ルチル
高知県本山町瓜生野産のルチルである。愛媛県土居町富郷から白髪トンネルを抜け高知側の狭い蛇行道を下って、汗見川の渓谷がようやく浅くなった辺り、桑ノ川への分岐にさしかかる場所は、結晶片岩と角閃岩の境界部になっていて、ここからルチルの面白い標本が採れる。「鉱物採集の旅 四国・瀬戸内編」には、「・・ 猿田峠の途中の桑ノ川は、かってルチルがみつかったことがあり、これは角閃片岩のなかのレンズ状石英脈に黄銅鉱と共に産し、長さ1〜3.5cmに達する柱状の結晶です。」と記載がある。まったくその通りの産状で、それ以上に付け加える必要もない。ルチル自体は小さいが奇妙に折れ曲がっており、黄銅鉱と混然一体となっている姿は、かってこの辺りに起こった凄まじい地殻変動の様子を今に伝えているかのようである。
「愛媛石の会会誌 創刊号(昭和56年)」にも、雨降る梅雨の夕刻、林道の切り崩しをびしょぬれになりながら、遂に角閃岩と石英脈の間の空洞に群晶するルチルを見つけた話が感動的に記されている(井出氏 記)。そのときのものと思われる標本が愛媛県立博物館に今も展示されているので機会があればご覧になるとよいだろう。
ルチルといえば嘗ては徳島県の眉山、最近は愛媛県の五良津や徳島県の高越鉱山産のものが一般に知られているが、普遍的な鉱物だけに、まだまだ隠れた産地が四国には点在するようである。
蛇足ではあるが、「愛媛の地学 宮久三千年先生追悼記念号(1983年)」には「桑の川と宮久先生」(加藤道男氏)という一文がある。先生もこの地を加藤氏と訪れることをとても楽しみにしていたらしいが、病のため遂にそれが果たせなかった悔しさが切々と綴られている。先生にとっても、四国のルチルの新鉱産地として遙かな憧れの地であったのだろう。