日本医療マネジメント学会愛媛県支部長挨拶


<2015年度 挨拶>
地域包括ケア時代の医療マネジメント

日本医療マネジメント学会愛媛支部長 櫃本真聿

当会も古林事務局長はじめ役員のリーダーシップの下、会員の皆様の積極的なご参加を頂き、5年目を迎えることができました。お陰様で会員増と併せて学術集会は質・量とも毎年発展してきております。第5回学術集会はHITO病院院長石川賀代様を会長に初めて東予地域開催の運びとなりました。関係者の皆様に心から感謝申し上げます。 さて我が国の医療・介護環境は少子高齢化を背景に「地域包括ケア時代」を迎え、医療と介護の連携や在宅看取りを在宅医療とするこれまでの狭義の解釈から、我が国の高齢社会を乗り越えるための、医療福祉はもちろん地域資源が総動員して取り組む「地域づくり」として大変革が求められています。病気を治すための医療ではなく、生活に戻すための医療が重視され、それを実現するための多職種連携等マネジメントの重要性はますます高まってきています。 日本の高齢化は「人口遷移」と言われ、江戸時代からずっと1980年頃まで50歳以上の割合が2割程度であったのが、2040年までの数十年で一気に6割を占めるようになる、この急激な変化に対応できるかが命題です。2030年には、65歳以上の働ける総時間が、65歳以下が働いている時間を遙かに上回ります。若い世代は次世代を産み育て、国際競争に立ち向かうことに専念し、地域づくりは「元気高齢者」が担うという新たな役割分担が期待される時代となります。ここで言う元気高齢者は、例えときどき医療や介護を受けていても自分らしく生き地域のために何かをしたいと思っている方々を指します。 医療費は、高齢者医療費の伸びを若年人口減による患者減が相殺し、2030年には約3割増が推測されています。病床機能報告制度や医療ビジョン等に伴う病院機能分化による「まあまあ医療」の普及により、この伸びの縮小が期待されています。一方介護費は、介護保険創設時から25年間で約6倍増と予測されています。要支援者が介護保険の予防給付から、生活総合支援事業等による市町村主導の高齢者の健康づくりとして、自立促進を図るシステムへの舵取りが望まれます。 WHOの健康定義は、頑強な身体づくりや疾病予防を重視し、健康をゴールと位置づけてきましたが、高齢化に伴い、限られた時間をいかに自分らしく生きていくか、まさに死に方を意識した新たな健康観が、社会において認知される必要があります。マズローの三角を逆転するような、何かしら人のために役立ちたいとする高齢者に対応できる医療や介護そして地域づくりが求められるのです。 公助依存から自助・共助重視への移行が求められています。長年の公助主導体制のために、自助、互助・共助が衰退化しており、これらを賦活化するコミュニティづくりが重要な課題です。国民の多くが公助と誤解している医療・介護制度を、共助として再認識して、資源の有効活用を図らなければなりません。 これらを背景に、医療の新たな目的は「元気高齢者の育成支援」といっても過言ではありません。診断・治療重視の医療だけでは、社会的弱者として医療や介護などに依存した高齢者を増やすばかりです。現在の高齢者は、加齢や慢性疾患により、要支援・要介護・要医療となり、医療・介護“べったり”の社会的弱者となり、医療・介護依存が進行し自立性が低下し、自分らしさを見失った状態に追い込まれてしまっています。高齢者や障害者などのストロングポイントに着目し、社会的弱者としてケアするのではなく、ときどき医療・ときどき介護の中で、各々の能力を引き出し、社会に活かしていくことが、日本にとって最大の社会資源を育てることにつながります。「元気高齢者」を増やすことを共通のベクトルにして、医療や福祉そしてその他地域資源が協働しなければなりません。「支える医療」とは、医療を生活資源として位置づけて活用することであり、地域包括ケアを推進するコアになると確信しています。

 平成27年4月2日


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