったのが最後と言うありさまだ。それに歩くだけでもこんなに体力を消耗することも驚きだった。
 レースの日、ジョニーは現在のGNCCのプロフェッショナルな体制についてナショナルのMXと関連づけて話した。
「ここにはナショナルと同じようにたくさんの観客が居るね。僕らのデザートレースでは彼らは砂の彼方だ。
しかしMXはまるでドッグレースのようにエゴとエゴのぶつかり合いだけど、GNCCはとてもフレンドリーな
ムードで、とにかく楽しむことが第1と言った感じだし、ナーバスなサイコ野郎がいないね。
いろんなTシャツや出店、それに好きなライダーと交歓出来るように写真撮影コーナーがあったり、
おまけにこのイベントのFM放送までしてるんだから!」。
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ケンタッキーでやったすべての事はジョニーにとってとても効果的だった。
しかしふたつの要素がレースの日に頭をもたげ、お互いに似通ったことにはならなかった。
雨はコースを完全に水浸しにし、しかも300人ものコンペティターがそこにはいた。
「スタートは良かったんだ」とジョニーが話す。
「しかしすぐさま森の中に入ってからは、僕はまるで水の中から地面に飛び出した魚のように3時間も泥の中を
のたうち回っていたんだ。ファーストラップはそれでもまだ良かった方だ。
2周目からコースの荒れ様はひどいもんだった。デザートでは雨は砂を引き締めトラクションが良くなる。
東では雨はただフットペグやフォークを最後には引きずってしまうほど深い轍を作りあげてしまうだけなんだ。
デザートと違ってマシンの木の根や轍に対する反応の仕方がとてもイヤな感じがするね。
デザートでは僕は常にテンションをあげて状況に素早く反応し対処する。単にコースを周回するだけの事で
こんなに苦しんだことがないんだ。ここだと僕はボロ布のように擦り切れ、恐さもあってひどく疲れててしまった。
1周目に小さな丘の登りで他の15人のライダーと一緒に10分程スタックしてしまった。
もし彼らの助けがなかったらずっとそこで過ごすはめになっただろう」。
 「XR250の方がもっと速く走れたはずだ。ここでは僕は600のパワーをまるで使いこなせなかった。
それでも2ストロークに乗らなくて良かったと思う。アルセルを長く開けれるデザートとは随分違う。
ここでは常時、コンスタントなアクセルワークやブレーキング、すばやくターンを行い体重移動をやらないといけない。
クラッシュは最悪を意味する。泥で重くなったマシンを引き起こすのは大変だ。
僕は1年分の汗をかいてしまった気がする。オハイオでは0.5Lのキャメルバックで充分だけど、
その倍の量をフィニッシュする随分前に使い果たしてしまった」。
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「このイーストでレースをやっていくには」とジョニーはさらに続けた。
「もっと上体の力を付けないと絶対にダメだし、サスペンッションのセッティングに時間を掛けないといけない。
車体を高く保つことは轍に対して有利だ。またスコットのフォークブレースはこの轍にハンドルを取られそうになるのを
防ぐのにとても効果がある。
とにかくバイクをもっと軽くしてパワーをスムーズに使えるようにトレーニングが必要だ。
サマーズの泥よけのホイルディスクとフェンダースキンは絶対に使いたいな。
それに雨や泥がグリップに着くと握っているのが大変だ。その点サマーズはグリップとレバー類に僕が
見たこともないようなうまい細工をやっている」。
ジョニーはデザートではステアリングダンパーを使っている。
ここでも2ストロークで戦っている選手のほとんどのマシンに取り付けられていた。
しかしジョニーも僕もXR600には必要ないと言うことで意見が一致していた。
ダンパーはハイスピード走行の時、ダストの中で眼に見えない障害をヒットしたときなど非常に効果がある。
イーストのコースではスピードがあまりでないため、何が向かってくるのかが良く分かるからリアクションするのに
間がある。もともと直進性の強いXR600にコンバインすると明らかにダンピングの特性が過剰になる。
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大切なことは、レースでは自分がよく理解し慣れ親しんできたことをむやみに変えてはいけないということだ。
