クロム鉄鉱(縞状鉱)

 

 

 愛媛県宇摩郡土居町南部に聳える東赤石山。その北斜面には、かってカンラン岩に包胎するクロム鉄鉱を採掘する赤石鉱山があった。明治43年に発見されて以来、戦前は金属クロムの唯一の貴重な鉱石として、戦後は耐火材料としての優秀さが認められた母岩のカンラン岩も併せて盛んに採掘されたが、現在は閉山している。急峻な赤石山系の斜面に位置しており、日本一、高所にある鉱山としても有名であった。鉱山跡は、斜面各所に散在しているが、もっとも知られているのは、「氷穴」付近の登山道のはずれにある坑道跡であろう。北は眼下に瀬戸内海が一望でき、東にはエクロジャイトで世界的に有名な権現山がそびえ立つ雄大な眺めを満喫できる。さらに付近には煉瓦作りの事務所の廃墟や、崩れかけた索道基地の建物が今なお残り、過ぎ去った繁栄の日々を訪れる者に寂しく語りかけている。

 写真の縞状鉱は、坑道付近に今なお散乱しているので、現地に辿り着けさえすれば、簡単に採集することができるが、東赤石の五良津登山口から約二時間ほどかかるので、日帰り登山程度の準備と心構えは必要である。クロム鉄鉱はカンラン岩がマグマ状の流動体の中で集積して出来たものである。縞状の構造はマグマの流動方向方向を示すものと考えられている。小さなこの鉱石を握れば、手の中で凄まじい地殻のエネルギーをしっかりと感じ取ることができるだろう。地元の誇りとなる一品である。東赤石山上では、クロム鉄鉱が赤茶けたカンラン岩に墨流しのような文様を描いたり、カンラン岩が風化して、クロム鉄鉱のみが岩の窪みに砂鉱を形成しているところもあるので、登山とともにクロム鉱床のさまざまな百態をぜひ観察していただきたいと思う。