含銅硫化鉄鉱
基安鉱床は、緑色片岩中に包胎し、主として塊状鉱からなり、縞状鉱は少ないとされている。鉱石は黄銅鉱、黄鉄鉱、磁鉄鉱と比較的単純であり、スチルプノメレンや緑泥石などを伴っている。もともとは一枚の鉱体であったと思われるが断層が各所で発達して鉱脈は寸断されている。基安鉱山付近は700mに及ぶ分厚い緑色片岩の地層内であるため、別子のような黒色片岩や石英片岩は見られず、その意味では比較的単純な鉱床であるといえる。さらに隣の黒滝鉱山は、一枚の鉱体が断層もなく連なっており、鉱床形成後の地殻変動の影響がほとんどみられない、四国では貴重な鉱床であると言われている。
標本は、キースラガーが磁鉄鉱に挟在して連なり、磁鉄鉱の外側には緑色片岩がみられる。鉱体はザクロ石と思われる赤っぽい中石を回り込むように続いているのがわかる。それは、あたかも分泌脈のようでもあり、別子ではこのような分泌脈に、黄銅鉱や斑銅鉱に富む局所的な富鉱部を形成し「はねこみ」と呼ばれている。残念ながら、この標本では分泌脈の富鉱化は見られないようだ。
しかし、小さいながらこの標本は、大きな鉱床をギュッと凝縮したような多彩な面白さを有しており、わたしのお気に入りの一品である。