HOW TO HEAD PORTING JOB                                       
本格的なエンジンチューニングをやろうと思ったらヘッドポーティングとその周辺の作業は不可避な最重要項目の
ひとつである。これを正しく行なうには豊富な知識と経験、明確なコンセプトが前提として必要であり、そして多大な時間と
労力を注がなければいけない。まさに腕の見せ所であり、それ故にとてもやり甲斐のある仕事だ。今からもう13年程前の
話になるが、ロブ・マッジーのファクトリーを初めて尋ね、彼がポーティングを施したRS600Dのシリンダーヘッドを手にして
ポートを覗き込んだ時、その見事なフォルムと美しい仕上がりに私はまるで雷に打たれたように驚愕し、戦慄した(笑)。
それから以後は、そのとき脳裏に刻んだすべてを思い起こしながら、一歩でも彼のレベルに近づけるようにと心がけ、作業
に臨んでいる。以下はXR230のヘッドポーティング例である。ポーティングは楽しい。しかし、根気と忍耐も必要だ。
このXR230のポーティング作業完了だけでも全工程で裕に16時間前後を要する。ビジネス的には帳面が合わない(笑)。
ただ、何よりも嬉しいのは「ヘッドポーティングで、こんなにも特性が良くなるんですね!」と作業を依頼された
お客さんからいただく,賞賛と感謝のお言葉(笑)を聞いたときである。”Can’t buy me Love!”

STEP-1: GO INTO THE INTAKE PORT

XR230の加工前の吸入(INTAKE)側のポートである。比較的荒れは少ない方だが、ガイドとシート周辺に段付きがある。それにしても恐ろしく窮屈そうだ。 各ガイドを抜く前に、位置決めのポンチマークをそれぞれ打っておく。後で必要なバルブのシートカットの作業が短縮できる。ガイド未使用の為、再使用が可能である。 IN/EXのそれぞれバルブガイドの突き出し量も計測し記録しておく。元に戻す前に旋盤にかけてテーパー部の角度を変え抵抗が極力少ない形状に変更する

ポーティング前にバルブガイドを無理なく抜くためオーブンでヘッドを100C°になるまで加熱する。ヘッドの溝に溜めた水が騰沸し始めたら取り出す。 専用工具を使ってバルブガイドを打ち抜く。ヘッドが冷えないうちに完了させる必要があるので、迅速、慎重かつ大胆に手早く作業を行なう。最後はポトリと落ちるように。 先ずリューターでポート形状を変更していく。回転速度が遅いとアルミの材質上、刃に絡みやすいので、約2000回転前後で作業をする。失敗は許されない。

次にサンドペーパーで慎重に形を整えながらポーティングを進める。集中力がすべてだ。大理石の塊から魂を堀り出す彫刻家の心境になれ。そう、貴方はミケランジェロだ。 始めは#460、#600と次第に番手を細かくしていく。時おりポートにインテークバルブを差し込んでポートの内径を確かめる。ここまで作業開始からほぼ6時間が経過した 最終段階に近づくと最後にモノを言うのはなんと言っても手と指の感覚である。しかしゴットハンドではないから時間がかかる。このあたりから次第に「無念無想」の境地になっていく。

