大正時代から昭和20年代まで、幅広く坑内で使用されたアセチレン灯である。これ以前は「螺灯」(または「メンサザエ」)や鉄ランプ(安知生ランプ)などのオイルランプであったため、それらとの輝度の差は著しく、大変重宝されて急速に普及したことは想像に難くない。アセチレン灯の内部は上下2室に分かれている。上室には水
(H2O)、下室にはカーバイト(CaC2)が入る。上から水がポタポタ落ちると、CaC2+2(H2O)→C2H2+Ca(OH)2 の化学式でアセチレンが生成される仕組みである。ツルツルに磨かれた反射板は今も鏡のように光り、アセチレンの輝きをさらに強いものにしたことであろう。便利になった反面、坑内での酸欠事故も多くなったと伝えられる。旧式のオイルランプは火力が弱いため、酸素が少なくなるとすぐに消えてしまうため、酸欠状態の良い指標であったが、アセチレン灯はなかなか消えないため、ついつい油断してしまうためであると説明されている。なるほど・・。しかし、アセチレン灯も次第に充電式ランプに取って変わられ、坑内環境の近代化とともに酸欠事故も激減していった。私たちが小さかった頃、夏祭りの夜店で点っていた明るいアセチレン灯の光り。その独特の匂いとともに、全ては遠い思い出の世界である。