高品位銅鉱石の代表格である「斑銅鉱」(Cu5FeS4)。銅の含有率は、黄銅鉱(CuFeS2)が40%前後であるのに対し、理想値で62.3%にも及ぶ。「輝銅鉱」や「安四面銅鉱」とともに重要な銅鉱石であるが、残念ながら、これのみが採掘の対象となるほどの産出量はない。別子銅山では、江戸時代から明治時代にかけて採掘された上部鉱床で豊富であったと考えられている。今日「紫蘇(シソ)ハク」「トカゲハク」(ハクはカネ偏に白と書く。鉱石のこと)と伝えられるのは、この斑銅鉱のことであろう。その名の通り、表面には赤、紫、青、緑などの斑紋が光り輝き、実に神秘的で、最初に見たときは「これが本当に銅鉱石なのか?」とすぐには信じることができなかった。
下部鉱床に進むにつれて、斑銅鉱の割合は少なくなったが、それでも、鉱石の一部が結晶片岩の片理を切って流れ出したような、いわゆる「はねこみ脈」と呼ばれる局部的な2次生成富鉱帯に多く存在していた。写真の斑銅鉱も、そのような「はねこみ」であり、母岩の結晶片岩とはクリアカットに境界されている(左下に白っぽく見えているのが母岩)。
銅山峰ヒュッテの伊藤玉男先生は「山村文化 23号」(平成13年5月発行)の「別子本鋪」という論文の中で「・・元禄三年の秋にはじめて別子銅山を見立た田向重右衛門等一行は、夜中かがり火を焚いて今の歓喜坑に掘り入り、紫色にさん然と輝く鉱脈を発見し、相擁して歓び合った・・」と述べているが、その紫色の鉱脈こそ斑銅鉱を示すものであろう。