第1回東洋医学研究会
開催日時「:平成26年10月31日(金)18:00〜
開催場所:十全総合病院3階研修室
内容
「風邪症候群に対する漢方処方」ツムラ株式会社 松山営業所 小原さん
風邪症候群に対する処方は、基本的に対症療法である。
成人の大半はライノウイルスによるが、小児の原因ウイルスはアデノウイルス、パラインフルエンザウイルスである。
発熱とは:ウイルス増殖を防ぐための免疫機構。マクロファージ、白血球が活性化する。
☆一般的な、西洋医学的対症療法では、解熱を目的とした投薬を行う。
しかし、漢方医学では一気に発熱させ、体温を上昇させることで、発熱している期間を短くする。
風邪には急性期(1〜2日)、亜急性期、慢性(回復)期(3〜7日)があるが、それぞれの時期に適切な漢方処方がある。
急性期:麻黄、桂枝(発汗、発熱を促す)
※麻黄は小児に使ってもよい。2歳未満は成人の四分の一量を処方。
妊婦には避けると無難。
亜急性期:柴胡(消化機能を整えながら、免疫力を回復させる)
柴胡には抗炎症作用があり、発汗も促進する。
慢性・回復期:補剤
この時期は、亜急性期の症状はないが元気もない。
補中益気湯など各症状にあった補剤を処方する。
抗インフルエンザ薬のタミフルは48時間以内に投与するが、漢方処方も同様である。
「風邪のひき始めの漢方薬」浅羽宏一先生
☆書籍紹介
「動物たちの自然健康法―野生の知恵に学ぶ」シンディ・エンジェル、紀伊国屋出版、2003年
・・・下痢してるサルは、黄蓮食べてた。→ベルベリンの発見
シュメール人(メソポタミア文明)の記録には「柳の皮で解熱」→アスピリン
こうした過去の経験則から、漢方処方の発見に至った。その経緯等を紹介している書籍。
神農(しんのう)が生薬を発見し、まとめた。著書「神農本草経」には365の生薬が記載されている。
「ギリシャ本草経」には295の生薬が記載されている。ヨーロッパは乾燥しているので、採取される植物の種類が中国に比べて少ない。
また、現代においてもPlant Hunterと呼ばれる専門家(薬剤師等)たちがアマゾンやインドネシアで新しい生薬を探している。
こうした植物由来の薬物探し2000年の歴史の中で、今や2000の生薬が発見されている。
こうした人々が発見し、植物から有効成分のみを抽出して現在も利用されている植物の例を挙げると、
・林檎の樹皮→SGLT-2阻害薬 ※樹皮のまま食べても下痢するだけ。
・ベラドンナ(美人、の意味)→アトロピン(瞳孔散大するので瞳が大きくなる)
・麻黄→エフェドリン
・大黄→センノシド
・甘草→グリチルリチン
・イチイ→パクリタキセル(乳がん治療薬) etc…
⇒植物から発見され、成分抽出されて西洋薬として広くつかわれているものがたくさんある!先人たちの試行錯誤の成果である。
こうした生薬を組み合わせて、方剤とする。
(例)甘草芍薬湯
芍薬:月経調整に使われる。筋肉をほぐし、血行改善。
甘草:エネルギー代謝亢進。主成分のグリチルリチン酸はステロイドと似た構造を持つ。
☆方剤は、生薬の持つ作用を掛け合わせて作られる。方剤の効能は、構成生薬の作用から考えられる。
つまり、漢方の処方も、サイエンスの考え方に則ることができる!
☆サイエンスの考え方:「いつ、どこで、誰が使っても、同じ効果が得られる」ことを重視。
生薬の組合せにより得られる作用の例
柴胡+黄苓 抗炎症作用
柴胡+芍薬 抗ストレス作用
芍薬+甘草 鎮痙、鎮痛作用
黄蓮+黄苓 鎮静作用
大黄+甘草 瀉下作用
沢瀉+猪苓 利尿作用
半夏+生姜 制吐作用
では、臨床現場における漢方処方とは?
☆(陰陽五行じゃなく)どの生薬にどういう効果があり、どういう患者さんに使うのかを学ぼう!
試行錯誤が大事
(例1)
桂皮(シナモン)は抗ウイルス作用、発熱発汗作用あり
これでも効果が出なければ、さらに甘草を加えることで、発熱発汗を促し動悸を抑える効能を持った「桂皮甘草湯」を使ってみる。
(例2)
桂枝湯 桂枝、甘草:微熱や寒気を抑える
芍薬、甘草:筋肉痛を治す
大棗、生姜:胃薬
生薬を組み合わせて、複数の作用を持たせて、患者さんの症状に対応する。
まとめ
☆医者が生薬の効能を知ることで、作用の加減を調節しながら処方することができる。
30個ほどの生薬が分かれば、ある程度の処方はできるようになる。それを目指して勉強しよう!