含銅硫化鉄鉱(縞状鉱)
別子銅山の高品位縞状鉱である。緑色片岩の母岩に平行する形で、黄金色に輝く黄銅鉱が層状に分布している。通常のキースラガー鉱床では、このような縞状鉱の銅品位は低く、ほとんど黄鉄鉱レベルの「シロジ」とか「ガリ」と呼ばれる貧鉱が大部分を占めるのに対し、別子では、上部鉱床を中心として、黄銅鉱や斑銅鉱に富む縞状鉱が多量に存在していた。これは一種の「ハネコミ」であると推測する学者もいる(内田欽介氏ら)。「・・このような高品位網状鉱および縞状鉱がまとまった量存在したことは、別子本山鉱床が本邦の他のキースラガー鉱床と異なる著しい特徴である。江戸時代を通じて別子が稼行できたのは、『Cu数%〜10%もの高品位で硫黄分の少ない(S数%以下)鉱石が存在した』という要因に負う所が非常に大きいと思われる。」と「住友別子鉱山史」には記されている。
明治時代の近代的精錬法が導入される以前は、この標本レベル以下の鉱石は廃棄されていたというのだから驚きである。しかし低品位鉱もおかまいなしの浮遊選鉱法が用いられるようになってからは、ズリで埋まった谷という谷、廃石で埋め戻された古い坑道(凍山という)という坑道をもう一度掘り返して、捨てられていた鉱石をふたたび回収したとのことで、別子の山にズリがほとんど存在しないのは、この理由による。一方、このために、別子銅山の採掘量の定義が複雑になってしまったこともまた事実で、出典によって、別子銅山の実績値が異なっているので、その方面の研究には注意が必要である。