センバツ高校野球の思い出

                  こ え
 スタンドの 緑の波濤 響く声援 駆ける選手の 真白き勇姿
 東風吹いて 白球高く 大空に 皆の目が追う 夢の道筋
 グランドの ナインとベンチと スタンドの 六千燃える 東魂の春

 2015年3月25日早朝、堀之内に見たことの無いほどの台数のバスが並んだ。同窓会の応援バスツアーは愛媛県内にとどまらず、香川県からもバスを調達したそうだ。さまざまな会社のバスが数十台整列するさまは壮観だった。受付テントは卒業年台別になっており、私と水摩ちゃんが該当する平成ヒトケタ台はいちばん列が短かったが、ほかの年代はごったがえしていた。ここで、同じく平成6年卒の旧姓鶴岡さんと合流。33号車の最後尾に陣取った。甲子園までの5時間ほどの道中、なるべく睡眠をとるようにしていたが、久々に会う同窓生と盛り上がり、期待と興奮であっという間のように感じられた。
 甲子園に到着すると、入場に関してトラブルがあったとのことで、音萌の会全員がなんとかスタンドに揃ったのはだいぶ後のことだった。それはともかく、私には初めての甲子園。現役部員、音萌の会ともにお揃いの黄色いブルゾンと帽子をかぶり、20年ぶりに会う先輩や、共演するのは初めての会員、また夏の予選から欠かさず楽器を持って応援しておられるという柔道部OBの方。そしてアルプススタンドのてっぺんまで埋め尽くす大応援団。平日なのにこれだけの人数が揃うのは、お祭り好きの松山東高らしいと思った。
 私の現役当時、松商の吹奏楽部の友人が甲子園に行ってくると言っていたのを羨ましく思いながらも、自分にはあり得ないと思っていた。なにしろ今治球場にしか行ったことがないのだ。だが今、緑の球場に映える松山東高野球部の真っ白なユニフォーム。当時は練習着のようだと思っていたが、伝統と格式のある、美しい姿だと思った。そして自分が楽器を持って甲子園球場にいることが夢のよに感じられた。
 いざ試合が始まると、応援演奏の忙しいこと。各回攻撃前にそれぞれ決まった曲があり、選手ごとに決まっている応援曲。ヒットでポパイ、チャンスの場面で Jock Rock。得点したら王者の命。また選手の応援曲。しかし回によっては1曲演奏している間にいつの間に三者凡退していることも。練習不足で楽譜ばかり必死で見ていると、せっかくのプレーを見逃すこともしばしば。これでは試合を楽しめないと急いででJock Rockだけは覚えた。まあ短い曲なのだが。
 球場全体を揺るがす大声援。相手校より激しく象が鳴いていたアフリカン・シンフォニー。本職ではないという応援団の全力のパフォーマンス。たくさん練習したであろう現役吹奏楽部の懸命な演奏。大応援団をまとめ上げた引率の先生がた。
 もちろん圧倒的に不利な前評判を覆したのはベンチの選手の努力と鍛錬、監督の多彩な采配、ベンチに入れなかった部員の後方支援だ。しかしスポーツ紙の一面を飾ったアルプススタンドの緑の壁が選手を落ち着かせる一助となったと思う。
 6回裏に同点に追いつかれても、マウンドの亀岡投手は落ち着いて抜群のコントロールでピンチを切り抜け、スタンドの6000人も誰一人あきらめなかった。7回の表のヒートアップは異様なほどで、轟く声援、どんどん激しくなるJock Rock。なにか熱血スイッチが入ったようで、私自身もう訳が分からなくなっていた。1点を加えて、裏の守備はアウトを取るごとに大歓声。8回表はあっけなく終わり、裏にノーアウトでランナーを背負いながらも0に抑えてついに最終回へ。二松学舎の大江くんは三振の山を築くすばらしいピッチング。あっさり表も攻撃が終わり、ついに裏の守備。下位からの打順とはいえ、高校野球は何があるか分からない。アウトひとつの後、エラーで出塁を許し、代打の選手相手になかなかストライクが入らない。わき上がる亀岡コール。ツーアウトにこぎ着けるも走者が二人。詰まった当たりがショートから一塁のグラブに収まる。勝利の瞬間は歓喜と興奮で訳が分からなかった。皆の叫び声、揺らぐスタジアム。やたらハイテンポの校歌を歌いながら、こみ上げてきた涙を止めることはできなかった。
 強打者も速球投手もいない。失策もあった。それでも選手が自分の仕事をし、チャンスをつなぎ、全員で勝ち取った歴史的勝利。これぞ高校野球!高校を卒業して20年。停滞していた人生に一陣の爽やかな疾風が舞い込んだ。松山東高卒であることをこれほど誇りに思ったことはない。あまり周囲に出身校を言わないようにしてきたが、今大きな声で言いたい。このすばらしい試合をしたのは我が母校だと。この大声援の一部は私のホルンであり、私の声だと。
 甲子園まで連れてきてくれた野球部と、吹奏楽部に心から感謝である。

 二回戦はどうしても都合がつかなくて行くことが出来なかった。そのことが残念でならない。物語の結末を見届けることができなかった。いや、これは結末ではない。夏へと続く壮大な序章なのだと信じている。





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