輝安鉱1

 

 

 世界の「市ノ川鉱山」が誇る輝安鉱の標準的標本である。高さ23cm、多くの柱状結晶が縦横に交錯する様は、さすがに鉱物標本の女王たる貫禄がある。やや黒ずんではいるものの、鉛白色の独特の艶は、採掘されておそらく百年近い歳月が経ってなお、神秘的に光り輝いている。このような大きな標本は、セットウとタガネの手掘りによってのみ得られるものであり、昭和10年代後半から導入された発破採掘法では、こなごなになって、まず得ることは困難な代物で、それだけでも古典的価値が高い逸品であると言える。その独特の形から「銀狐」と銘々されていた。

 この標本は、愛媛県から持ち出さないことを条件に、新居浜で購入したもので、しばらくは苦しい家計のやりくりを余儀なくさせられたが、地元にこのような素晴らしい輝安鉱がまだまだ知られず眠っているのか、と思うと、こころの底から沸き上がる興奮を今も抑えることができない。兵庫県、生野鉱物博物館所在の「三菱鉱物コレクション」には遠く及ばないが、地元に散逸している標本を少しでも集めて後世に伝えることは、私たち愛媛県人の義務であると考えている。