中宇利石(鴫山鉱山)

  

 

 「鴫山鉱山」は、愛媛県西宇和郡三瓶町鴫山にあったクロム鉱山である。「日本地方鉱床誌」によると、母岩となる超塩基性岩は、おおむね三波川結晶片岩帯を横切るカンラン岩で、多くは蛇紋岩化しているのが特徴である。クロム鉄鉱床は、その中に板状、レンズ状、脈状、団塊状を為して包胎し、品位も酸化クロム含有率50%以上の良鉱で、しばしばクロム透輝石や美しい灰クロムザクロ石を伴うことでも有名であったが、それにも増して、この鉱山を汎く世に知らしめているのは愛媛県で唯一、「中宇利石」の産地であることであろう。松原聡先生監修の「日本の新鉱物」(フォッサマグナミュージアム発行)から「中宇利石」のあらましを記させていただくと、本鉱は、愛知教育大学の鈴木重人先生らによって中宇利鉱山の蛇紋岩中から発見された非常に鮮明な青空色をなす、銅、ニッケル、マグネシウムを含む炭酸塩鉱物で、ブロシャン銅鉱やアルチニー石、孔雀石などを伴うことが多い。結晶化すると、非常に美しい淡青色の針状〜繊維状結晶を呈する。日本の新鉱物として認定され、鈴木先生は、本鉱の発見によって1977年の「櫻井賞」を受賞された。四国では、この鴫山鉱山のほかに高知県南国市岡豊の蛇紋岩帯がその産地として記載されている。このように、中宇利石の成因には、クロム鉄鉱床に微量の銅成分が含まれていることが肝要で、愛媛の代表的なクロム鉄鉱床の「赤石鉱山」などから見いだされていないのは、銅成分の含有率の微妙な差によるとは思われるものの、この鉱物の論文記載が1976年と比較的新しいことから、単に今まで見逃されているだけかもしれない。東赤石や関川などでクロム鉄鉱を採集される際には、ぜひ留意してほしい鉱物のひとつでもある。

 一方、この標本はとても小さなもので、残念ながら結晶形を呈してはいないが、小生の稚拙な写真技術でも、その眼の醒めるような顕著な色合いはきわめて特徴的である。この色は同じく銅酸化鉱物のクリソコラなどとも紛らわしい色であるが、母岩の特性や産状からある程度の区別は可能であろう。しかし、ブロシャン銅鉱や孔雀石と共存する場合は、やはり最終的には蛍光X線分析が必要と思われる。

 ちなみに、中宇利石と共生する「アルチニー石」は、銅成分を含まないマグネシウム炭酸塩鉱物で、蛇紋岩の割れ目に沿って、無色透明のガラス光沢のある針状結晶で産するそうである。(愛媛の自然 宮久、皆川先生)