日本医療マネジメント学会愛媛県支部長挨拶


<2019年度 挨拶>

日本医療マネジメント学会愛媛支部長 櫃本真聿
  〜地域包括ケア時代と働き方改革〜
皆様、地域包括ケア時代の医療マネジメントに日々ご尽力いただき誠にご苦労様です。2010年に愛媛県支部が発足して以来順調に発展し今年10年目を迎えました。皆様のご協力ご支援の賜物と心から感謝申し上げる次第です。今年11月3日(文化の日)には、愛媛生協病院長の今村高暢氏を総会長に、「ヘルスプロモーションの視点から考える地域包括ケア」をテーマに、総会が開催されます。この10年間で、かつてない医療の大変革が求められており、ヘルスプロモーションはその大きな原動力であり、極めて時期を得た記念大会にふさわしいテーマだと、私自身皆様と議論できることを心から楽しみにしております。  さて昨今、医療・介護や行政分野において、幅広く地域包括ケアシステムが強調されておりますが、一方企業では、過労死や自殺問題そして人手不足を背景に「働き方改革」が、法主導で急速に推進されています。これまで聖域的な扱い?!を受けてきた医療・介護分野においても、平成30年の診療報酬改定の柱として、地域包括ケアシステムと並んで働き方改革の導入が明記されました。私は一貫して公衆衛生マインドの下、マネジメント力を微力ながら実践して参りました。その中でヘルスプロモーションの専門家として地域包括ケア時代の医療や地域づくりに取組む一方で、労働衛生コンサルタントとしての産業保健分野(特にメンタルヘルス関連)にも関わり、まさに二足のわらじを履いて活動してきた経緯があります。しかし今となっては、「生活の質・仕事の質」をいかに向上させるかといった、両者の共通性が明らかとなり、もはやあえて区分する必要のないことを実感しています。「働き方改革は長時間労働の是正ではない」を踏まえれば、これら両改革を推進することは、時代に適応した「質の向上」を目指す、今後の医療マネジメントの根幹であると確信しています。 長時間労働の是正に着目した方針を、半ば強引に現状の医療・介護に持ち込むことは、現体制の崩壊を招くのではないか懸念が沸いてきます。一般企業でも同様ですが、働く時間を短くするだけでは行き詰まることは明らかです。働き方改革には「仕事の価値」そのものを上げる必要があり、言い換えると、生産性を上げるために「個人の仕事の価値や意味を考え直すこと」が求められていると思います。目の前の課題解決に振り回され誰かにやらされるのではなく、「何のため」を意識して、自らやりたいことだと納得して取組むことが大切です。 「仕事の成果」を「時間」で割れば、生産性が求められますが、長時間労働の改善が進めば、重要なのは「仕事の質」をいかに上げていくかであり、それを通じた各々の生産性向上が図れるのだと思います。AI技術の進歩等により、近い将来人が担わなくてもよい仕事も多く出てくることは明らかです。より質の高い付加価値の高い業務を、限られた時間で効率的に個人が行えるよう、職場・働く人の意識、法律の整備など様々な面で改革していくことが急務です。 医療や福祉の分野でも人材不足が深刻化を増しており、外国人労働者の育成確保が喫緊の課題となっていますが、働き方改革は、仕事の質の向上に重点を置いて、「働きやすさ」「働きがい」という面から考えていかなければなりません。職員の能力・モチベーションを引き出し、成果へと結びつける人材マネジメント手法を磨いていかなければなりません。ありたい働き方をイメージして、その実現に向けてスタッフが奮い立つような仕掛けや、具体的なプロセスを用意することが必要です。管理職の役割の重要性を認識し、さらに必要なマネジメントスキルを磨くことです。互いをエンパワーできるワークショップなどを通じた意識改革や、研修などによるコミュニケーション力の向上が求められます。個人の活動を質・量の両面からタイムリーに見える化し、相談や指導の適宜できる体制を整える仕組みが不可欠です。 このところ、異業種を対象に地域包括ケアに関する講演を依頼されることがよくあるのですが、「企業経営にも役立ちます」と言われることが少なくないのも、真の働き方改革の目指すべき方向を考えれば、地域包括ケア時代の医療マネジメントと極めて共通しており、確かに納得できるのです。長時間労働の削減策が先行する中で、働き方改革の本質に目を向けて、仕事の質向上に資するマネジメント力の向上やマインドの普及に、ブレないで取組んでいくことが、極めて重要だということを改めて感じています。
 令和元年6月20日


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