クロム鉄鉱には、しばしば紫色の菫泥石や、緑色のクロム透輝石が随伴している。写真はクロム鉄鉱間に層状に発達したクロム透輝石である。粉状の菫泥石も周囲に散在している。このような産状は、高品位な塊状クロム鉄鉱の富鉱帯にみられ、東赤石山頂に近い八巻山付近の旧五坑など限られた場所でしか採集することはできない。この標本もたまたま斜面に転がった転石の中から見つけたものである。とにかく東赤石は頂上まで辿り着くのに半日を要し、ヘトヘトの状態で鉱物収集など容易なことではない。少し岩場を彷徨うと無常にも下山のタイムリミットが迫り涙を呑むこともしばしばである。おまけに雨やガスの中では、岩場や絶壁の上り下りはかなり危険で一つ間違えば遭難ものである。結局は赤石山荘やテントをベースキャンプに何日も粘っての採集が必要となり、金も暇もあまりない我々日曜鉱物愛好者にとっては、とてもつらいものがある。
そんななかで見つけたクロム透輝石!本当に飛び上がるほど嬉しかった。普通のクロム透輝石は、周囲のみが緑色で、中央は無色のものが多いが、このような脈状の標本は全体が緑色の粒々のためにとても見栄えがしている。一瞬、クロムザクロ石か?と見紛うほど鮮やかなエメラルドグリーンを呈している粒もあって夢をかき立てる。赤石鉱山の灰クロムザクロ石は幻の名品で、その素晴らしい立方体の結晶は小さいながら、神秘的な宝石の輝きを放っているが、地元でも秘蔵している人は少なく今でも垂涎の的となっている。ちなみに
「鉱物趣味のページ」には、その恐るべき標本が掲載されているので、ぜひ参照されたし!!まあ、それはともかくクロムの鉱物は、本当に色とりどりで非常に美しく、クロム鉄鉱、クロム透輝石、菫泥石の入り混じる鉱石は「赤石の妖精」とも呼ばれ、愛媛の美しい鉱物の代表格である。ぜひ、1700mの高山に自らの足でよじ登り、無心でそのチャーミングな妖精を探し求めて、大人のメルヘンの世界に飛び込んでいただきたいと思う。