【南海治乱記】・・・永正五年、前の将軍義澄公、江州に御ひらき有て佐々木六角高頼を御頼みあって御帰洛の謀ごとを回らし玉ひ、阿波屋形細川義春、近江屋形六角高頼、牒合して細川管領家の諸国にふれて兵を催ふし、京都へせめ入り大内介を追い立て将軍義稙を廃し義澄を帰洛せしめんとす。故に細川右京大夫澄元を大将として阿波、淡路、和泉、河内、摂津の兵二万余人を揚げて摂州に打出で三好筑前守長輝（之長）、其子下総守長秀を先鋒として、十一月廿日尼崎芥川に充満す。江州佐々木手合として十二月八日江州を発し東坂本に到着す。細川方の兵衆、山崎に到り東西の相図を定めて一時に攻め入らんとす。

　　　　　　　　　　　京都にも兼てより東西の敵、京都に攻入るべきと聞きければ大内左京大夫義興、其手分を定めらる。安芸の武田彦太郎親信に備後安芸の兵士七千余人を附けて日の岡﨑をさし塞ぐ。河野四郎通直、陶五郎入道に四国九州の兵二万人を附けて東寺表を固めさせ、畠山弾正少弼、同宮内少輔、朝倉貞景七千余人は二條御所を守衛せしむ。大内介義興一万五千人は大敵の向ひたる方の後詰と定めて扣へたり。

　　　　　　　　　　　江東の大軍押向ふと云へども、日岡の険を踰ることを得ずして手合の謀、いたづらに成りぬ。さる程に細川方には三好筑前守長輝、阿波の兵を以て先鋒として山崎表より押向ふ。其の子長秀は、鳥羽通より押て入る。執事義興の先鋒、杉七郎相拒ぐと云へども押破り京中にせめ入る。河野四郎通直、陶五郎入道道麟、東寺より出で、敵の後を覆ふ。阿波の兵、初合戦に勝ちて京中に攻入ると云へども、江州の援兵来らずして謀、相違す。三好長輝、兵卒を聚めて百万遍寺に引入り三千余兵を以て一場必死の陣をなして大敵の来るを待つ。予州河野、先鋒として大内家の兵二万余人馳向って一戦す。越前朝倉貞景三千余人を以て馳加り、入替て攻戦ふ。三好長輝三千余人を以て河野、朝倉、大内家の三万余兵に当り、日来修し得たる兵術を顕はし、縦横無尽に攻戦し、三好筑前守長輝、其子芥川長則以下、百万遍寺に自殺す。

　　　　　　　　　　　長子、長秀は父の命を受け、大兵の囲みを出でて摂州へ下り敗卒を集め阿波の国へ帰り、復び兵を挙る事を議す。

　　　　　　　　　※　この項目は永正６年６月の「如意ヶ嶽の戦い」を記したものと思われるが、長輝（之長）、長則が自害したのは永正１７年５月の事であり、事項の混同が見られる。また、阿波に帰国したのは澄元、之長一行であり、長秀は伊勢国で北畠材親に攻められ自刃したという。（研）

　　　Homeへ