オイルクォーツ(石油入り水晶)

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 高知県の石灰岩地帯からは、石油と思われる有機物を含有した珍しい水晶が採れる。一般にはオイルクォーツと呼ばれるものである。

 この標本は、高岡郡佐川町産のオイルクォーツである。佐川町付近は、秩父古生代層や鳥巣統など複雑な地質が入り乱れ、一部に火成岩類の嵌入も混在し、その熱変成によるホルンフェルス化した石灰岩も見られる。そのような石灰岩の小さな割れ目に沿って米水晶が群生しているが、普通の水晶と違って、煙水晶のようなくすんだ茶色をしているのが特徴である。残念ながらパキスタンやアフガニスタンなど外国産のオイルクォーツにみられるあたかも水入り水晶の如きオイルの包胎物は観察できないが、ミネラライトを照射すると、かすかに蛍光を発するので、それと知ることができる。しかし、これとても外国産のような強烈な光ではないので、よく観察しないと見逃してしまうほどの微弱なものである。(下写真はパキスタン産のオイルクォーツとその強い蛍光像。    iStone より転載 )

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 皆川先生は「四国産の紫外線発光鉱物」(愛媛石の会会誌 第6号(1996年12月 発行)所載)で「rock crystal 水晶・・石油質の包有物が光る。微細な包有物を含むため水晶全体が発光する場合がある。2cm以下、鳥巣石灰岩、泥質岩の割れ目に産する。  石油・・鳥巣石灰岩の空孔は軽質油で充たされていることがある。ほとんどの場合淡く発光する。」とあるので、ここのオイルクォーツは昔から有名であったらしい。以前に先生に訊いてみたところ、「産地ではゴロゴロ転がっていましたよ。今でも、そんなに苦労しないでも見つかるんじゃないですか・」とのことなので、夜、ミネラライトを片手に採集すると案外たやすく見つかるかもしれない。しかし、地元の人に不審者扱いをされても、小生は一切関知しないので、その点、予めご承知のほどを・・

 それはともかく、光っているのはとにかく石油らしいが、発光の機序はあまり詳しくはわかっていないそうである。おそらく石油が高温の状態で水晶に包埋されるときに変性して、ある種のパラフィン質の有機蛍光物質に変わったのであろう。実際、工業分野で生産される各種の蛍光物質は、石油を原料に作られることが多いという事実をみても、それをある程度、納得することはできよう。

 

 本産地に接して石油の油徴が観察されていることも見逃すことができない。「日本地方鉱床誌 四国地方」には、「・・佐川町の鳥ノ巣付近の徴候地には、中生代ジュラ紀のいわゆる鳥ノ巣石灰岩層中にあり、瀝青質物の小塊を含有し、打てば石油臭を発散する。また高橋純一、山内信雄(1922)によれば、石油は淡褐色の軽質油にして揮発しやすく、同時に少量のアスファルト物を伴うと報ぜられている。昭和16年、野村産業によって、本層の東北〜西南方向の背斜軸部にボーリングを実施し、深さ300m弱に及んだが不成功に終わった。」とあり、現在の技術を以ってすれば、まだまだ油田の可能性もあるのではないかと、小生などは秘かな期待を抱いてもいるのだが・・

 

 このように、佐川町は化石有り、石油有りと古生物研究には非常に興味深い場所であり、古くはナウマンや江原真伍博士以来、百年になんなんとする探求が今も続けられている。町内には非常に充実した「佐川地質館」もあって、全国から熱心な化石研究者が日々訪れている。小生も数年前にここを訪れ、特に日本地質学の祖であるナウマン博士のコーナーには深い感銘を受けた。ナウマン象をはじめ、わが国の運命線である「中央構造線」や「フォッサ マグナ」の命名までもが彼に由来することを思うとき、明治初期、それもわずか9年の滞日期間のほとんどを全国の情熱的な研究行脚に費やし、たったひとりで日本の複雑な地質構造をほぼ解読した若きナウマンの比類なき才能と偉大さを改めて感ぜずにはいられない。

 

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Heinrich Edmund Naumann (18541927)

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