瑪瑙(メノウ)

  

 

 小生の生まれ育った町、香川県坂出。今は遠い町になってしまったが、それでも実家に帰省する度に楽しみにしていることがある。それは、毎朝、町の背後に聳え立つ?「角山」への朝メシ前の早朝登山。標高わずかに184m。人はそれを称して「イヤシの山」と呼ぶ。山頂まで一直線に伸びる登山道は結構キツいが、それでも登り詰めると、そこからは苦しさを忘れさせてくれる瀬戸大橋や讃岐富士の大パノラマが眼前に拡がり、まさに絶景である。角山は、中腹から山麓にかけてはカコウ岩、山頂部のみ安山岩が露出した典型的なビュートで、その境界部からは白い「蛋白石」が、雨上がりの後などにときたま拾えるのも、登山の密かな楽しみのひとつとなっている。ここの蛋白石については、郷土史家であられた伊達伍先生の遺稿集に詳しい解説があり、改めて記するまでもないが、質は悪いものの透明感のある乳白色の石ころは、カコウ岩や砂岩ばかりの当地ではとても異質な存在であり、こどもの間では絶大の人気を誇っていた。土曜日の午後ともなると、どこからともなく学校帰りの悪ガキどもが現れては血眼になって太陽に透かしつつ出来るだけ透明感のある石を探し出し、お目当ての女の子にプレゼントしていたものである。「・・だった。」と過去形で書いたのは、あくまで小生が小学生の頃のことであり、今はもう知っている人も少ないだろう。第一、当世の子どもは好きこのんで、そんな苦しい山に登って遊ぶこともないだろうし、したがって、まさか足下にそんな宝石?が転がっているなど気づくはずもないからである・・。

 

 一方、写真は、愛媛県温泉郡川内町産出の「メノウ」。同じシリカ系鉱物でも、美しい縞模様が作り出す正真正銘の「メノウ」の趣は、さすがに愛媛の鉱物!!角山のただの白い塊とは、ちょっと“格”が違うと言った印象である。写真ではわかりづらいが、乳白色のうえに、全体に薄い青紫のベールを纏った神秘的な色合いは惚れ惚れするほど美しい。言うまでもないが、縞模様のあるものを「メノウ」、単色のものを「玉髄」、塊状の非晶質のものを「碧玉」と称し、成分はすべてSiO2 である。これに水分が膠状に混在して固まったものを「蛋白石」、特に美しく虹色に輝くものを「貴蛋白石(オパール)」と呼んで珍重している。日本では、有名な「宝坂」以外に宝石となるオパールを産出する場所はないが、それに匹敵する部類は至る所で見いだされている。ただ“リス”が多いのが“玉にキズ”ではあるが、小生も「愛媛石の会」巡検で訪れた佐賀県平戸市船越海岸の「玉髄」を、記念のためタイピンに加工して愛用している。

 「愛媛の鉱物」には、川内町の玉髄として、「1.白〜灰白色の塊状またはぶどう状のもの、2.内部にこまかい縞状〜層状のもようを示すもの、3.青灰色〜紫紅色でオパールに近いもの、4.青緑〜暗緑色で碧玉に近いもの、5.結晶質となって水晶の集合体をなすもの、6.安山岩のせまい隙間をみたす脈状〜膜状のもの」(水舟淑朗氏)と分類して紹介している。

 これらが採集できる白猪、唐岬(からかい)の滝は、かの漱石が「滝五段 一段ごとの 紅葉かな」と俳句に詠んだほどの名所。風雅の極みである滝と紅葉を愛でながら、美しいメノウまで拾えるとは、これまた趣味冥利に尽きるというものであろう。