徳島県徳島市南部、園瀬川に面した広大な丘陵地に博物館はあった。「文化の森総合公園」と名付けられた広大な敷地には、美術館、図書館も併設され「とにかく大きい!」の一言に尽きる。あまりの巨大さに博物館の入り口さえわからず、図書館前で掃除しているオジサンに「博物館はどこですか?」と聞いてしまう始末・・・やっとのことで二階の入り口に辿り着き、綺麗なおねえさんに200円を払って入場。期待はなんといっても日本有数の大きさを誇る眉山産ルチルの巨大結晶、高越鉱山の斑銅鉱などなど、徳島県特産の鉱物である。
博物館の構成は、地球のおいたちと有史の時代順となっており、教科書的でわかりやすい。「四国の生い立ち」ゾーンでは、名西郡神山町折木鉱山のキースラガー鉱がまず一品。まあ、”並”の標本である。次は何かな?と期待を膨らませつつ見てゆくが、その後、部屋は次第に歴史博物館の様相となり、そのまま出口が見えてきた。「ウソだろ!?」と一瞬あわてて、横を見ると「部門展示室」の表示。ホッとしながら、遂にルチルとご対面だ!とはやる心を抑えつつゆっくり見て回るが、そこに並んでいるのは、本当に”立派”な外国産鉱物ばかり。片隅に、写真のような、先端はあるもののすでに光沢を失った「市之川鉱山」の輝安鉱がただ一本、けなげに一生懸命、万丈の気を吐いているのみだった。「・・・・」言葉も失って、しばらく茫然と思案にくれた。
地方の博物館の役割とは何だろう?と考えてみる。子供の啓蒙施設として、わかりやすく世界的な標準標本を並べることは重要なことだ。それはわかる。しかし、それ以上に、これが徳島だ!という「地元」を一般に披露する役割が大きいのではないだろうか?私たち鉱物に興味を持つ者にとって、先に述べた眉山の「ルチル」や「紅簾石」、有名な「ふいご温泉」の由来となる名越鉱山の良質な「斑銅鉱」、平均銅含有量30%という途轍もない高品位な祖谷鉱山の「黄銅鉱」、徳島県では珍しい相生鉱山の「輝安鉱」、さらに最近注目されている高越鉱山のエクロジャイトなどなど、実際に此の目でみたい徳島県産鉱物は山ほどあるが、これらを一堂に見学できる場所はと問えば、やはり県立博物館しか思いつかないのだ。子供たちにとっても、たとえ見栄えが良くなくても、地元の鉱物の持つ不思議な魔力は、外国のどんなに立派な結晶標本より強烈な印象を与えるものと確信する。それが真の科学教育というものだろう。カール リッテル曰く「如何なる郷土にも全地球を学ぶに必要な全ての材料あり!」と。もし、収蔵庫に納めたままの地元産鉱物があるのなら、ぜひ、できるだけ多く常設展示していただきたいと思う。もし、現在ないと言うのなら、建物にかける費用を極力少なくしても、地元に眠る素晴らしい標本を少しでも買いあさってもらいたかったと悔やまれる。愛媛県もそうだが、まだまだ地元にはお宝を”隠し”持っている人が以外に多い。今後の、学芸員の方たちの蒐集の熱意に大いに期待したい!!と願うのみである。