形状がほぼ完成に近づきつつあるポート。ノーマル状態のものと比較されよ。いかにも流体の通路という感じでしょう?合理に適うとフォルムも自ずとセクシーになる? インテークマニフォールド内にはAIに使われるこの負圧プラグが15MM近く付き出ていてスムーズなガスの流れを妨げている。抜き出して穴をボルトで埋めてしまう。 インテークマニフォールドを取り付け、段差が生じている個所を外周上に削りポートにピタリと合わせる。しかし作業はこれから。さあ、今度はEX側のポーティングに着手だ。
STEP-2: DIVE INTO THE EXHAUST PORT
ほぼポーティングを終えたEX側のポート。画像を撮り損ねたがSTD状態はインテーク側以上にガイド周辺の突起が大きく張り出ていた。しかしこの部分の肉厚がない為慎重に削り込み、この形になった。 それ加えてAI用の穴(矢印;径6MM)が流れを大きく阻害している。検討の結果、このAIの穴を塞ぐことにした。アルミ棒を削りだして圧入し、ポート側に突出した部分を削り、再度入念に整形する。 AIの穴を埋めてようやく修正完了。うん、お見事!アルミ棒の脱落を防ぐ為、カム側の圧入部分を念のため溶接しておく。要するにポーティングは辛苦の連続で、情念と忍耐の世界なのである・・・。
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STEP-3: POLISHING VALVES
ノーマル状態のインテークバルブ。表面が荒れて、まるで「しがらき焼き」のようである(笑)。通常は勿論、新品に換えてポリッシュ作業を行なうが走行が数百kmの為、そのまま使うことにした。ちょっとショボイ? ステム部は意外と柔らかいので、テーピングをしてボール盤に挟み磨きに掛る。始めはサンドペーパーで、ステンレス布、そして最後は伝家の宝刀、「ピカール」だ(笑)。磨きがかくも楽しいのは、何故でしょう? ポリッシュを終えたバルブ。ステム径を細くしてウェストタイプにしたり、傘の底部を削って軽量化、などと得意がっている輩がいるがこれは耐久性が著しく落ちるので、NOである。オフは長持ちが肝心。
STEP-4: 3 ANGLES VALVE SEAT CUTTING
シートカットは基本の作業であるが、細心の注意が必要だ。正規のバルブガイドを圧入する前に、別の同じガイドをそれぞれIN/EX側を用意し、外径を僅かに縮小し手ではいる状態にして、ポートに対しての収まり具合を確認する。念には念を入れる。 確認後、再びオーブンでヘッドを加熱しガイドを専用ツールで圧入する。スリーアングルのバルブシートカットは4サイクルエンジンの圧縮と燃焼工程時におけるパワー発生の要である。ダイスは32度,45度,60度の3種類、表面はダイヤの粒子構造だ。 圧入されたガイドは新品のため、内径がバルブのステム径より僅かに小さくなっている。ハンドリーマを使ってボーリング作業。バルブの首振りを極力押さえるため、マニュアル上の指定クリアランスより1000分の5MM狭いリーマを用意した。
専用ハンドルを用意し、先ず始めバルブに圧着される面にあたる45度のダイスでヘッドのバルブシート面をカットする。次に60度,30度の順でカットしていく。耐久性を考慮し、バルブとの当たり幅は1,2MMとやや広めに設定したいところ。 バルブシートとの当たり面の確認の為、光明丹をオイルでペースト状に溶く。混ぜる比率が重要だがこれは経験で把握するしかない。最終的には着座位置をバルフェイスの外側寄りに会わせる。僅かだがバルブの実用面積が大きくなるからである。 バルブフェイスに光明丹を塗り、カットされたバルブシートにゆっくりと収め、離す。黒い部分がバルブフェイスに当たる45度のカット部分だ。バルブ側には光明丹が付着する為、当たり位置が確認できる。修正を加えながら作業を続行する。
カット終了後、バルブをタコ棒に取り付け、バルブを少しづつ回転させながらシート面にカンカンと軽く当てながら入念にポンピングする。スリーアングルのカットがしっかり出来ていれば、作業はそう長く掛らない。 今度はバルブフェイスに擦り合わせ用の細めコンパンウドを極々薄めに塗り、タコ棒を使って軽めに押さえながら数回、擦り合わせをする。しかし、やりすぎは禁物だ流布している通説とこの辺が違うのだ。 バルブ、バルブスプリングを装着後、パーツクリーナーを各ポートから勢いよくスプレーし、各バルブから燃焼室側へのリークをチェックする。勿論、漏れは全く皆無である。このためにすべての作業があったのだから。





PISTON:JE 68MM (241CC)10,5:1COMP'
(クランクケースの加工は不要:ボルトオン)

さらにピストン,ピストンピン,リング,ロッカーアームシャフト,
ロッカーアーム,シリンダーを今、話題のWPC+モリショットで
フィニッシュした。
これがポーティングの絶大な効果と相まって、慣らし走行の半減と
耐久性の大幅アップ、天空を突き抜けんばかりの鋭い吹き上がりに
貢献。レーサーのXR250を軽々と置き去りにする文句なしの
スグレモノに大変身!ご希望の方、代行します。
価格:税込み¥25,000前後
ポート面のこと
流体力学の専門書を紐解くと「境界層剥離」という、何やら難しそうな言葉に出てくる。これはキャブレターに関連させて
言うと、筒状の管を通過するすべての流体は、接する管との接触面(境界)で粘性が生じ、いわゆる「張り付き」の現象が
起こるということである。つまり、そのエリアの流れが悪くなってしまうのである。そして実質的には管の内径が狭まった
状態になる。これが「境界層剥離」である。またこの流体の粘性の強さは接触表面の形状に大きく左右される。
結論から言えば境界層の面形状は鏡面に近づくにつれて粘性が高まっていく。見た目に反した作用が起こるわけである。
ゴルフボールの表面が鏡面ではなく、ディンプル加工(エクボのような表面処理:強度を保てるなら理想的にはもっと
細かいディンプルが望ましい)もこの空気という流体の粘性による張り付き/抵抗を減少させ、少しでも飛距離を延ばす
ためだ。根はまじめな私としては(笑)、この力学の物理原則を無視するわけには行かない。確たるセオリーは尊重し
踏襲すべきである。したがって、このページで行なったポーティングの最終仕上げでは、インテークポートを一度、
鏡面研磨し、粘性以前の基本的な問題として、あくまでも流れを阻害しない形状に整えた後、ガラスビーズによるブラストで
表面に微細な凹凸を施した。またバルブとエキゾースト側のポートはカーボンの過度の付着を防ぐ為、鏡面のままで
組み上げた。燃焼室も同様にカーボンの付着と堆積を回避し、さらに火焔伝播と燃焼速度を向上させるため鏡面に
.仕上げている。
次回はボアアップピストン(JE-PISTON 241CC)の組み付けとポートの形状についてのお話です。
今夜はこの辺で・・・。