市ノ川鉱山は、市ノ川礫岩層や隣接する三波川帯の石墨片岩層を貫く、数条の熱水鉱床から形成されている。ほとんど輝安鉱のみの単独鉱床で、少量の黄鉄鉱、炭酸塩を伴うのみで鉛、亜鉛、銅などの随伴はないとされている。ガマの中に成長する「マテ」と呼ばれる結晶群は別として、一般的な鉱石は、写真のような熱変性した母岩の裂隙を満たす塊状、層状の脈石として採掘された。随伴鉱物が少なく、融点が低いというのは、選鉱や精錬が比較的容易であるということであり、奈良時代から鉛や錫の代用品である「白目」として採掘されたと伝えられるのも肯ける。最近は日本最古の貨幣である「富本銭」にアンチモンが含まれていたことや、正倉院にアンチモン塊が保存されていたことなどが解明され話題も多く、これからも研究対象として人口に膾炙し続けることであろう。
最近は見つかりにくくなっているとはいえ、根気強く鉱山周囲を探せば、まだまだ、このような鉱石を採集することは可能である。がんばっていただきたいが、古いズリ場や坑道跡は、暖かく空間も豊富なため、マムシやスズメバチの巣窟となっていることが多いため、夏場は充分注意してほしい。