これは別子本坑28番坑道産の含銅硫化鉄鉱標本である。28番ほど下部になると、実に海面下700m余り、地熱は50度を越え、鉱石の品位も次第に低下してくる。最下底は32番坑道であるから、鉱山終末期に採掘された鉱石と考えていいだろう。それでも、品位の良好な黄金色部分が縦横に走り、青色の錆も至るところ見られ、「さすがに別子銅山の鉱石だ!」と唸らせる毅然とした美しさを保っている。
この鉱石は、知り合いの先生のお父様が記念に持ち帰り、長い間、仏壇の中に飾ってあったものをいただいた次第である。なぜ、仏壇の中にあったかは、右側の写真を見れば、納得していただけるだろう。裏側の品位の良好な部分が輪状に褶曲して、あたかも仏様の光背のような輝きを放っているからである。「そんな大事なものを・・・」と一度はお断りしたが、「石の重さで仏壇がしなって仕方がないから、のけるつもりだった。ちょうどよかった。」ときっぱり!!謹んでありがたく頂戴した。しかし、ほかの鉱石と同列にしては、どうも寝覚めが悪いので、なけなしのお金で念持仏を置き、毎日拝む羽目となっている。