ミルフィールドでジョニーもこの鉄則を守っていた。
「3時間の泥と轍とのマッドレスリングの後、初めてのイースタンのレースがやっと終わった。
5周したのにたったの50マイル(80KM)しか走っていなかった。向こうだと180マイル(300KM)は軽くいける時間だ。
こんなコンディションの中で他の選手が絶対に不可能と思える、信じられないような速さで走っていることに、
本当に仰天してしまった。勿論、リザルトには決して満足していない。レースのあいだ中まるで錨が
体にくっついているような感じだった。しかし充分楽しめたし、何かひとつのことを成し遂げた思いだ。
また新らしい経験を積んで自分のスキルの幅を広げることが出来たと思う。
何よりも先ず、ウッズライディングでは充分な練習とフィジカルなトレーニングが大切だ」。
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ジョニーはまぎれもなくトップランクのライダーであり、しかもイーストの僕らがやっている事にも
眼を見開いている真のプロフェッショナルだ。今回の結果はウッズライダーがデザートライダーより勝っている
ことを意味している訳ではない。MX、デザートレース、エンデューロ、またGNCCであれ、
違うスタイルの競技に慣れそして極めるには時間が必要だと言うことだ。
 ジョニーとは本当に素晴らしい時間を一緒に過ごすことが出来た。
そしてこんなに楽しい思いで行動を共にできる男がいる事を、僕に教えてくれた彼に心から感謝したい。
今回の体験が彼の今後のレースに役立つこと願うと共に、このコラムがこれから初めて
GNCCに参加するライダーの参考になってくれればと思っている。
そして今度はウェストではジョニーが僕の先生になる番を何よりも楽しみにしている。
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米誌 DIRT BIKE JAN/1997 より
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JOHNNY CAMBELL’S GNCC SETUPS
エンジン
ボア:ストック 97XR600/XR600’88−’90用
アルミニカジルシリンダー&マグネシウムクラッチカバー
エキゾースト
STD EX−PIPE、FMF MEGA−4
キャブレター
STD・KEIHIN40MM
エアフィルT−ア
K&Nパワーフィルター
スプロケット
F:14  R:48
サスペンション
STD
FMFでリバルビング
アンダーブラケット
ワークス仕様
トップブリッジ
ANSWER TRIPLE CLUMP
ハンドルバー
PRO TAPER CR−HI
ブレーキ
XR400用フロントマスターシリンダー&レバー
フットペグ
ワイドステップ
チェーン
DID ERV2 O−リング
CR用 ボトムチェンローラー
タイヤ
PIRELLIーX (ウェット時)
PIRELLI MT18(ドライ時)
GNCC ルール概要
競技時間は2時間30分〜3時間30分
スタートはエンジン停止からの、いわゆるデッドエンジンスタートで30秒から60秒の間隔。
間隔は正確に計測され、すべてのライダーには総合優勝の資格がある。
コースはクローズドコース。12KMから20KMまでの周回コース。
コースはナチュラルコースである。但し、一部のMXコースでは人工のジャンプ台などを観客へのアピールの為に設置してある。
13戦後、ベスト8までが成績順に次年度、そのゼッケンが与えられる
シリーズポイトはその大会毎のクラス成績の合計ポイント。
1位:20POINT 2位:19 3位:18....
チャンピオンシップは各クラスごとと、3つのクラスをまとめた総合優勝の2つのタイトルに分かれる。
チェックポイントはショートカットを防ぐためコース脇に未発表で設置する。
スタート時刻はいずれも12時00分。
レースは2日間で行われ初日は2輪。クワド、その他は2日目に開催。
クラス分けはプロ、アマチュア、レディースがありジュニア、シニア(30、40、50歳台)の年齢区分もある。
.USA問い合わせ先:(304) 284 0084
RACER PRODUCTION