キースラガー(野村鉱山)

  

 

 愛媛県東宇和郡野村町、野村鉱山のキースラガー。まあ、何の変哲もない低品位の銅鉱石である。強いて言うならば、当鉱山が古生層に属する珪岩、砂岩、粘板岩の累層からなる秩父帯にあって、マンガン鉱床と共存しているために、母岩がマンガン鉱やチャートになっているということであろうか?しかし、これとても野村鉱山より高知側に位置する名野川鉱山や東向鉱山、三波川帯と秩父帯の境界にある大久喜鉱山にも見られ別に特異的なものではないが、日頃、緑色片岩の母岩に見慣れている小生にとっては、ちょっと目新しく、いつまで見ていても飽きない面白さがある。

 さて、銅についてはさることながら、野村鉱山は四国一、金含有量が多い鉱山として有名であった。秩父帯に属するキースラガーは、三波川帯に比べて金銀量が多いのが特徴となっているが、野村鉱山はその中でもダントツ一位である。ちなみに金含有率については「日本鉱産誌」1955年の資料として、野村鉱山15g/t、名野川鉱山2〜5g/t、東向鉱山12.5g/t、大久喜鉱山4g/t、別子銅山0.3〜0.7g/t、佐々連鉱山0.3g/t、白滝鉱山0.1〜0.5g/t となっている。金山として有名な北海道の鴻之舞鉱山が2〜10g/t、九州の鯛生鉱山11g/t、串木野鉱山3.5g/t 程度であるから、金山としても決して引けを取らないということができる。実際、当時は銅山としてより金山として有名であったが、キースラガーから金を抽出するには相当の技術が要るため、別子や白滝など大企業による大鉱床であればいざ知らず、小規模な野村金山が生産ラインに乗れたか否かは定かではない。

 小生も金含有量の高さを信じて何回もルーペでなめるように見回すのであるが、金の微粒やエレクトラム的な存在証明は未だ果たしていない。あくまで鉱物愛好者のロマンの中で活きる鉱石のひとつであろう。