キースラガー(尖滅点)

  

 

 別子銅山の本山鉱床は、北60°西方向に伸びる1枚の細長いレンズ状で、中央は膨大してイヤ、アツバク、ジョウバクなどの銅鉱を入れ、両端は「尖滅」して、石英片岩(ハブ)の中に消えている。その周囲は石墨片岩、緑色片岩の分厚い地層が全体の鉱脈を包み込んでいる。鉱脈幅平均2.5m、鉱床の総延長1800mに及ぶ世界有数の大鉱床である。上部鉱床の尖滅点は、東部では下硫および上硫と呼ばれる2枚の塊状鉱が合体して1点に収斂するが、西部では中ヒ(金偏に通)から下ヒにかけて何本もの高品位な塊状鉱(一種のハネコミと考えられている)が何枚もに折り畳まれるように複雑な鋸歯状を呈している。この特異なV字形形態は、もともと1枚であった塊状鉱石が根の無い同斜褶曲により引き褶られ、2枚に折り畳まれたものと解釈されている(秀 1961)。この形態も上部鉱床ではどの坑準においても整合的であるが、下部鉱床に移るにつれ、複雑な流動状ハネコミが東部でも見られるようになり、決してそう単純なものではない。しかし、上部から下部に至るまで「尖滅点」の形態は、石英レンズや赤褐色のザクロ石晶出を伴うことがあるものの比較的単純で、東部でも西部でもあまり差が無く、鉱石がクリアカットな尖頭状に終わっているのは、この別子型鉱床の成因を探る上で重要なカギのひとつと考えられている。

 

この標本は、どの坑準のものかは不明ではあるが、塊状鉱が薄い石英片岩を挟んで黒色片岩中に終わる典型的な尖滅点の姿であり、もう、その先には広漠とした結晶片岩の岩盤がどこまでも広がっているだけで、なにか鉄道の終着駅を見るような得も言えぬ憧憬と寂寥を感じることができる。かって採鉱夫も、この鉱石を剥ぎ落とすことによって確実に一つの鉱区が終わったことを知ったのであった。別子の鉱床は無尽蔵で永遠なり!と豪語した時代にあっても、いつかその終わりの来ることを、地底の「尖滅点」を知る採鉱夫自身がもっとも早く気づいていたのではないだろうか?・・実はこれはかの「旧宮久標本」のひとつであり、小さいながら研磨され大切に保管されていたもので、先生もそういった意味で、この鉱石を慈しまれていたのではないだろうか?・・まあ、それはともかく、ご興味があれば、「別子銅山記念館」には、さらに素晴らしい「尖滅点」の大型標本が常設展示されているのであわせて参考にされると良いだろう。