灰クロム石榴石

 

 黒いクロム鉄鉱に付随する「灰クロム石榴石」である。愛媛県では赤石鉱山のものが有名で、木下亀城先生の「原色鉱石図鑑」や益富地学会館の「日本の鉱物」にも紹介されているが、残念ながら今までお目にかかったことがない。五良津できれいな「鉄礬石榴石」や「苦礬石榴石」を手に入れると、次はどうしても「クロム石榴石」が欲しくなるものだ。その日本離れした、目の覚めるようなグリーン色は四国でも最も美しい鉱物の一つであろう。

 この標本は、高知県高岡郡越知町の、安徳天皇伝説で有名な横倉山付近の仁淀川の河原に転がっていた転石である。この地一帯は「秩父帯」に属する石灰岩地形であるが、その古生層を貫く蛇紋岩中に胚胎する脈状鉱体として、付近に転々とクロム鉄鉱層が分布している。発見場所はちょうど「横畠」と呼ばれる場所であるが、「日本鉱産誌 T−C」(地質調査所編纂)にもクロム鉄鉱の試掘場所として記載されている。発見者(残念ながら私ではない)は、河原を歩いていて50mも手前から、周囲の物体より群を抜く目にも鮮やかなグリーン色に惹きつけられたように近づいていったという。持ち帰って、丁寧に磨いて木台をつけ、飾り石として大切に保存されていたものである。これだけ大きな標本は珍しいと思ったので、特に懇願して譲り受けた次第である。この「灰クロム石榴石」は脈状粉体で結晶はルーペを用いても確認することはできないが、濃い緑色と黒色のコントラストはとても美しく、よく似た「クロム透輝石」とは明らかに一線を画している。