四国西南部・由良半島の暮らしを写した
貴重な写真集三部作が、復刊!
古くから人々に奉仕してくれた段々畑は、長い務めを終えて、いま、雑木に覆われた森の中で静かに眠っている。
そこで働いていたお百姓さんと、昔ながらの伝統行事を大切に守っている方たちを写し続けて半世紀あまり、お話を聞きながらスケッチのつもりで撮った写真が、今では貴重な記録になり、後世に伝承する役割をするとは思ってもいなかった。
私の写真集としては第三集となる『段々畑』は、激動した戦後の宇和島周辺の暮らしを、昭和30年代を中心に編集したものである。
当時は、戦前の古い体制から、思想と社会機構が転換した時期であった。昭和年号に近い年ごろの若者が集まると、いつも段々畑や海での労働のあり方、国の将来のことなどを熱っぽく論じあったものだ。
風化しかけた戦後の時代を写真と文章で偲び、家族みんなで対話していただければ、私にとって最高の幸せである。
B5判モノクロ 156ページ 布張り上製本写真 点数136点
作者による当時の状況を記した詳細な文章も掲載
生活物資が乏しく、質素、倹約は美徳とされた時代は遠ざかり、今は、不況といわれながら「国民よ、もっと消費せよ」と政府が奨励する飽食で使い棄てのご時世である。
文化度こそ進んだが、戦後の貧しさを体験していない今の若い人に、平和で豊かな現在の生活の有り難さの分かりようがない。過酷な労働の中で、ささやかな喜びを見つけて感謝の気持ちのあった昔の人とは、感じ方に開きがある。豊かになった分だけ幸せが増えたわけではなさそうだ。
段々畑の暮らしを撮影した当時は、都会で働く村出身の人たちが、貧しい田舎生活を見られて肩身の狭い思いをしないかと、発表を遠慮していた。今、若い人たちに写真を見せると、みんなが郷土に誇りをもち、都会の人がうらやむ世の中になった。段々畑で働く味のあるお百姓さんの顔を思い浮かべながら写真集を作り、激動した戦中、戦後をふり返ると複雑な思いがする。
これでやっと、郷土に住む写真人としての貢僅の一端を果たしたようで、肩の荷を下ろした気持ちになった。
私がお会いしたすべての方の御指導と御協力に、深く感謝しお礼申し上げます。 |