新居浜市立郷土美術館

  

 

 わが愛媛県新居浜市の「新居浜市立郷土美術館」。市役所と消防署に挟まれた旧市廰舎を再利用しただけの古びた建物である。その3階部分に「鉱物展示室」がある。特に「・・・博物館」などの表示もないため、まず地元の人以外には知られることもない秘湯的存在であろう。美術館と一緒というのもいささか違和感がある。しかし、そこに展示されてある鉱物は質量ともに満足できるものである。かって別子銅山稼行中に住友から寄贈された立派な銅鉱石のかずかず。あるいは稲見馬治郎先生をはじめ郷土の先賢がみずから採集された貴重な鉱物標本、さらに加藤道男氏など「愛媛石の会」会員から寄せられた「槙の川」の素晴らしい沸石類など、およそ郷土の鉱物地質を知るためのほとんどの資料が揃っている。どこかの、建物ばかりがやたら立派な公立博物館とは大違い!・・さすがは鉱山のお膝元だ!さすがは新居浜だけのことはある!!と訪れる人々の限りない賞賛の言葉に包まれて、鉱物類もかっては栄光に光り輝いていたことであろう。・・・しかし・・・

 別子銅山閉山から35年。新居浜も、普通の地方都市に落ち着いて、鉱物といったところでそんなに取り立てて話題にしてくれる人もいない。別子の歴史を知ろうという市の啓蒙活動は、駅周辺の再開発計画とマッチングさせて盛んではあるが、この一角は忘れ去られている感が強い。市役所のすぐ横なのに・・・それを象徴するが如く、空調設備もない最上階の夏の展示室は、ブラインドも一部壊れて直射日光も入り放題で地獄に近く、雨の日には雨漏りの音も盛んである。このような環境下で何十年も放置すれば、どんなに立派な鉱物もどのような末路を辿っていくかは推して知るべし、である。小生は、よく寄せられる輝安鉱などの問い合わせには次のように答えるようにしている。「西条市立郷土博物館には、世界重要鉱物標本に登録されている最良の輝安鉱がありますので、ぜひ見学してください。保存状態も紫外線カットガラスや照明制限などで万全です。逆に、直射日光に曝されて炭のように変色した最悪の輝安鉱標本がおとなりの新居浜市立郷土美術館にありますので、あわせて見ていただけるよう希望します。輝安鉱は保存の仕方がもっとも重要です。」と言うように・・・。

 ウェブのフリー百科事典「ウィキペディア」にも、「所蔵品の内容や調査・研究に対しては不十分であるという意見が多く、また建物が古く組織も弱いことなどの問題もあり美術館と呼べる代物ではなく単なる資料館だと言う批判もある。それゆえ芸術文化の充実・発展を目指して新美術館を建設しようという動きは以前からあり、最近では新居浜駅前再開発のエリアに総合的な芸術文化施設を建設する計画があるものの、いまだ具体化していない。」といみじくも看破されているが、2004年の大水害の復旧で市の財源が破綻寸前の状況であることを鑑みると、新しい博物館を建てろ!というほうがおよそ無謀というべきだろう。むしろ当展示室は「どんなに立派な鉱物も保存が悪ければこうなるんですよ!」という警鐘を打ち鳴らして世の中の人に知らしめるために、現状維持こそが、逆説的ではあるがきわめて有益な施設とも言えるのではないだろうか!・・・ちょっと寂しいが・・・

 

  

 

 そんな中で、2006年春に、市役所の木村氏が中心となって、展示室の模様替えを行ったと聞いている。氏のような若い熱心な有志の存在は心強く貴重であり、素晴らしい新居浜の鉱物資料保存と保全のため、おおいに頑張っていただきたいとこころから願う次第である。遠く、秩父の山裾より「愛媛石の会」の一員として精一杯のエールをお送りしたいと思います。