石炭(亜瀝青炭)

  

 

 石炭といえば、西日本では、福岡県の「三池炭田」「筑豊炭田」、山口県の「宇部炭田」などが著名であるが、四国でも戦前戦後にかけて小規模な炭坑が各所に稼行されていた。この石炭は、愛媛県松山市南方にあった「四国炭坑」産のものである。地質は、三波川帯を覆う古第三紀始新世の「久万層群」に属し、1000〜1500万年前と考えられる。このころから石鎚山周辺は火山活動が活発であり、古石鎚(今の石鎚はまだない)から流れ出る火砕流によって炭層が形成されたと考えられている。「四国鉱山誌」によると、産状はあたかも原木がそのまま立ち枯れのように炭化した“樹炭”が特徴的で、この部分は石炭規格( JIS M 1002 )でDに属する亜瀝青炭ということである。亜瀝青炭は、無煙炭(A)、瀝青炭(B,C)に次ぐ発熱量 8000kcal/kg程度の品質で、まあ、“中の上”といったところであろうか。しかし、標本を見ると、ツヤツヤとした黒光りする漆黒の色合いや、はっきり同定できる年輪など、“黒ダイヤ”と名付けてもおかしくない風格を有している。燃焼させても、ほとんど灰分を残さないということである。

 

 面白いのは、その灰分の中には、ゲルマニウム(Ge)が含まれているということだ。現在、Geを含む植物といえば「朝鮮ニンジン」や「サルノコシカケ」などが挙げられる(これも相当インパクトがあるが・・)が、当時の土壌にはGeをはじめ、豊富なミネラルが多量に含まれており、今の土壌成分とはまったく異なっていたそうである。太古の植物が巨大であるのは、そのようなミネラルをたっぷりと取り込んでいたからだと解く人もいる。その真偽はともかくとして、今も健康グッズとして、この鉱物に対する熱狂的とも言える信仰が盛んなことを思うと、なにがしかの神秘さを感じざるを得ない。小生の世代には、Geはまた格別の愛着もある。小学生の頃、“最新”の「ゲルマラジオ」や「ゲルマ検波器」などは憧れの的であった。親にねだって買ってもらった、電池もいらない小さな魔法の箱から聞こえる微かな音を、宝物のように深夜の布団の中で聞いたものである。最近はシリコンや発光ダイオードのGaAs化合物にお株を奪われてしまった感のあるGeではあるが、その“ゲルマニウム”という響きには、小生にとって健康グッズと同じくらいの神秘さを、心地よい郷愁とともに感じることができるのである。