五良津谷での自己採集品である。2001年1月8日。半日の余暇を利用して五良津に出かけ、変成鉱物を見つけようと意気込んでいた。五良津谷は、東赤石〜峨蔵山系の角閃岩やカンラン岩、エクロジャイトなど、さまざまな高温高圧下で生成した岩石がゴロゴロしている。それらの母岩に包胎する珍しい鉱物は数十種に及び、全国から研究者やマニアが訪れるちょっとした石の”メッカ”となっている。川原に降りると、そこここの岩が割られ、空き缶が散乱して先人の多いことに今さらながら驚く。そんな状況で、目当てとする「点紋角閃岩」も最近はめっきり少なくなってしまった。3時間近く寒さに凍えながら粘ったが、大した収穫もなく力を落として帰ろうとした時、ふと足下に転がっている貴重な「点紋角閃岩」に眼が留まった。何気なく拾いひっくり返してビックリ、強い金属光沢を発する赤黒い鉱物がくっついているではないか!明らかにザクロ石とは異なるテカテカした色合い、特徴的な2方向の劈開が認められる。「ルチルだ!」・・嬉しくて嬉しくて、誰もいない寒風吹きすさぶ谷間で、独り万歳を三唱した。
五良津谷のルチルは、角閃岩を横切る石英脈に、四角柱状や針状で入っていることが多いが、結晶が大きくなると、ザクロ石のようなコロコロした塊状や棒状の産状を呈する。「桜井標本」や「高標本」のルチルは徳島県眉山(絶産)のもので、日本を代表する素晴らしい結晶であるが、ここ五良津も決して負けてはいない。いつか眉山に匹敵する、いや、それ以上の巨大ルチルが見つかるものと確信している。だからこそ、仲間から呆れられバカにされようとも、何回も何回も飽きることなく「五良津詣で」を繰り返しているのである。