新居浜小児科医会40周年記念会
平成20年10月3日、新居浜小児科医会第500回記念祝賀会がユアーズで開かれました。
記念講演:てんかんへのPET(Positron Emission Tomography)の適用について
講師 愛媛県立中央病院
小児科医監部長 若本 裕之先生*
(要旨)
近年難治性局在関連性(部分)てんかんの究極的な治療法として、わが国でもてんかん焦点部位を同定してその部位を切除するてんかん外科が盛んに行われてきている。演者はてんかん外科の必須な術前検査であるPositron emission tomography(以下、PETと略)について小児のてんかんにおける有用性を中心に述べた。
難治性てんかんの検査として保険適応となったFDG(F-18-fluoro-2-deoxy-D-glucose)-PETはin vivoでのブドウ糖代謝の動態を調べることができる。FDGは体内に投与されたあと約30分かけて脳内に取り込まれるため、発作間歇期における発作焦点を精査するのに用いられ、てんかん焦点部位は低代謝の画像としてあらわされる。小児の難治性てんかんにおけるFDG- PETの有用性は以下のように要約できる。
点頭てんかんにおいては約20%の患者に局所的な発作焦点部位が同定され、内科的治療が功を奏しない場合はてんかん外科の適応となりうる。自己免疫性の進行性神経疾患であるラスムッセン症候群においては、てんかん発作が始まる病初期に頭部MRIで明らかな異常が見られなくても局所的な低代謝領域が示されることがある。Congenital bilateral perisylviansyndromeの患者は、頭部MRIで両側性にシルビウス裂の形成不全が認められるが、発作時の脳波やPET検査で調べるとてんかん発作は必ずしも両側から起こっているわけではないことが分かる。スタージ・ウエーバー症候群においては、血管腫以外にも広範囲に低代謝領域が拡がっているが、これは繊維連絡を介した2次的な低下であることが多い。すべての糖低代謝領域からてんかん発作が起こっているわけではない。一般的にFDG-PETの低代謝領域はMRIで認められる構造的異常領域より広範囲に描出される。片側巨脳症の患者では、病側の大脳半球切除術の後に残りの大脳半球からてんかん発作が起こってくることがある。そのため、ラスムッセン症候群、スタージ・ウエーバー症候群、片側巨脳症などでは、PETは一見健常に見える大脳半球の機能を評価する術前検査として用いられる。
本邦ではほとんど施行されていないが、GABAレセプターに結合するFlumazenilのPETは内側側頭葉てんかんに有用であり、FDG-PETよりも大脳皮質のてんかん病巣をより限局化して示す。また、Alpha-metyl-L-tryptophan(AMT)-PETは結節性硬化症のてんかん性結節の同定や先天性皮質形成異常症に伴った難治性てんかんの発作焦点を高率に示す(前者で70-80%、後者で60%)。
最近の総説論文ではMRIが正常な場合、FDG-PETの発作焦点部位の同定に関する有用性は側頭葉てんかんにおいて87%、すべての部位におけるてんかんを合わすと66%と言われている。しかし、小児てんかんは側頭葉以外のてんかんが多く、てんかん焦点の同定が成人よりも困難である。また、標準的な術式のある側頭葉てんかん(成功率70-80%)に比べて、側頭葉以外のてんかんは個々の症例に合わせて切除術を考えるため、術後の成績も50%前後の成功率に留まる。以上のように、PET検査がてんかん外科の有力な補助診断検査であることは明らかだが、FDG-PETの低代謝領域がすべててんかん病変を表していることではないこと(非特異的)、臨床症状や他の検査結果と合わせて総合的に所見を評価するべきことなどに注意する必要がある。
小児科においてFDG-PET検査が薦められる適応例として、(1)MRIで異常所見のない難治性部分てんかん、(2)潜因性点頭てんかん、(3)脳波上多焦点性を示す症例、(4)大脳半球切除術の候補患者が挙げられる。最後に演者が経験した4症例を呈示し御供覧いただいた。
*:元新居浜小児科医会会員