方沸石

  

 

 愛媛県上浮穴郡久万町槙之川産の「方沸石」である。加藤 昭先生の「沸石読本」(関東鉱物同好会編)によると、「・・玄武岩中の気孔中に産し、空隙を残す場合と残さない場合があり、後者は結晶面は発達しません。前者の場合は、複数の自形結晶が密生することが普通で、単独の場合と、曹達沸石やトムソン沸石を伴う場合とがあります。・・同定は、無色あるいは白色ガラス光沢、自形、透明性、劈開の欠如などです。特に自形が出ているものが、単独結晶として出現することは少なく、大抵多数の結晶の集合体をなします。また、沸石としては、最も高い硬度の持ち主です。」と明快に解説されている。方沸石の“方”は、等軸晶形のことで、3本の結晶軸がすべて同じ長さを持ち、それが互いにそれぞれ直角に交わっている“等方性”が保たれていることを示している。つまり、X、Y、Z軸を回転で入れ替えても晶系が変化しないという対称性の美しさを保持するもので、正六面体、正八面体、斜方十二面体、正十二面体、偏菱二十四面体、四十八面体などが挙げられる。

 

 

 この標本は、小さなガマの中に、方沸石の結晶がポツンと一つだけ置かれたチャーミングなもの。写真ではわかりずらいが、結晶面は明瞭で完全な偏菱二十四面体を呈しており、上の図で言えばちょうど右端の形で、通常のザクロ石と同じ晶形でもある。結晶内部も結構、透明で、光にかざすと結晶の内部と表面が互いにキラキラと輝いてとても魅惑的で見飽きることもない。

 この輝きというか透明感は独特で、魚眼石のようでもあり、ダンブリ石のようでもあり、なんとも言えない柔らかな瑞々しさに溢れていて、ガラスや水晶のそれとは明らかに趣を異にしている。それは、無垢の透明感にごくごく薄い白色のベールが全体に被さっているためであると思われるが、口でなかなかその表現ができにくいので、来訪者の方には標本を見せながら、「昔、ゼロ戦のプラモデルを作ったことがありませんか?部品の中に透明な“風防”部分があったでしょう。単なる透明なプラスチックなのに妙に美しく透き通っていて魅惑的に感じませんでしたか?ボクはいつもあの色を思いだすんですよ。」といつも言ってみるのだが、大抵の人は「ああ、成る程ね。確かにあの色ですね!」と納得していただける。