徳島県麻植郡山川町にある高越鉱山産のルチル(金紅石)である。ルチルの構造式は、
TiO2で重要なチタンの鉱石であるが、日本でこれを目的に採掘されるほどの産出量はない。しかし、徳島市眉山産の巨大なルチルは世界的に有名で、「桜井鉱物標本」の中には素晴らしい結晶の写真が誇らしく掲示されている。高越鉱山は徳島県屈指の銅鉱山。明治時代からの産銅量は3万トンを越えたが昭和46年に閉山。現在は「こうつの里」として、温泉やバンガロー、テニスコートなどが整備され、保養施設として再生している。ここの母岩である藍閃石結晶片岩にルチルは含まれている。産状は愛媛県土居町の五良津谷と同様で、結晶片岩を横切る石英脈に、強い金剛光沢を放つ四角柱やコロコロした結晶体として産出する。この標本は、東京の鉱物専門店で購入したものだ。私自身も昨年夏、現地にいってみたが、季節がら蛇を恐れてゆっくり鉱物採集できなかった。かろうじて黒変した磁鉄鉱を手にしたのみだ。通販の目録には次のように記されている。「・・結晶片岩中にはところどころ石英に富む個所があり、これを割ると稀にルチルが入っている。徳島市の眉山のルチルが有名だったが、絶産となった。古井戸に水絶えずというが徳島県の結晶片岩帯の各地にルチルは存在するようである。本品も入っていますよという程度の品だが、徳島産ということで紹介することにした。」と、とても控えめの表現だが、その強い金剛光沢は私たちを惹きつけて止まない強烈な魅力をも放ち続けている。