別子銅山の銅鉱脈は黒色片岩の地層内に存在している。上下の黒っぽい母岩部分が黒色片岩である。右上の緑っぽい部分は、点紋塩基性片岩と呼ばれ、これも鉱脈を形成する岩石の一種であるが、この鉱石では、あたかも鉱脈の中に小石が一つ埋め込まれたような形で存在している。このような形態を、「中石」または「中山」という。例えば、川の流れを鉱脈とすれば、中石は、流れの中に顔を出している大岩のごとき存在である。凄まじい地殻変動の際に、異なった地層の一部が引きちぎられ、他の地層に捕獲された姿である。単に層状に堆積している状態でないことは、下部の黒色片岩のヘアピンに曲がる微小褶曲がよく物語っている。中石の近辺では、鉱石の高品位化がしばしば見られる。この標本でも、斑銅鉱とまではいかないが、他の硫化鉄鉱部分より、黄色調に強く光り輝き、黄銅鉱に近い状態であることが理解していただけるだろう。
この標本の面白さは、その自然の造形美にある。点紋塩基性片岩部分は菊座、下部の微小褶曲部分が流水、含銅硫化鉄鉱部分を金箔地に見立てて・・・九谷風のダイナミックな色合いによる、金屏風に描かれた、嗚呼!大楠公「非理法権天」の旗頭!・・・「菊水」と銘付けてみた。