輝安鉱2(母岩付)

 

これは輝安鉱の母岩付き結晶標本である。市ノ川地域は、ちょうど中央構造線上に位置し、「市ノ川礫岩」の存在で有名である。普通、愛媛県で見られる礫岩は、石鎚山系の子持権現や岩屋寺付近の岩峰群など第三紀層の摩耗した丸いものが主流であるが、市ノ川礫岩は、角張った、いわゆる淘汰されていない結晶片岩の礫岩が主体で、大断層に生じた割れ目を小石が埋め尽くす要領で、短期間に形成されたと考えられている。アンチモンの鉱脈は、これらの礫岩層を貫く数條の鉱脈から形成されている。鉱脈に沿ったわずかな間隙や空洞(ガマという)に美しい結晶が成長していくのである。

 この標本は、まさにガマの表面に成長しつつある結晶の状態を窺い知ることができる良品である。母岩は鉱脈の熱水作用でやや変成しているが、表面はビッシリと微小な水晶で覆われ、輝安鉱が縦横に這う形で成長している様子がわかる。「結晶は、ガマの中に横倒しの形で入っていた。」と伝えられるのは、このような形態であろうと推察することができる。一方、博物館などで、母岩にニョキニョキ生えている輝安鉱の大きな結晶を見かけるが、あとで人工的に両方をくっつけた創作品がしばしば見られるので注意を要する。