輝安鉱6

 

 市ノ川鉱山「大平見坑」産の結晶を3本、セメントの台に固定した標本である。輝安鉱の他に、黄鉄鉱、カラミなども散りばめ、なかなか賑やかな装いを呈している。輝安鉱は、先端の「あたま」まで整い、結晶成長の様子を知ることができる。特に前側の背の低いものは、見事な斜方晶系を示し、明治時代から、和洋の鉱物書にも記されている典型的な標本である。輝安鉱の錘面や柱面の多彩さは他の鉱物より群を抜いており、それゆえにいつまで眺めても飽きない面白さを有している。

 この標本は、いまから20年ほど前に、伊藤春見氏から愛媛労災病院のM先生に寄贈されたものである。伊藤氏は、市ノ川鉱山の採鉱に携わっておられたはえぬきの方で、現在も「市ノ川鉱山跡」の保存運動を熱心に展開されている。寄贈されて以来、昨年まで病院の外来に置かれたままであったのは驚きである。よくなくならなかったものだ。数名の看護婦さんに、これが何か問うてみたが、首をかしげるのみであった。しかし、患者さんはよく知っている方もおられ、「うわ〜、珍しいものがありますね!」と以外に好評だったとの事である。花などを診察室の片隅に置いている病院は多いが、アンチモンの結晶を飾っている所は少ないのではないだろうか?さすがは鉱山のお膝元である! M先生もすでに退職されたので、許可を得て「山の会」で保存することになった。過日、伊藤氏に会う機会があり「大平見坑」産であることが確認できた次第である。「あれは、とてもいい標本です。大切にしてください。」と付け加えられた。