ハク玉(輝安鉱)

  

 

 

 いわゆる輝安鉱の“川流れ”である。長年、水流に曝されているため、摩耗して丸みを帯び、輝安鉱本来の輝きも少し失われている。上流にある鉱脈の一部が、山崩れなどで谷に流出して流れついたものである。ハク玉についての話が「市之川地区の歴史」(西条市教育委員会編)に書かれてあるので、少し長くなるが、ここに掲載させていただく。

 「弥蔵さんの奥さんが、昭和9年の大水のあとで鉱石のたま石を見つけた話がある。

 坑口の近くの谷で、大きな黄色い石が流されてきているのを見つけ、持っていたカマでたたいてみると、中は全部ハク(鉱石)でキラキラ輝いていたのでびっくり仰天、弥蔵さんを呼びに行くと、「何をたまげたげーに、たわいもないことを、何ぞや」と出てきたが、正味まっこと鉱石のハク玉であることを認めた。いくつにも割って選鉱場の前庭に運び、しばらくそこに置いてあったのを、学校の子供たちも珍しいので見に行ったという。目方は100貫目ほどもあり、「さすが坑長の奥さんじゃ」とみんな感心していたそうだ。普通の人であれば、カマでたたいてみるようなことはしないものだ。」

 「弥蔵さん」とは、市之川鉱山の坑夫長を長年務め、その裁量は四国一といわれた矢野弥蔵氏(通称ヤーニィ)のことであり、市之川の“蟻の巣”のように入り組む地底のすべてを知り尽くし、今に語り継がれる逸話も多い伝説の人物である。伊藤勇先生編集「資料集 市之川鉱山」に残るヤーニィの話は、当時の市之川鉱山の様子を伺い知ることのできる、唯一の貴重な記録である。

 そんな訳で珍品中の珍品としてここに掲載する予定であったが、平成16年の水害で崩れた谷間に、ボツボツ、ハク玉がみつかるようだ。「愛媛石の会」のY氏とS氏が見つけたハク玉は一抱えもある大きいもので、まさに輝安鉱のかたまりで圧巻であった。わたしもそのおこぼれを頂戴した次第。一方、写真のハク玉は、以前に骨董屋から買い入れていたもので、結構、値も張ったのだが、完全にかすんでしまった。トホホ・・である。