長さ20cmの単晶標本である。海外からの里帰り品で、最近、鉱物専門店の通販で入手したものである。市ノ川産輝安鉱は、明治時代から、おびただしい数が高値で取引されて海外に流出した。現在も、国内より、海外の博物館やオークションで立派な標本にお目にかかれるというのも皮肉なものである。「国内のまっくろに変色した結晶を博物館でみるにつけ、海外で保存されているほうが、標本のためにはよかった。」としばしば言われるが、負け惜しみのようにも聞こえて、一抹の寂しさを感じざるを得ない。確かに乾燥した環境がいいのか(あるいは保存方法が優れているのか)、里帰り品には艶やかな鉛白色の輝きが見事に保たれてはいるが・・・。
今から2年ほど前、東京の専門店で、これより一回り大きな単晶標本を見たことがある。頭は失われていたが、柱面も整い、30cm弱の太い結晶で、黒ずみも全くなく、キラキラと銀色に輝いていた。東欧の某機関からの放出品(多分、混乱のどさくさに売り飛ばされたのでは・・)とのことで喉から手が出るほど欲しかったが、残念ながら、売約品であった。しばらくして、新居浜の「愛媛県総合科学博物館」で再会したのには驚いた。地元の博物館でも、里帰り品に頼っているのが現状のようで、なかなか地元調達が困難な現実を垣間見たような気がした。しかし、ここは”世界の”市ノ川鉱山のお膝元である。さらなる熱意でもって、国内外の逸品をもっともっと蒐集していただきたいと願っている。