「伝染性紅斑」[手足口病」の登校(園)停止に関する見解

(日本小児科学会雑誌第97巻第8号から)
日本小児感染症学会運営委員会

学校伝染病第三類「その他の伝染病」の内容については明文化されたものはないが、伝染性紅斑、手足口病はこの範疇に含まれる疾病である。
学校保健法施行規則第19条(昭和57年改正)によると、これらの疾病による出席停止期間の基準は「治癒するまで。ただし、学校医その他の医師が適当と認める予防措置をした時、または病状により伝染のおそれがないと認めた時はこの限りでない」となっている。つまりこの法の趣旨は学校での伝染病の蔓延防止が目的であるので、その観点から検討すぺきと考える。

T.伝染性紅斑

伝染性紅斑ははヒトパルボウイルスBl9の感染症である。顔面の蝶型の紅斑に続いて、四肢に網目状(レース状)の紅斑の出現で診断される。通常感染後17−18日後に発疹が出現する。ウイルスは感染後5一10日に血清及ぴ気道分泌液中に陽性となるが、発疹出現の時ではウイルスの排泄はほとんどない。その他附記に記したような間題点はあるが、すでに発疹出現前に他への感染は拡大しており、発疹出現後の出席停止が本症の学校での蔓延防止に意味があるとは思えない。したがって発疹期にある患児を他への感染を理由にして登校(園)を停止させる必要はないと考える。ただし、本症には合併症もみられることがあり、個々の症例の最終判断は主治医が決めることになる。以上の考えに基づいて地域の学校医(または医師会)で見解を統一しておくことが望ましい。

附記
1.四肢,躯幹の発疹の消失には約l週間を要する。また顔面の紅斑は7−10日ぐらい持続し、日光に当たると再燃してひどくなることもある。
2.発疹出現後1週間以内にウイルスDNAが血中に証明された報告がある(このDNAはPCR増幅でなくフルサイズDNAである)。したがって、発疹発現後数日間は感染性はあるものと考えられる。
3.伝染性紅斑の合併症として、関節痛、関節炎、脳症、溶血性貧血等が知られている。
4.ヒトバルボウイルスBl9は、骨髄中の赤芽球系細胞へ感染するので、遺伝性球状赤血球症、鎌型赤血球症などでは無形成発作(aplasticcrisis)をおこすことがある。また先天性及ぴ続発性免疫不全患者では、持続感染を起し重症の貧血を誘発することもある。
5.妊婦が罹患すると、流産,死産,胎児水腫などをおこすことがある。

U 手足口病

手足口病はエンテロウイルスの感染であり、コクサッキーウイルスAl6型、エンテロウイルス71型による報告がほとんどである。コクサッキーウイルスA4、5、6、10型の報告もある。口腔内の粘膜疹(アフタ様)と手のひら、足の裏、膝、臀部の米粒大の水疱が特徴である。特記すぺきは中枢神経系合併症で、髄膜炎が主であるが、きわめてまれに弛緩性麻痺をおこす。ウイルスは口腔内、便中に排泄され、飛沫感染、経口感染をおこす。不顕性感染が多い。潜伏期間は3−6日でウイルスの排泄期間は長く、咽頭からl一2週間、便から3−5週間排泄される。本症の場合は、発症後のウイルス排泄期間が長く、実質的に登校停止で感染を予防することは困難である。また全体的にみて不顕性感染も多く症状も軽微のため、本症をもって他のエンテロウイルスと分けた特別の扱いは不要である。したがって本症の発疹期にある患児でも、他への感染のみを理由にして登校(園)を停止する積極的意味はないと考える。ただし、本症には合併も見られることがあり、個々の症例の最終判断は主治医が決めることになる。以上の考えに基づいて地域の学校医(または医師 会)で見解を統一しておくことが望ましい。

附記
1.発熱があっても1日程度の軽症例が多い。口内疹による痛みで食べ物がとれず脱水症をおこすことがある。
2.髄膜炎を中心とした中枢神経合併症があるので、臨床症状と経過に注意し、個々の症例については主治医の判断にまかせる。

(平成9年10月2日記)


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