風信子鉱、ウラノトール石
高知県足摺岬のジルコン (ZrSiO4) である。小さいながら、その透明な橙緋色の色合いから「ヒヤシンス鉱」(風信子鉱)とも呼ばれる。風信子とはヒヤシンスの漢語であるが、涼しそうなその響きは一度聞いたら忘れられない。足摺岬には、昔、砂鉄を採掘した跡があるが、その砂をすくって“ふるい”にかけるとボツボツ見つけることができる。下の写真はヒヤシンス鉱に混じるウラノトール石 (Th,U)SiO4 である。スケールは1mm、余りにも小さくてうまく写真が撮れなかったが、実際には透明な緑色がとても魅力的な美しい結晶だ。ルーペで覗くとその輝きはさらに倍増する。さすがはダイヤモンドの代用をも勤めるジルコンである。こころみに我が愛用のガイガーカウンター「ベータちゃん」も一応あてては見たが、標本が小さすぎるのか有意な放射能が測定できなかったのは残念!「鉱物採集の旅 四国・瀬戸内編」にも、「ジルコンは肉眼でも見える1mmくらいの短柱状結晶で、オレンジ色のいわゆるヒヤシンス種という美しいものが多く、また一部には黄色不透明のもあります。この方は放射能のために変質したもので、メタミクトの状態とよばれます。またウラントール石はジルコンよりずっと小さく、0.1mmくらいの緑色結晶です。」と記載がある。今はあまり話題になることもないが、四国を代表するもっとも美しい鉱物のひとつとして、いつまでも大切にしたいものである。
足摺岬は「空海」の遺跡。四国第38番霊場の金剛福寺は彼の観音菩薩に対する集大成であり、海の彼方「補陀洛」への入り口でもあった。嵯峨天皇は空海の報告に基づいて「補陀洛東門」の称号を寺に与えている。しかし、高中健氏の作品「土佐のショートショート」に収められる「空海哄笑」はまた違った味わいをわれわれに与える。ぜひ一度ご高覧いただきたいが、ウランとウラノトール石の奇妙な一致や、空海が朝廷から命じられた鉱山師だったことなど説得力は充分にある。そしてなんと空海の子孫が足摺にいる!!??という・・・これはもう「ダ・ヴィンチ コード」顔負けの大スキャンダルであるが、高中氏の文章を読むうちに、まったくの荒唐無稽と思えなくなるのが不思議だ。さらに男が持っていた空海から最澄への手紙、これがかの「風信帖」であると気づいたときは、得も言われぬ神秘的な感覚に撃たれたのだった。