「古関裕而の劇伴について」

H6年卒 大元佳奈

 NHKの朝ドラ「エール」見ていますか?今放送している再放送は副音声で出演者による解説付きですよ~。録画はDRでしましょうね。
 さて、音萌で何度も古関裕而について語ってきましたが、まだまだ熱冷めやらず、ますます研究にお金と時間をつぎ込んでおります。CD全集を3セット、アニメ「ドカベン」のLPレコード、楽譜集、「モスラ」のサントラ、数々の書籍。しかし生涯5000曲と言われているのに聴けた曲はまだ300くらい。もちろん音源も楽譜も残っていないものも多くあり、なかなか題名すら把握できません。私がデータベースとして参考にしているのが主に古関裕而記念館のリストですが、それでもタイトル間違いやマニアの方がレコードを所有しているのに、記念館のリストに無いものもあります。そこで、新たな情報源として思いついたのがJASRAC。さすがに1000曲くらいはリストに載っています。また、国立国会図書館が所有している音源を愛媛県立図書館でも聴くことができるので、コロナ収束後に通うつもりですが、それでもまだまだ…。コロンブスじゃなかったコロムビアレコードさん、マニア向けCD全集出してくれないかなあ。20枚組くらいで。

 以下、文体をまじめモードに変更する。

 さて「桃太郎 海の神兵」というアニメがある。昭和19年に完成と字幕にあるが、公開は昭和20年。南方戦線における落下傘部隊の活躍を描いたアニメである。
これには前提として「空の神兵」(昭和18年)という軍歌と、映画「空の神兵」(昭和17年公開)というドキュメンタリー映画がある。映画は落下傘部隊の訓練風景を描いているが、軍歌「空の神兵」(作詞:梅木三郎、作曲:高木東六)は空の青と白薔薇にたとえられた落下傘の色の対比。空から見下ろした、美しいとも言える敵地へ降下していく空挺部隊を歌った爽やかな曲調の名曲である。敵地に直接奇襲攻撃をかける落下傘部隊は憧れの的だったのではないだろうか。今でもよく歌われるヒット曲である。
 アニメ「海の神兵」は「メナド降下作戦」をモチーフとしており、美しいジャワ島を海賊と作中で呼ばれているオランダ政府が支配していたが、大東亜共栄圏をうたう日本軍が石油資源に目を付け、無血で手に入れようとしていたが工作に失敗。戦争状態となった昭和17年1月、堀内中佐率いる落下傘部隊334名が空挺降下した、日本軍史上初の空挺作戦を描いている。体験記を読むと、作中に描かれるスコールや兵士に配られたチョコレートも史実どおりのようだ。作戦は大成功。日本軍の被害はごく小さかったようだ。本作の主人公桃太郎はマレーの虎、山下将軍をモデルにしているようだ。
 アニメの背景はこれくらいにしておくが、この映画は海軍が制作依頼した国策映画である。サントラを担当したのが古関裕而である。日本軍はおなじみの動物の姿で描かれ、人間のかたちをしているのは、ちらっと背景に出てくる御真影と空挺隊隊長の桃太郎と敵兵のみ。主な登場人物は幼い弟を郷里に残してきたサルのモン吉と、機転の利く犬のワン吉で、キジと熊も出てくる。現地で桃太郎一行を迎え入れる先遣隊はうさぎたち。原住民はトラやゾウ。
訓練を終えて郷里に帰ってきた束の間ののどかな時間。モン吉が幼い弟と眺める、丘の無数のたんぽぽ。それがエンジン音と「降下用意!」の声とともに落下傘と重なり、富士の裾野から舞台は南方へ。南の島では動物たちが歌いながら県セルに励んでいる。現地の子供たちを集めての日本語教育のシーンでは「あいうえおの歌」が合唱される。サトウハチロー作詞のこの曲は、あいうえおから濁音、半濁音を経てきちんと「ん」で終わるこれ以上ないシンプルな歌詞に、子供でも覚えやすい楽しいメロディを付けた古関音楽の真骨頂。初めてこの曲を聴いた時には懐かしく、美しいメロディに涙ぐんでしまった。ディズニーの「ファンタジア」を意識したらしいミュージカルシーンは、手塚治虫にも影響を与え日本アニメの傑作である。
 楽園のような南国が描かれるが、やがて迎える出撃の時。桃太郎の発令による落下傘降下のシーンで流れるのは勇壮な曲ではなく、もん吉が見たたんぽぽの花畑でも流れた、ゆったりとした美しいメロディ。先に紹介した軍歌のように、花のように美しい白い落下傘。監督の瀬尾光世は体験入隊までしたそうなので、落下傘や兵器は実にリアルに描かれる。途中に挿入された影絵のアニメも美しく、古関裕而の音楽も素晴らしいこの大作が現在はあまり知られていないのは実に残念だ。近年デジタルリマスター版でソフト化されているので、ぜひ見てほしい。You●ubeで検索したら、「あいうえおの歌」は今のところ聞くことができる。削除される前に聞いてみてほしい。

 ドラマ「エール」で主人公の裕一が、歌謡曲ではなく西洋音楽をやりたいと悩むシーンが多くみられたが、古関裕而のクラシック系の音楽は劇伴で聞くことができる。最も聴きやすいのが「モスラ」ではないだろうか。サントラ盤もCD化され現在でも購入できる。You●ubeにも海外からアップロードされているが…。「メインタイトル」は壮大なオペラの序曲のようであるし、「調査隊出発」は気品あふれる行進曲。「モスラせん滅作戦」は宗教映画のクライマックスのようでもある。
 またCD全集に収録されている「敦煌」の「興慶府(イルガイ)の秋祭り」は軽快なリズム、異国情緒あふれるメロディ。なんとなく「アルルの女」を思い起こさせるような美しい曲である。また「蒼き狼」の行進曲「長城を超えて」は力強い打楽器のリズム、覚えやすいメロディ。ぜひ吹奏楽で演奏してみたいかっこいい名曲である。歌謡曲以外の古関裕而作品もぜひ聴いてみてほしい。

 再開後の「エール」はいよいよ戦争の足音が聞こえてくる時代が描かれる(はず)。古関裕而は数多くの戦時歌謡を作っている。かなり史実を脚色してはいるが、フィクションとして楽しめるので通常放送が待ち遠しい。





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